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第3話 わっちゃダメ!

ねえ、こーた。手、握ってもいいかな?

ありがとう。こーた、手大きいんだね。それにとってもあったかいね。


今日のお話? 今日はそうだね…。そういえば、こーたって、数学に興味持ってくれたかな? あんまりない? 算数はどう? 算数もない? そっか…ちょっと残念。でも、こうしてあたしのそばにいて、数学とらなっちのお話につきあってくれるのはうれしいよ。いつもありがとう。大好きだよ。

あは、なに、照れてるの? …え? そういうとこ、らなさんに似てる? そうかな? んー…らなっちもこうやってこーたをいじっていたんだね? それはそれでちょっとジェラしいな…。

そうだ。ねえ、こーたはさ、わり算でどーして0でわったらダメなんだろう、って考えたこと、ある? ない? でも、0でわっちゃダメだよね? どうしてだと思う? それをね、いつだったか、あたし、らなっちに質問したことがあってね…。


「ねえ。らなっち。質問したいことがあるんだけど…」

あるとき、あたしはらなっちに質問したんだ。

「なにかな?」らなっちは笑顔で答えた。そのときのらなっちは栗色の髪を上にあげてお団子のようにまとめていたんだ。いつもと雰囲気がちがって、とってもかわいかったよ。

「えっとね。どうしてわり算では0でわってはいけないの?」

あたしの質問に、らなっちはきょとんとして答えた。

「あれ? それってこの前紹介してあげた『数の悪魔』に説明されてなかったっけ…?」

そうそう、このころだったんだ。らなっちに「数の悪魔」を図書館で教えてもらったのって。とっても面白くて、あたしの愛読書になっちゃったんだよ。

「うん…そうなんだけど、らなっちの説明が聞いてみたいなと思って」

あたしは真剣な表情でらなっちにお願いした。らなっちはにっこり笑ってぽんと胸をたたく。

「ほほー。そうかそうか。では、らな先生にまっかせなさい」

らなっちはカフェオレボウルを手にとって口をつける。それから、説明を始めた。

「えあちゃん。まずさ、わり算ってどんな計算だと思う?」

らなっちって、説明を質問から始めることがあるんだよね。あたしはちょっと考えた。

「ええっと…。わり算のテーギ? なんだろ…」

あたしが悩んでいると、らなっちは質問を変えてくれた。

「じゃあね、わり算ってどんなときに使う計算かな?」

「あ。それはわかるよ。何かを分けるときに使う計算だね。あと…割合を求めたりする計算でもあるかな…」

「うんうん。そうだね!」らなっちはうなづいた。「何かを分けるときって…たとえば?」

「たとえば? えーと…15個のりんごを3人で分けます。1人分は何個ですか…とかかな」

「そうだね! それは『等分除』っていうわり算だよ」

「トーブンジョ?」あたしはオウム返しに聞いた。「ああ。等分するから?」

「そう。等分する除法だから『等分除』って言うの」

らなっちがうなづいているのを見て、あたしは首をかしげた。

「他にもあるの? さっきの割合を求めるわり算のこと?」

「ん。もう一つあるね。たとえば、15個のりんごを1人に3個分けます。何人に分けられますか、っていうわり算。これはね、『包含除』って言うよ。いくつ含まれるかを考えるから『包含除』って言うの。割合を求めるわり算はこれと根本が同じだよ」

その説明を聞いて、ふうん、とあたしは鼻を鳴らした。でも、それがなんだっていうんだろ?

