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プロローグ
この作品はフィクションと思いますか? だったらきっとフィクションでしょう
蝉の声がする
…それは夏の幕開け
賑やかなアブラゼミの恋の歌
…それは夏真っ盛り
騒がしいミンミンゼミのコンサート
…それは一日の終わり
悲しい音色のヒグラシのクラシック
…それは夏の終わり
淋しい声のツクツクホウシの祭り囃子
蝉の声が 聞こえる…
蝉の声が聞こえる
なぜか何も見えない
意識が遠退き、また戻る
でもただ蝉の声が聞こえるだけ
ここはどこだろうか なぜ人の気配が無いのだろう
ふと目が覚めた
そこには鬱蒼とした木々が広がっていて、私を混乱させ、途方に暮れさせた
私は確か自分の家で、自分の部屋で、夏休み最後の夜を過ごしたはずだ
なぜやってくるはずの二学期が、こんな森林に変わるのだろう
だが蝉の声は知っている蝉の声で、ここは自分の国であることには少し安堵した
早くここがどこかを知りたい
いや、ここから一刻も早く出て帰りたい
何のあてもない森林のなかで、私は足を踏み出し、突き進んだ
その背後から足音が聞こえたのに、私は気付かなかった