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第1話 はじめまして。

これはね、こーたが まーるの街に来る、ずっとずっと前の話。あたしと らなっちがはじめて出会ったときの話だよ。聞いてくれるかな。


まーるの街にまだ住人が100人もいないころ。

ある日、さべ爺があたしを「丘の上の家」から連れ出して、できたばかりの「カフェ・プロコープ」にやってきたんだ。そのころの「カフェ・プロコープ」はまだとってもちっちゃくてね。おうちの1階を改装してつくった喫茶店みたいな感じだったんだよ。君と会って楽しく過ごした、おっきな「カフェ・プロコープ」も好きだけど、このころのこじんまりとしたお店も、あたし大好きなんだ。

それでね。さべ爺は狭い店内の奥のテーブル席に座る若い女性を見つけると、「おう」と手を挙げて挨拶したの。その女の人は優しげな笑顔であたしを迎えてくれたんだ。そう、それが らなっちだったんだよ。

「らなさんよ、すまんな。この前頼んだこの子のことやけど…」

「さべさん、急ぎすぎ!」らなっちが笑う。すてきな笑顔で。「まず、わたしをその子に紹介してよ」

「あ? ああ。そうやな、すまん」さべ爺が苦笑いする。そして、あたしのほうに振り返るとらなっちを示して言った。「この人は、らなや。これからお前の話し相手になってくれる」

さべ爺はあたしに らなっちをそう紹介したんだ。あたしは少し緊張しながら、らなっちにぺこりとお辞儀した。お話し相手ってなんだろう? 怖い人じゃなきゃいいな。あたしはドキドキしてた。

「こんにちは、えあちゃん。わたしは らなって言います。よろしくね」

「こんにちは…よろしく…」

こーた、君はあたしのこと、どう思っているかわからないけど、本当は口下手なんだよ。だから、らなっちとはじめて挨拶したときもほとんどお話しできなかったんだ。

それから、あたしとさべ爺は らなっちの前に腰かけた。少しの沈黙が流れたあと、らなっちが口を開いたの。

「話し相手?」らなっちが薄笑いでさべ爺に尋ねた。「家庭教師じゃなくて?」

「あんたにとってはおしゃべりするみたいなもんやろ、勉強は」

さべ爺が注文を取りに来たくーすに飲み物を頼みながら、そう言って笑った──あ、このころはまだ くーすが席まで注文を取りに来てたんだよ。

「勉強?」あたしが二人の顔を交互に見ながらつぶやいた。「勉強はやだな」

「この街には学校がないやろ」さべ爺がため息まじりにあたしに言った。「そやからな、学校の先生やってた、こいつにお願いしたんや」

「ね。えあちゃん、お勉強は嫌い?」

らなっちがちょっと困った顔をして、あたしに聞いたの。あたしは小さくうなづいた。

「こいつはな…まぁふつうの先生とはちゃうな?」

「それ、褒めてるふうに聞こえないな?」らなっちがさべ爺の言葉にちょっと嫌味をまぜて尋ねる。

「数学を教えるのにかけては、な」

さべ爺の言葉にあたしはちょっと反応した。「スーガク」? なんだかいやな予感がするなぁって。そのころはまだあたしも算数とか苦手だったし、目の前の女の人は「話し相手」から「家庭教師」になって、それも教えるのが「スーガク」だなんて!って思ってたんだよ。

あたしは気をまぎらわせるために、さっきくーすが置いていったアイスミルクティーをちゅっとストローで飲む。早くこの話、終わらないかなぁ。そんなこと思いながら。あたしの口の中に甘い味が広がった。

「じゃあねー。クイズでもやろっか。さべさんもつきあってよ」

らなっちが頬に人差し指をつけて、そんなことを言い出した。さべ爺は口につけたコーヒーカップを離す。「またか。手加減してくれよ?」眉をしかめているのはコーヒーが苦いからなのかな?

