2.5
篠突く雨が降り注ぐ中、全校生徒はバスに搭乗してコンサートホールへと向かっていた。
微は鼾をかいて寝ており、羅愛はつまらなそうに肘掛けに肘をついて、雨の一滴一滴を眺めていた。
厳正なくじ引きの結果、見は羅愛の隣になったのだが、昨日の今日なので何を話せば良いかわからなかった。
羅愛は遊び半分で左手からカードを出したり、しまったりとマジックのようなことをして暇を潰している。
「それにしてもカードは全部で何枚持っているんですか?」
「そんなこと聞いてどうするの?」
「えっ……、いや、ただ気になったというか………」
「勘違いして欲しくないのだけれど、貴方と馴れ合うつもりはないのよ?」
「でも、私たちと行動を共にするんですよね?それなら会話ぐらいは必要だと思いますよ」
羅愛は会話ほど嫌悪していることはなかった。人間と関わって楽しいことが果たしてあるだろうか。一人でいることほど心安らぐことはない。しかし、彼らと距離を取っての観察は敵との接触を考えれば不都合になる事が多い。かといって、彼らの言い分を無視して、監視するのもただのストーカーになってしまう。想像するだけで気持ち悪くなってくる。
「少しぐらいなら話に付き合ってあげてもいいわよ」
「昨日、話に付き合っていただいた気もしますけどね……」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も言ってませんよ」
羅愛は大きく息を吸って、ため息をつく。
「貴方の質問には一応答えておくとね、私の持っているカードは十七枚。原子番号順に、水素、ホウ素、炭素、酸素、ナトリウム、アルミニウム、カリウム、鉄、ジルコニウム、テクネチウム、ロジウム、アンチモン、ネオジム、ジスプロシウム、イリジウム、鉛、アスタチン、アクチニウム」
「もしかして、こちらに来たのもカードを回収するため………?」
羅愛は沈黙した。目を鷹のようにぎろっと向けている。
「一応、話はちゃんと聞いているのね。貴方はもちろん知っているだろうけど、ここには最大の国防軍駐屯地がある」
「七竅駐屯地ですね」
「その地下に何があるか知ってる?」
「対デミウルゴスに備えてのシェルターがあると聞いた事がありますが?」
「それだけじゃない。研究センターがあり、加速器があり、三枚のカードがある」
「軍の基地にですか?」
「国は日本最高峰の兵力が集まっている場所で保管し研究をした方が安全と踏んだらしいわね」
「まぁ、理に適っているといえばそうですけど………。それなら、今すぐにでも軍をどかんと吹き飛ばせばいいんじゃないんですか?残火さんなら赤子の手をひねるようなものでは?」
「それができたらそうしているわ……」
「もう一人の能力者の存在ですか?」
「そう。もし、私の方が先に基地からカードを奪取しても、能力者の奇襲があった時にすぐには対処できない。相手も基地のカードを狙っていることだろうし……。それにもう一箇所とも兼ね合いが………」
「もう一箇所………?」
「いや…………貴方には関係のない話よ」
「そうですか………」
もう一箇所というのは、カードの眠る場所が近隣に、その七竅駐屯地の地下の研究センター以外にあるということだろうか。
「それで、その能力者と日本政府が繋がっている可能性はないんですか?」
「現状でそういう情報が先生の方に入ってきていないから何とも言えないわね」
「それにしてもどうやって日木頭さんはそういう情報を手に入れているんですか?」
「ああ、先生、あれでもハッキングの勉強してたみたいね。それで国のセキリティがシロアリの食事後みたいになるほどだから凄いのかもしれない。監視カメラも自由に操作してたまに遊んでいるわ。今頃、家でオルフェウスホールの監視カメラでも乗っ取って私のことをいやらしげに見ているでしょうね」
「それって……凄いのレベルなんですかね………?」
「着いた」
羅愛が外を見やると、巨大なコンサートホールの入り口が目前にあった。