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Deeper than well  作者: 水素
第1章 妄念
29/42

5.3

 ヘブンズヘル本社の大会議室には様々な国から有名な武器商人、政治家、兵器開発者が一同に集っていた。壁一面に広げられたスクリーン越しにリアルタイムの戦闘映像を視聴していた。

「タイプワンの庇護者を捕らえ、津田沼の研究所に連行しました。現在、部屋に閉じ込め、雇った傭兵たちに見晴らせています」

「御苦労だ」

 部屋に遅れて入ってきた結城から情報を聞き、社長は狡猾な笑みを浮かべる。万事上手くいっていることに鼻が高い。

「どうかされたのですか?」

 来席者である、ロシアの武器商人が言った。

「いや、こっちの話だ」

「そうですか。それにしても、FLASHの運用は問題なさそうですね。安全で、操作性も高いようだ」

「能力者も完全に圧倒されていますな」サウジアラビアの政治家が感嘆している。

「しかし、FLASHを使っているのも能力者のようだが、確かなデータと言えるのか?」

 訝ったのはオランダ国防省兵器開発研究所に勤める科学者だった。

「心配ない」

 居丈高に口を開いたのはテーブルの中央、スクリーンを背にして座っていた鎧社長だった。

「タイプファイブは、カードを使役できるとは言え、それだけだ。お配りした資料の通りだ。処理能力は大きく、人間の能力を逸脱しない。あくまで、これほどの処理を実現しているのはFLASHの性能と見ていただきたい」

「最大で一人でどれほどのFLASHを運用することが可能なんです?」中国の武器商人が質問した。

「十台だ。それらを、このデバイスで運用することができる」

 そう言い、隣に立っていた結城からメガネに似た装着型のデバイスを受け取り一同に見せる。

「これを頭に装着し、FLASHに搭載されたカメラを介して周囲を認識する。操作方法は頭で敵の攻略方法、戦闘プランをイメージするだけで、それに応じた動き、銃の切り替えを自動で行い、短時間で敵の制圧を可能にする」

「どうやって戦闘時に取得したデータに応じた戦術切り替えを行っているのですか?」

「そこは、苦労したが、その辺りは結城が説明してくれよう」

「はい、脳から得られる電気情報を、デバイスに搭載されているCPUのみで全てを処理するのは困難ですので、我が社には、全FLASHの処理演算量のおよそ半分をアシストするマザーコンピューターなるものが存在します。FLASHとコンピューターは独自の回線で各FLASHに接続されており、FLASHが取得したデータに応じてマザーコンピューターが逐一情報を検討・整理を行い、FLASHの動作にリアルタイムで反映させます」

「しかし、マザーコンピューターが占拠されると使い物にならないようにも聞こえるのだが」

「ご心配に及びません。マザーコンピューターの場所は一部の幹部、研究者しか知らず、独自のネット回線を用いているのでハッキングされる心配もありません。たとえ攻撃にあっても、核シェルターで固められているのでびくともしないでしょう。磁気遮蔽も万全です」

「これは革命だ。個人が戦争を起こすことだってできる」アメリカ共和党の議員が賛辞を送る。

「そうです。ご覧の通り、能力者を圧倒するほどの制圧力、戦闘力を誇るFLASHを使えば、わざわざ兵士を育てる必要もなければ、軍備強化に莫大な金銭を費やす必要はない。これだけで国の軍だって相手に取れる。これは魅力的な代物だろう」

「さすがVICEを作った企業だけのことはある。脳からの電気信号の処理速度限界を超えたとされる代物だ。FLASHも同様の理論が踏まれているということか」議員が言った。

しかし、刹那、会議室の空気が一変し、どよめきが起こった。彼らの見ている先はスクリーン。鎧社長は振り返る。衝撃的な映像が映し出されている。

「FLASHが全滅………」

 その時、会議室に社長秘書が入ってきた。社長は不快そうに睨みつけるが、秘書が構いなしに動揺した様子で近づいて、耳元で囁く。社長の顔色が青ざめる。

 唇から血が出るほど強く噛み締めていた。


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