「らなっち、それがわり算のテーギなの?」

「わからないかな?」らなっちはいたずらっぽく笑う。「わり算って、等分除なら1あたりの量を求める計算で、包含除ならいくつ分を求めるかの計算なんだ。1あたりの量とか、いくつ分とか…なんか、聞いたことのある言葉じゃない?」

「あ!」あたしは思わず声を出しちゃった。「かけ算…と関係があるんだね!」

あたしの声に、らなっちは大きくにこっと笑う。

「そ。わり算とかけ算はね、裏表の関係なんだよ。難しく言うと、逆演算って言うんだけどね」

らなっちがそう教えてくれた…のはいいだけど、それが0でわるのが許されていないことと、どう関係があるんだろう? あたしは首をかしげた。

「ねえ、らなっち。それはわかったんだけど…どうして0でわっちゃいけないのかの話にどうつながるのかな?」

らなっちはあたしの質問をうんうんとうなづいて聞いていた。そして、紙ナプキンを取るとさらさらとペンで「15÷0=□」とかいた。

「そうだね。じゃあ、仮に15÷0=□っていう計算があると考えてみるね。これをかけ算の計算に直すとどうなるかな? 2とおりあると思うけど」

らなっちはあたしにペンを渡す。あたしはちょっと考えてみた。

「えーっと…。0×□=15と、□×0=15…」あたしはそう言って紙ナプキンに式を書く。それから首をかしげた。「あれ? □にあてはまる数って…いくつ?」

「ふふ、□にあてはまる数なんてあるのかな?」らなっちはまたいたずらっぽく笑った。「0に何をかけても、何に0をかけても0のはずだよね? 何かと0をかけると15になる、そんな数なんてないよね?」

あたしははっとした表情でつぶやいた。「だから、0でわっちゃダメなんだ?」

「こういう計算のこと、数学的には『不能』っていうね。その関係を満たすような□がないような計算だね。答えが求められないんだから、無効な計算だよ、ってことかな」

らなっちはそういって、にっこり笑った。あたしもらなっちの説明に腑に落ちて、これで話は終わりなんだろうな…と思っていたら、らなっちがまだ説明を続けた。

「…でも、0でわっちゃいけない理由はこれだけじゃないよ」

「え?」あたしは驚いた。「いまのですごくよくわかったよ? まだ何かあるの?」

「0÷0だけはね」らなっちがウインクした。「またちょっと理由がちがうんだ」


そうだ。ね、こーた。どうして、0÷0は理由がちがうんだと思う? ちょっと考えてみて。わかるかな? ん? 目をつぶって考えてくれてるのかな…?


「ええっと…かけ算の式に直すと…0×□=0と□×0=0? おかしくはなさそうだけど…」

あたしは紙ナプキンに式を書くと、そうつぶやいた。らなっちはにこりと笑う。

「えあちゃん、それさ、□にはどんな数があてはまるの?」

「え? それは…。あ、あれ? なんでもあてはまる??」

あたしは目をぱちくりとさせた。「もしかして、□が決められない?」

「そう! さっきは条件を満たす数がないって話だったけど、今度はどの数でも条件を満たせちゃうんだ。だから、どんな数でも答えになっちゃう。こういうのをね、数学的には『不定』っていうんだよ。どんな数でも答えにできてしまう計算は無意味だから、やらないんだね」

そこまでらなっちは言って、ふうと息をついた。

「これがわり算で0でわっちゃいけない理由。わかった?」

「うん。よくわかったよ」あたしはうなづいた。

「『1=2の証明』なんてペテンがあるけど、あーゆーのって、だいたい両辺を、a=0であるはずのaでわったりして証明っぽくしてるね。えあちゃんはだまされないようにね?」

「ふうん…。0って特別な数なんだね」

「そうだね。とっても不思議な数だよ。また今度、0の話をしよっか?」

らなっちがそう言ってね、その日の授業は終わったんだよ。


…あれ? こーた? 聞いてる?

え? 寝てた?! どこから寝てたの? 15÷0ぐらいまでは覚えてる…? って、えー! 肝腎なところ、聞いてないんじゃん! ひどいよー。あのとき、もう寝てたの??

ちょっ…どうして頭なでるの。髪がきれいだから…。あ、ありがと。

そうやってごまかすんでしょ? でも、いいよ。ごまかされてあげる。…え? それ、なんか らなさんっぽいって…?


ちょっと、こーたさぁ、それはさすがに怒るよ?

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