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Deeper than well  作者: 水素
第1章 妄念
3/42

1.2

「前回は磁場について勉強したと思います。物理において、『場』というのはとても大切な考えです。物理では力が働くとき、その力を伝える媒質というのを考えます。もし、媒質がないとすれば、例えば、二つの物体があってそれらがものすごく遠い距離を隔てている時、力が瞬時に伝わるということなので、距離によっては伝達のスピードが光速を超える場合があるかもしれません。でも、光より早く進むものは何であれ存在しないので、この考えはおかしいです。現代の物理ではこの空間があって、それを伝って、力が伝達されるという『近接作用』の考え方が主流になっています。そう考えたほうが、実用的な話でいうと、大学になって微分や、積分を使って物理の式を書き表すときに非常に便利なんですね。媒質は最初、エーテルでしたが、現在では『場』と言い、電気力を伝えるのは電場、磁力を伝えるのは磁場と言ったわけですね」

 物理の授業。電磁気学について熱く語っている女性の教師。赴任してから二年目を迎えていた留美蘭とまりみらん。ブロンド色(本人曰く地毛)の髪をシュシュで留めて、綺麗な頸が露わになっている。丸い瞳、卵型の顔、控えめな顎、女性的なS字のフォルム。そのどれをとっても人に美しいと思わせるには十分すぎる要素である。

 微は涎をノートに垂らしてぐっすりと伏している。見は羅愛を一瞥する。頬杖をついて、気怠げそうに窓の外を眺めていた。あまり、授業を聞いているようには見えない。それに留は気づいたのか、授業が進んで演習時間になると、その問題を黒板に彼女に解くように言った。

 荷電粒子の運動に関する問題である。すると、彼女は立ち上がり、チョークを手にとると、ノートや教科書などを何も持たずにすらすらと答えを書き始める。解き終えた頃には、辺りは騒然としていた。

 明らかに高校生が解いたとは思えない、微分方程式の並んだ解答であった。ローレンツ力とは、電場と磁場が働く空間で、それに垂直な方向に働く力のことである。高校ではベクトルを使わずに説明するが、大学では外積を使って説明する。これを用いて、微分方程式を立てることで、運動方程式として、初期条件を当てはめて、機械的に解くことができる。もちろん、そうした知識は高校の範囲を優に超えるが、羅愛はそれをものの数分で、淀みなく、的確に解答してみせた。

「とてもいいですね」

 留先生は高校外の解き方だとか、野暮なことを一切言わず、一言褒めた。

 彼女はお辞儀をし、席へと戻って行った。


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