一章之参
波の音が聞こえる
森林が騒めく音が聞こえる
鳥はまだ寝ているようで泣き声は聞こえない
それに対し案外セミはもう鳴いていた
ヒグラシが鳴いている
夕方を思わせるイメージだったが、案外早朝にも鳴くのだ
太陽はまだ目で見れるぐらい昇っていない
まだ薄暗さが残っている
どうやらまだ六時にはなっていない ふとそう思った 体内時計という奴だろうか、直感で思った
非日常的な環境に置かれても人は習慣を忘れないというがそうなのだろう
自分の習慣がなにかどことなく大きなものなのだと初めて感じた
夏休み中だったら午後近くまで寝ているのだが、こんな状況下ではそんなに悠長に寝ていられなかった
なにかしなくては
直観的にそう思った
よく考えれば食料も何もないのだ
なぜ、どのようにここに連れてこられたかさえ知らないのだから
それとも自分の意志できたのか、無意識のうちに…
いや、わからない この状況下では判断できない
確かに夏休みの過ごし方に後悔し、夏休みの終わりを否定した だがそれだけでこんな場所に訪れられるわけがない
また、誰かが連れて来たていう気配も痕跡もない
いったいどうやって俺はこんなところに来たというのだろう
しばらく考えたあと、俺は何となく森のなかに入り、食べられるものを探した
しかし、そうこれといった食物らしいものはそうタイミングよく見つからない
それらしいものを見つけても、食べれるという保障がない ゲームとかなら一か八かで試すものだが、現実はそうはいかない
一回きりなのだ
一回毒にあたって運が悪ければそのままこの島どころかこの世から脱出してしまう
命懸けの運試し
人類の何万年にわたる経験がこんなにも偉大だなんて考えられなかった
そのとき、森の奧から物音が聞こえた
最初はこの島の動物だと思った
しかし、様子を見に行くためにその方向にいくと、安易な気持ちは一気に凍り付いた
見間違いだろうか
確かに人影が見えた
女の子だった
いや、子を付けるべきではないだろうか、俺より年上だろうから
高校生ぐらいだろうか
とにかく、人がいた
俺は声をかけようと思った その時、彼女は突然駆け出した
驚いてすぐ追い掛けた
しかし、彼女は深い森に入ったあと、忽然と姿を消した
いったい彼女は何だったのだろうか
不思議に思いながら空を見上げると、もう太陽は頂点まで昇っていた
もう昼なのか…