幕間
それは、とある夜のことだった。
「きゃぁぁぁぁぁぁーっ!」
人々が眠りについた、真夜中に突然と女性の悲鳴がロンドンの通りで響いた。
ポタッ、ポタッ。
水道の蛇口を閉め損ねたように硬い石畳の道に赤い液体がしたたり落ちる。
ガタッ。
「ひっ、ひっ、ひゃぁぁぁ……」
女性は腰を抜かし地面に尻餅をつくと、この世とも思えない光景を目に焼き付け体を震わせ怯える。
彼女が目にしているのは、首と両腕が千切られたようにない死体。
その死体の首が垂れるようにぶら下がり、血を一滴一滴、砂時計のように地面に落としている。
地面の下には千切られた両腕と肉体が粗末に置かれている。
死体が一つなら女性も腰を抜かして怯えることはなかっただろう。
残念ながら、死体は一つじゃない。
今女性がいる通りには一つ二つの数じゃないほどの死体があった。
何よりも異様なのは死体の状態だ。
まるで、子供の遊びのようにつるされた生首は、血の落ちる速度がどれもバラバラで秋の夜長の虫の合唱のようにメロディーを奏でていた。
ガタガタガタガタ。
身体を震わせながら、一体どうしてこんな事に巻き込まれてしまったのかと女性が考えていると、生首がつるされている奥の道から足音と声が聞えてきた。
「しくしくと、しくしくと、ああ、悲しい」
カタンコトンカタンコトン、と女の子の悲しむ声が女性へと近づいてくる。
空耳かと女性は思ったがそうではなかった。
「しくしくと、しくしくと、ああ、悲しい」
女性を見下げ、涙を流す女の子が目の前に現れた。
女の子の第一印象は、はかない、と誰もが思うほどだった。
ウシャンカ帽の下から透き通るようなアルビノの髪と身体、着ているドレスは濃い紫色で死体を飲み込むように美しさと邪悪さを漂わせていた。
「…………」
女性は言葉を失い女の子を見上げるとそんな様子など関係ないように目の前の女の子は嘆き悲しむ。
「しくしくと、しくしくと、ああ、悲しい」
「……」
「しくしくと、しくしくと、ごきげんよう」
「あわ、あわ、あわわわわわーっ」
女の子が感情のこもっていない挨拶をすると、女性の精神は限界に達し、人間の言葉を話せなくなり発狂し始めた。
全身のありとあらゆる部分から汗が流れ落ち、顔からは溢れるように涙と鼻水が滝のように流れ、顔面を汚す。
「あ、あ、あ、ぶ、ひゃひゃひゃーぁー」
脳への判断が遮断され反射的に女性は立ち上がると奇声を上げてその場から走り出した。
「しくしくと、しくしくと、さあ奏でましょう。一夜限りのハーモニーを……」
仮想十九世紀ヨーロッパ。
そこでは拷問器具人形と呼ばれる奇怪な殺人人形が人々の生活を脅かしていた。