4.4
微は、見を避け続けていたが、内心、これは八つ当たりであるとはっきり自覚していた。見が悪いわけではない。人の好奇心の向ける先など自由であり、それが自分の気にくわないものだからといって、これまでの繋がりを覆すほどのものとは思っていなかった。
見の行動には何か目的のようなものはあるのだろうか。ただの好奇心なのかそれとも好奇心の動機があるのか。
サッカーの練習試合中、微はグラウンドを駆けながら、悶々と考えていた。頭にボールが飛んできたことに気づかず顔面で受け止めてしまい、その場で盛大に転倒した。
マネージャーに運んできてもらった氷嚢を頭に当て、ベンチに仰向けに寝ていると、思いがけぬ人物が顔を覗かせていた。
「…………謝らねぇからな」
「そう。無様ね」
「うるせぇ」
羅愛は試合中のグラウンドの方に視線を向ける。今にも倒れそうな案山子のような切なさが微に感じられた。存在感は圧倒的なのに、何処か希薄だ。
「で、何しにきたんだ?」
「………貴方にとって友達って何?」
「頭打って寝てんのに、何でそんなことを聞かれなきゃならないんだ?腐ってるだろ?」
羅愛の手からカードがのぞいている。能力者というのはこうも皆暴力に訴えかけるのが好きなのだろうか。
「理由ぐらいは教えろよ」
「小蝿が言っていたの。貴方が唯一の友達なんですって」
「そうか……」
「喜ばないのね」
「もう、何をどうすればいいかわからなくなっているだけだ……」
「私なら切り捨てるわ」
「お前らしいな」
「でしょう?私はこの性格に信念と誇りを持っている。邪魔者は切り捨てる。それが百載無窮の真理ね」
「オッカムの剃刀か」
「思考経済の法則といってほしいわ」
「知らねぇもの言えって言われてもな。でもよ、思考経済だか何だか知らねえが、哲学や科学では邪魔なものは切り捨ててシンプルにするのが普通だけど人間関係ってのは邪魔であっても切り捨てちゃいけないもんがあるんだ。むしろ、その邪魔なものが大切な時がある」
「小蝿も同じことを言っていたわね」
「そうかい」
「でも、合理を否定して、非合理に迎合するのは、あまり納得いかないわね」
「合理を否定したいわけじゃない。ただ、非合理もあるぜって言いたいだけだ。世の中が、あまりにも合理に迎合しすぎている。そこから不条理やら何やらが生まれるってのが分っちゃいねぇ。ならば非合理に俺は迎合するよ。くそっ、頭痛えぇ」
ベンチ脇に置いてあるクーラーボックスから氷を取り出して、溶けて水になった嚢の中身を捨て、入れ替える。
「とにかく、気にくわねぇんだよ」
「感情的ね」
「人間は感情的な動物だよ。でも、感情で動いていないと多くのやつが思っていやがる。虫唾が走るね。お前もどうせ俺のことが嫌いなんだろけどな、奇遇なことに俺もお前のことがいろいろな意味で嫌いだよ。嫌いってのはめっぽう強い感情だからな」
「嫌い………。そうね、嫌いね。全てが…………」
「厭世主義にでもなったか。ショーペンハウアーは自殺も容認する考えだとよ」
「私も色々とやることがあるの、貴方と違って………」
「カード集めってやつか?」
「そうよ」
「お前はそれで何をするつもりなんだよ。それこそ、世界征服でもしそうだな……」
羅愛は口をきつく結んだ。世界征服とまではいかなくても、それに類することをカードでやるつもりなのかもしれない。たった一枚で惑星数個を壊滅させることができると花も言っていたと微は思い出した。
「まぁ、世界征服でも何でもやってくれよ……」




