寮生活は危険なかほり 後編
「で、でかい…!」
「ここが私の管理する女子寮、【ローズバッド】です。
綺麗なところでしょう?」
トルネは驚愕していた。
こ、これが学生寮…?!
オレの家よりよっぽどいい建物じゃん…!
ま、当たり前か、それは。
でも下手したら、ここの便所よりもウチの家は狭いかもしれん。
「さぁ、中に入りましょうか」
セリスがトルネを中に案内しようとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!お母様!!!」
それをイリスが止める。
「なんですか、イリス。騒々しい」
「ほ、本当にトルネを私たちの寮に入れるつもりなんですか?!」
へー、イリスたちもこの寮なんだ。
イリスとナナは、トルネたちについてきていた。
シャンテリオンとマルコはもう寮に帰った。
マルコはとても行きたそうだったが。
「と、トルネと一緒に生活できれば、ま、まぁ私は嬉しいですけど…。
しかし他の女子生徒から不満が出るのでは?!」
イリスの言うことはもっともだった。
「大丈夫です。この寮にはそんなに面倒臭い性格の貴族連中は入居させていませんから。
私が一言、大丈夫だと言えばみんな納得しますよ」
セリスは事もなげに話す。
「ね、ねぇ、セリス様って、こんなでかい寮の管理もしてるの…?」
トルネはこっそりナナに聞いてみる。
「そうっス。この寮の寮母さんなんっス。
それに知らないっスか?セリス様は、この学校の理事長っスよ。
他にも食堂の管理とか、学校の運営にもかなり関わってるっス」
理事長…!?そうだったのか!!
へ、へぇ〜、通りでセリス様に口を利いてもらったら、すんなり学校に売店を出せたと思った。
まぁギルモア校長って、どう見ても学校の経営ができるってタイプじゃないもんな…。
セリスはトルネにこっそりと耳打ちする。
「…女子生徒の母親たちは、トルネさんの作った《美肌のポーション》のことを話したらすんなりOKしましたよ。
《美肌のポーション》また人数分お願いしますね?」
ヒソヒソ
「せ、セリス様…、前にも言いましたけど、アレはあんまりたくさん作るのは…」
ヒソヒソ
「わかっています、希少価値、でしょう?
しかし、使うべきときに使ってこそアイテムとは価値があるのではないですか?
大丈夫です、みんな口が固いですから、《美肌のポーション》の入手先が漏れる、などという心配はありませんよ…」
「は、ハハ…、わ、わかりました…」
やっぱりオレ、この人苦手だなぁ…。
「でもセリス様、【ローズバッド】は、かなり人気の高い女子寮っスよ?
部屋も空いてないんじゃないっスか?」
ナナがセリスに聞く。
「そうですね、ウチは狭い寮なのでそんなに部屋数もありませんし」
狭いんかい、これで。
「そもそも、寮の部屋は二人でのルームシェアが基本です。
トルネさんは可愛らしいとはいえ男子ですから、他の女子生徒を一緒に住ませるわけにはいきません」
「と、ということは、ということは!!
残る選択肢は一つということですか…!
私がトルネとルームシェアというわけですね!!お母様!!」
イリスが興奮した様子で話す。
「いやいやいや!!!イリス様の部屋には私がすでにいるっス!!
私はどこに行けばいいんっスか!!?」
「…チッ」
「舌打ちされた?!」
イリスはとても残念そうだった。
「そうですね、トルネさんの代わりにナナを放り出すわけにもいきません。
それに、若い同じ歳の男女を一緒の部屋に…、なんて淫らなことはできません。
昔のハーレム系少年漫画じゃあるまいし」
今でも割とある気がするけどね。
「よかったっスぅ…」
ナナはホッとする。
「なので、トルネさんは私とルームシェアしてもらいます」
セリスがさらっととんでもないことを言う。
「「「えええええええ?!!!!」」」
三人は声を揃えて驚いた。
こればっかである。
◆
セリスに連れられて、トルネ、ナナ、イリスは【ローズバッド】の最上階にある、セリスの部屋にきていた。
「ここが寮母用の部屋になります」
「でけええええええええええ!!!!!!っス」
「最上階は部屋が一つしかないのか…!」
「…ベッド一つしかないですよ?」
トルネたちは、その部屋の豪華さに圧倒されていた。
イリスだけはベッドをじっと見ていた。
「ここは寮母用の部屋なのですが、私は屋敷が貴族町にあるので、そんなに利用しません。
たまに仕事で、学校からの帰りが遅くなったとき泊まるくらいで。
だから実質、ここはトルネさん一人の部屋ということになりますね。
ここなら最上階ですから、他の女子生徒と頻繁に顔を合わせる、ということもないでしょうし。
それにたとえ私と一緒に過ごしていても、年齢もかなり離れていますから、妙なことが起きる心配もないでしょう?」
セリスは微笑む。
「そうっスかねぇ?