「えあちゃんも、よかったら考えてみてね」らなっちはあたしにそう言ってにこりと笑う。

「問題です。たくさんのお砂糖があってね、ここからお砂糖を200gだけはかりたいの。だから、天秤ばかりと200gのおもりを持ってきたんだけど、どういうわけだか、この天秤ばかりは左の皿に200gの重さのものをのせたとき、右の皿に180gの重さのものをのせるとつりあう、変なはかりなんだ」

「なんやそれ?」さべ爺が思わずつぶやく。「そんなはかりではかれるわけないやん」

らなっちはさべ爺のつぶやきにちょっと吹き出す。「どうしたら、お砂糖200gはかれるかな?」

…えっ? あたしはきょとんとした。はかれるわけないじゃん。横目づかいでさべ爺をちらっと見ると、さべ爺はさっきよりさらに眉をしかめていた。ちょっとおかしい。

「な、ちょっと待てや」さべ爺が手を前につきだす。「それでホンマに解けるんか、この問題?」

らなっちはそんな さべ爺を見ておもしろいのか、にっこり笑顔でうなづく。

「さべさん、哲学、大好きなのに意外に頭かたいんだね?」

「こいつ、人をあおりやがって…。ははーん、比例関係を使うんか?」さべ爺がにやりと笑う。「そうやろ? 10:9でつりあう関係を使うんやな?」

「ちがうよ?」

らなっちが軽く答えた。そして、あたしのほうを見る。

「えあちゃんはどう? わかるかな?」

あたしはどきりとした。ええ? わかるわけないよ、そんなの…。だって、おもりをのせてはかれるのは180gのお砂糖だから、あと20gはからないといけないよね。でも、どうやってはかればいいんだろう?

そこまで考えて、あたし、あれ?って思って、ちょっとひらめいたんだ。あってるのかな、この考え。そのときはちょっと自信なかった。

でも、あたしがはっとした表情をしてたから、らなっちは気づいたんだと思う。にやにやしながら、さべ爺に話しかけた。

「さべさん、えあちゃんは答え、わかったみたいだよ?」

「え?」さべ爺があたしのほうを見る。「わかったんか? これが?」

「あってるかどうか…わかんないけど…」

あたしは自信なさげに答えた。

「まちがってもいいんだよ?」らなっちは微笑んだ。「教室はまちがうところだって誰かも言ってた」

あたしはちらりと上目づかいでらなっちを見る。そして、説明した。

「うん。ええと…まずね、左の皿に200gのおもりを置いて、右の皿にお砂糖をつりあうまでのせるの」

「おお…。でも、それで はかれる砂糖は180gやろ?」さべ爺がつぶやいた。らなっちが険しい顔でしーっとさべ爺に言う。

「うん。そうなんだけど…。それで左の皿のおもりをおろして。それから左の皿にお砂糖をつりあうまでのせるの。あ。右の皿のお砂糖はそのままだよ。そうすると…左の皿のお砂糖は200g…だよね?」

そう言うと、あたしは らなっちの反応をうかがうように、またちらりと上目づかいで見た。

らなっちってときどき反応がオーバーなんだけど、このときもそうだったんだ。にーっと大きく笑みを浮かべたかと思うと、「すごーい!」って言って拍手したんだ。あたし、びっくりして…笑っちゃった。

「えあちゃん、すごいね!」らなっちはそう言ってウインクした。「あと、笑顔もステキだぞ?」

脈絡もなく急に らなっちはあたしの笑顔を褒めるから、あたしは真っ赤になっちゃった。でもね、なんだか心がすっと軽くなった気がして、それからは らなっちと話すことがしんどくなくなって。むしろ、いっぱいお話したくなったんだ。

こーた、君もらなっちと話してそう感じたんだよね。君がらなっちのこと、好きになっちゃったのはこれからずっと後のことだけど、なんだかよくわかるよ。

「いまの、スーガクなの?」あたしはらなっちに尋ねた。らなっちは首をかしげる。

「んー。数学じゃないかもね? でも、数学かも! どう思う?」

らなっちはにこにこしながら、あたしに尋ねた。わかるわけないよね、そんなこと。あたしはまた笑っちゃった。「そんなの、わかんないよ。らな…さん」

「らなでいーよ」らなっちは微笑んで、あたしにそう言った。「えあちゃんの好きに呼んでね」

でも、まだいまみたいに「らなっち」なんて呼べなくて、しばらくは「らなさん」って呼んでたっけ。あたしにとっては、らなっちってすっごくおねえさんに思えたし、呼び捨てなんかできなかった。いま? いまはね…やっぱりすっごくおねえさん! こんなおねえさんがずっと一緒にいてくれたらな、って思う。あたしは君とらなっちの三人でまた、数学のこと、お話したいよ。両手に花の君はちょっと居心地悪いかもしれないけれど、あたしは気にしないからね。


らなっちとあたしの初めての出会いのお話はこれでおしまいにするね。

じゃあ、こーた、今日はこの辺でばいばい。またね。

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