4.7
社長室にて、結城は電話を切ると、鎧社長に向き直って言った。
「今から、社の方に向かうそうです」
「何処にいるかと思えば、デートとはな」
机上のスクリーンには、FLASH二台が別々の方向から、舞依を撮影している映像が写し出されている。もう二台は、先まで舞依のいたベンチを写し出していた。
「タイプワンを監視していればよいと言ったのは私だが、遊んでいいとは一言も言ってないな。どうやら調教が足りていなかったようだ」
「男の方は、七竅高校に通う高校生で、流戸微という名前のようです」
「確か、タイプワンも同じ学校に通っていたな。関係者か?」
「残念ながら、撮影された映像からでは分かりません。ですが、タイプワンと比較的行動を共にしている生徒がいます。八路見という生徒で、経歴を調べましたが、特にタイプワンと接点は見つかりませんでした」
「潜伏先の方は確か突き止めたのだったな。出入りしている人間はどうだ?」
「はい、視上クリニックの経営者である医者だけですね」
「なるほど」
「恐らくはその医者が、タイプワンの庇護者ではないかと」
「タイプワンだけではなく、こいつも捕まえれば、いい情報が手に入りそうだな」
鎧社長は骸骨のような笑みを浮かべた。
その時、ドアがノックされ、秘書が現れる。
「社長、デミウルゴス対策庁の者がロビーの方にお見えになっております」
「あ、そういえば、今日来ると言っていたな。通せ」
「かしこまりました」
十分ほど過ぎて、社長室に、立川獅駱と名乗る人物が通された。社長は、ソファにどうぞお掛けになってくださいと、愛想良くいい、立川は言われるがままに腰を下ろした。向かいのソファに鎧も座り、その隣に結城も座った。
「鎧社長、明日、七竅駐屯地にタイプワンを誘き出すという件についてだが……」
「気にする必要はない。明日にうちの研究所の方に来れば、本人と対面できるさ」
「私たちの情報網を舐めてもらっては困る。各国から武器商人や、政治家を呼び寄せているそうじゃないか?どういうつもりだ?」
「どんなに良いものも売り込みなしには利益が得られない。ビジネスの基本だ」
「許可した覚えはないが?」
「七竅駐屯地の兵器をめちゃくちゃにはしないさ」
「私たちとて、たとえ兵器をめちゃくちゃにされなくとも、既にカードを本社ビルに移送するという議定を秘密裏に通すだけで莫大な金が動いている。迷惑も甚だしい。さらには加速器周辺の警備を薄くしろなどと。何様のつもりだ?」
「わざわざ軍事会社でもない我々が、能力者まで飼ってタイプワンを捕まえようとしてんだ。それで政府の望む『パラケルスス』とやらも作ってやってる。感謝してほしいね」
「でも、完成していないと聞いている」
「完成させるためにタイプワンを捕まえようとしている。政府も、幾度となくタイプワンを捕獲しようとしてるらしいじゃないか?噂では死者数は五百を超えると聞いている。こっちはたとえ死んだところで能力者ただ一人だ」
「そう上手くいくとは思えんがな」
「それが上手くいくんだな。タイプワンの庇護者の存在も突き止めたんだからよ」
「何、だと?」
立川は思わずソファから飛び上がった。
「てな、わけだ。タイプワンは、俺たちで色々実験してやるから、その庇護者の方はお役所に譲ってやんよ。まぁ、お前らみたいな、無能連中は待ってろよ」
立川は冷静になり、嘲笑う鎧社長を睨みつけた。
§
立川はヘブンズヘル本社を後にすると、運転手にドアを開けてもらい黒い高級セダンに乗車。革のシートに腰を下ろし、事務次官に電話を掛けた。三コールほどして、繋がった。
「連藤事務次官、どうやらヘブンズヘルは潜伏先の情報を手に入れたようで、タイプワンの庇護者も突き止めたらしい」
「なるほどな」
連藤の声は如何にも落ち着き払っていた。
「あまり、驚かないな」
「可笑しいと思わないか?どうして、今まで何もタイプワンに関して、誰も情報が得られず、見た者は確実に殺されると言われるほどに恐れられている存在だったのに、真偽は何であれ、ここ一ヶ月で情報がこうもあっさりと手に入るんだろうね?」
「…………確かに……」
「まぁ、こちらもヘブンズヘルのために、色々と裏で動いて、働きかけをしたんだ。失敗だけはしてほしくいないな」
剽軽な声で言った。
「それにしては、全く心がこもっていないな」
「気にしないでくれ。私は、必要以上の期待はしない主義なだけだ」




