プロローグ3
ニイニイゼミという蝉がいた
エゾゼミという蝉がいた
クマゼミという蝉がいた
今まで知らなかった蝉
もちろん本で見ただけだが、道の種を知ったときには胸が躍ることを知った
じゃあいま鳴いている蝉は?
…アブラゼミだ
どこにでもいる至って平凡な蝉
クマゼミは関西の方にしかいないらしい
エゾゼミは北の方にしかいないらしい
ニイニイゼミは山奥にいるらしい
みんなこの都会では見かけない蝉ばかり
知らなくても変わらなかった 私はそう思った
いまでもそう思う
だから、いま高校で習ってるものにも知らなくても変わらないものもある
だから習ってもしかたが無いのではないか
いつか両親に聞いたことがある
だが、それは違うといわれた
クラスのみんなは賛成する
でも大人は反対する
わからないなぁ…
ヒグラシの声がうるさくなった
まだ夕方なのだろうか
頭にやわらかい感触がある
頭でも強打して瀕死なのかと思ったが、そうでもないらしい
よく考えると、私は俯せに倒れたはずだ
だがいま、感覚からして私は仰向けになっている
背中にもやわらかい感触
お腹のうえにも何かがある
…これは…布団だ
ようやく目を明けられた
私はベッドの上で寝ていた
そう、私は帰ってこれたようだ
うれしかった
私は私の部屋に帰ってこれたんだ
あの鬱蒼とした森林から脱出できたんだ
窓の外からヒグラシの鳴き声
森林の中じゃなく、自分の部屋からヒグラシのコンサートを聞ける
そう思い、窓の鍵を開ける
近くに日めくり式のカレンダーがあった
日付は……
七月二十日だった