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TORNE!! ~アイテム屋トルネの冒険~  作者: パノパノ
第一章 プロローグ
7/51

魔法使い

 

 イリスが屋敷に帰ると、そこには大勢の騎士が集まっていた。

 その中心には、騎士団長であるファルコが立っていた。

 ファルコはイリスの父親でもあった。

 イリスの顔を見つけると、ファルコは泣きそうな顔でイリスに駆け寄り、イリスを抱きしめた。


「い、イリス!!おお!心配したぞ!」


「お父様!!」


 イリスは父親を抱きしめ返した。


「戻った二人から話を聞いてな、今から捜索隊を率いて、森に捜索しにいこうとしていたのだ!

 ああ、血まみれじゃないか!怪我はどこだ?!」


「お父様…、大丈夫です、怪我はもうありません」


「そんなはずは…、ん?それはなんだ?」


 ファルコは、イリスの足元に転がっているものを見た。


「こ、これは…!」


「団長!こりゃバジリスクの首ですぜ!」


「こいつぁすげえ!お嬢さん、大したもんだ」


「さすが騎士団長の娘さんだ!」


 周りの騎士たちから歓声が上がった。


 ファルコは、冷静に周りに言った。


「とにかく、娘を休ませたい。話を聞くのは落ち着いてからにしよう。

 みんな、こんな夜中に集まってくれてありがとう。この礼はいつか必ずする」


 ファルコはみんなに頭を下げ、イリスを捜索するために集まった騎士たちは、その場で解散となった。



 ◆



 その夜、ファルコはイリスの部屋にいた。


 イリスは、すやすやと寝息を立てている。

 よほど疲れていたのだろう。風呂に入ると、そのまま倒れるように眠ってしまった。

 ファルコがイリスの髪を撫でると、イリスはむにゃむにゃと意味不明の寝言を呟いた。

 この寝顔がもう一度見られて、本当によかった。

 ファルコは、今日何度目か、神に感謝した。


 しかし、腑に落ちないことがある。


 イリスから聞いた、その少年のことだ。


 イリスの話によると、その少年のくれたポーションのおかげで、負ったはずの傷がみるみる治ったという。

 しかし、それはあり得ないのだ。

 ポーションとは、あくまでも応急処置の手段である。

 消毒、止血はできても、傷を塞ぐなどということはできない。

 だからこそ、ヒーラーという職があるのだ。

 イリスの話の通りだとすると、そのポーションは、ヒーラーの回復魔法並みの回復力があるということになる。


 さらに、イリスの話だと、飲んだポーションのおかげで力が湧き上がるようだったという。

 それは…、おそらくイリスの勘違いだろう。

 初めてのモンスター退治への興奮、高揚感が怪我の痛みを消し、そう錯覚させたのだろう。

 でなければ…、それではまるで、魔法使いだ。

 イリスは、森に住む古い精霊にでも化かされたのだろうか…?


 しかし、幻では片付けられないものがここに二つある。

 一つはバジリスクの首だ。

 そしてもう一つは…。


 ファルコは、寝ているイリスの傍においてある剣をそっととると、それを抜いた。

 そして、近くのろうそくを素早く斬ってみせた。

 ろうそくはたしかに切れたが、しかし、下には落ちなかった。そのまま何事もなかったかのように、くっついたままだ。


「たしかに切れ味が上がっている…」


 イリスには、剣の手入れをしっかりと教え込んだ。

 当然、切れ味についても、常に気をつけるように言ってある。

 剣は常に最高の状態に保たれていたはずだ。


 そのはずの剣の切れ味が増している?

 これは最早、職人の域だ。

 イリスの話だと、少年は自分のナイフで剣に何かしていたという。

 ナイフで剣を研ぐなど聞いたこともない。

 しかし、この切れ味が全てを物語っている。


 たしか、イリスは、騎士学校にその少年も入学すると言っていたな。

 義父上(ちちうえ)に、一応話を通しておくか…。


「魔法使い…、か」


 そういえば、妻が最近、綺麗になった。

 理由を聞いたら、「最近流行りの、魔法使いの作った化粧品を使っている」と言っていたな。

 どうも最近では、森の精霊やら、魔法使いやらがポーションを作るらしい。

 恐ろしい時代になったものだ…。


 ファルコは笑うと、イリスの額に口づけをし、部屋を静かに出て行った。



 ◆



 〜一方、その頃、トルネの家、パパルコの店〜



「トルネー!!お前、ここにおいといた薬草どしたい?!」


「あ?そこの薬草なら全部まとめて、ポーションにぶち込んだぞ」


「なにーーーーーーぃ?全部だと?!」


 パパルコはトルネの顔を驚いた様子で見た。


「全部って、お前あれ、ヤバイ系の薬草も入っとったろ!アッパー系の…」


「だーいじょうぶだって!絶対にバレない濃度まで薄めたし、今日試しに一発飲ましてみたけど、本人、気合いもりもりって感じだったから!イケるイケる」


「イケるってお前…」


 廃棄する素材を活用した商人根性を褒めるべきなのか、それとも怒るべきなのか、またしても判断のつかないパパルコであった。







挿絵(By みてみん)

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