同じ歳同士の場合より、むしろグッといやらしさが増した気がするっスけど…。
自分の娘のクラスメイトと、美しすぎる人妻が一つ屋根の下…!!
若いトルネ君の前にさらけ出されるむちむちボディ!青い衝動と暴走する母性!!
あっダメっス!!みだらっス!!いんらんっス!!トルネ君それ以上はダメっス!!」
「何がだよ」
「ベッドが一つしかありませんが?お母様?」
ナナは一人で盛り上がっていた。
イリスはベッドをじっと見ていた。
「どうぞここを使ってください、トルネ君」
セリスがトルネに言う。
「い、いや、こんないい部屋、恐縮しちゃいますよ…!」
あまりにも良い条件にトルネは警戒する。
「気にしないでください。
どうせ使っていない部屋なのですから。
それに実は、ここを貸す代わりにトルネさんには寮母の仕事をいくつか任せたいと思っているんです。
最近私も忙しくて、寮母の仕事まで手が回らなくなってきたので」
うーん、やっぱりそういうことか…。
いくらなんでも話がうますぎると思った。
しかし、ちょっと仕事を手伝うくらいで住めるならお釣りがくるほどの部屋だ。
ちょうど集中してアイテム製作ができる部屋が欲しいと思っていたところでもある。
売店の二階ではバイトたちも生活していて、集中できなくなっていた。
「…わかりました、それくらいでこんな広い部屋に住めるなら安いもんです。
協力しますよ」
「ありがとうございますトルネさん、助かりますわ」
「いいなー。トルネ君いいなー、っス。
遊びに来ていいっスか?」
「…まぁ、ベッドをトルネが一人で使うなら問題ありませんが…。
お母様は毎日、夜には屋敷に帰るわけですからね」
イリスがセリスを見る。イリスはとにかくベッドのことで頭がいっぱいだった。
「…」
セリスは黙っている。
「…そうですよ、イリス。何を心配しているんですか」
「なんで今、一瞬黙ったんですか?お母様?」
イリスがセリスにツッコむ。
「さぁ、もう遅いので、イリスたちは部屋に戻りなさい。
私も、もう屋敷に帰ります。
私は今日はトルネ君とここに泊まるので、見送りは結構です」
「コラァ!!!前後の文章が思いっきり矛盾しとるだろうが!!!
屋敷に帰るんじゃなかったんですか?!!お母様!!?」
セリスは、イリスとナナをポイポイっと部屋の外に放り出す。
ポイポイっ
「あいたっ?!ちょ、ちょっとお母様?!」
「セリス様?!」
反論しようとするイリスとナナに、セリスがビシッと指を立てる。
「今日はもう遅いので、ここに泊まるというだけです。
これ以上は大人の時間、あなたたち学生は部屋に帰りなさい」
ピシャッ!!ガチャッ
セリスは扉を閉めてしまう。
「おおおおおおい!!!!そのベッドでトルネに何をするつもりですかっ?!
に、匂いをかいだり、ぎゅーってしたりする気でしょう?!
最低です…!こんなとんでもないド変態が私の母親だったなんて…!!
し、信じられない…!お母様あああああ?!?!」
「いやぁ、間違いなく親子っスよ」
ナナは一人うなずいていた。
◆
数分後、トルネはセリスに、なぜかメイド服を着せられていた。
「な、なんでこんな服…」
「ふふ、よくお似合いですよ?トルネさん」
セリスが奥の部屋から戻ってくる。
「絶対に似合うと思ったんです。
トルネさんを初めて見たときから…」
「はぁ…、いや、セリス様が仕事を手伝って欲しいっていうから着たんですけど…。
一体こんな格好で何を…、オオウ??!!!」
セリスの方を向くとトルネは驚いた。
セリスは紫のネグリジェに着替えていた。
布地は薄く、中の下着が丸見えだった。
「な、ななな?!」
トルネは真っ赤になって慌てる。
その姿は同級生の下着姿なんかとは比べものにならなかった。
色っぽく髪もおろし、いつもの真面目そうなセリスのイメージとはかけ離れている。
「大事な仕事ですよ…?
実は前に屋敷でやってもらったように、《美肌のポーション》をトルネさんに塗っていただこうと思いまして…」
「あ、あれは、ポーションの効果を詳しく知りたいと、セリス様が言ったから…!!
それに身体中に塗ったわけじゃないでしょう?!
腕の先だけちょこちょこっと…!
ふ、服もちゃんと着ていました!!」
トルネは必死に目を背けながら話す。
「ですから、今度は全身に塗っていただこうと思って…。
トルネさんはお気づきじゃないかもしれませんが、自分で塗るのと、トルネさんが塗るのとでは全くポーションの効果が違います。腕から、シミや汚れと一緒に疲れも吹き飛ぶようでした。
やはり、アイテムを使わせるとトルネさんに敵うものはいないということでしょうか。
あの後、いくら自分でやっても、メイドにやらせても、あんなに気持ちよくはマッサージできませんでしたよ」
ベッドに腰掛け、セリスはゆっくりと話しかけてくる。
「ででで、でも!!!」
「トルネさん?あなた、さっき私に協力すると言いましたよね?
商人が契約を破るのですか?
これは仕事ですよ、毎日の労働に疲れた私を癒すという、あくまでも仕事です。
あまり深く考えないで…」
「ぐ、ぐぐぐ…!」
仕事…!そうだ、これは仕事なんだ…!!!仕事仕事仕事仕事仕事仕事…!!
トルネは頭を仕事モードに切り替えた。
「…わかりました…!
なら全力でやらせていただきます。
セリス様、上半身は裸になってもらって、うつ伏せでベッドに寝てください」
「えっ?は、ハイ…」
突然、目つきが変わったトルネに戸惑いつつ、セリスは言われた通りにする。
シュル…
セリスはネグリジェを脱ぎ、下着の下だけをつけベッドに横たわる。
普通の男子ならば卒倒するほどの光景だったが、仕事モードに切り替えたトルネのプロ根性には届かない。
「では、いきますよセリス様。…覚悟してくださいね」
「か、覚悟…?」
戸惑うセリスの背中に、トルネは《美肌のポーション》をかける。
トロォン…
「うぐっ…?!」
セリスの体に電流が走る。
な、なに…?
背中にポーションが触れただけでこんな…!
《美肌のポーション》は何度も使ってきましたが、今まで一度もこんなことは…。
グニュルル…!!
「っんん?!!っはぁあ?!!!」
トルネが力を込め、手のひらでポーションを塗り込むと、身体中の毛が逆立つほどの快感がセリスに襲いかかる。
「っは!ハァ!っは…!ちょ、ちょっとま…」
グヌルルルリ…!
「ふぐぅぅうっ…!!!!!!!!」
セリスはトルネを止めようとしたが、次々と押し寄せる快感の波のせいで頭がうまく働かなかった。
喋ることすらできず、セリスはただ歯を食いしばって耐えるしかなかった。
「いやーお客さん、凝ってますねぇ」
トルネが明るい声で話しかけてくる。
ニュルルル…!ニュルルル…!
「…ッッ!!!!!!!ヒィ…っ!ヒィ…っ!」
「いや、実はですね?
オレもこのマッサージで一稼ぎしようと、近所のおっさんに色々試してみたことがあったんですが、そのおっさんあまりのマッサージの気持ち良さに失禁&気絶を繰り返してですね(笑)
最終的に入院しちゃいまして。
こりゃー商売にならんと、そう思ってたんですが…」
ニュック!ニュック!
「フーーッ!!!!!!!フーーッ!!!!!!!」
「セリス様が、ご所望というなら仕方ない…!
お得意様の頼みだ!
今までのお礼も兼ねて、サービスで一晩中でもマッサージしますよ!」
ひ、一晩中…??!!!そ、そんな?!!!
セリスの顔はもはや、涙やらよだれやら鼻水やらでグッチャグッチャだったが、うつ伏せになっていてトルネは気づかない。
セリスは薄れゆく意識の中、ただただ、永遠に続く地獄のような天国に終わりがくることを祈るばかりであった。
読んでいただきありがとうございます。
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もうすでにしていただいている方、本当にありがとうございます。
なんとかそれを糧に書いていきたいと思います。