ドキドキ☆命がけの体力測定
実技の授業。
生徒たちは校庭に出て整列している。
「我が魔力に答えよ、仇襲の雷火!!」
レナードが呪文を唱えると、目の前にあった木人に稲妻が落ちる。
ガッシャァァン!!!
「ひええ…」
その威力に生徒たちが息を飲む。
雷撃が当たった木人は原形をとどめていなかった。
「とまぁ、今のが【魔法】だ。
自分の中にある魔力である【マナ】を餌にして、世界に存在する自然の魔力【テラ】を呼び出し、あらゆる事象を引き起こすわけだが…。
こればっかりは練習で使えるようになるものじゃない。
【マナ】はどんな生物にもあるが、その形、属性は様々だ。
たとえ【マナ】を自由に扱えるようになっても、その量が少なければ【テラ】を呼び出すことはできないし、水属性の【マナ】では火属性の【テラ】を呼び出すことはできん」
レナードは黒焦げの木人を足で蹴って隅に置く。
「今日の授業では、お前らの魔力の属性を検査する。
言っておくが、使い慣れていない魔力を無理矢理に引き出すことは命に関わることだ。
お前ら、気をぬくんじゃねえぞ!!!」
「「「「はっハイ!!」」」」
生徒たちは並んで、レナードによる検査を受ける。
レナードの横には、いくつかの宝石が並んでいた。
「手のひらに意識を集中させろ、イリス」
「ムムム…」
イリスは手のひらに力を込めるが、何も起こる気配がない。
「何も出ませんけど、先生」
「そりゃそうだ、普通人間は、理性というストッパーで魔力が外に出るのを防いでいるからな。
これを今から、俺の魔力で無理矢理押し出す。
覚悟してろ、気を抜いたら死ぬぞ」
言われて、イリスは緊張する。
レナードはイリスの背中に手を当てる。
「いくぞ」
突然、手が触れていないのにイリスの体がぐんとレナードに押されたかのような感覚になる。
「ぐわっ!!!?」
すると、目の前の宝石の中の緑と白の宝石が淡く光る。
「ふん、【風】と【光】の結晶が光ったということは、それがお前の属性だな。
攻撃系の属性が二つとは、やはり血筋だな」
「か、風と光の属性…!」
イリスは自分の手のひらを見つめる。
周りからはおおーっという声が上がる。
魔力というのは人それぞれ、形も様々だ。
たとえ魔力がたくさんあっても属性を形成するほどの強力な個性を持っていない、いわゆる【無属性】の人間も多いのだ。
そんな中で二つの強力な属性を持っているイリスはとても珍しいのだった。
「今の感覚を忘れないようにしろよ。
よし、次!!ナナ来い!」
「ハイっス!!」
レナードは次の生徒を検査しだす。
検査が終わったイリスはふらふらと、マルコのそばにへたり込む。
「大丈夫ですか?お嬢」
「お嬢はやめなさい…。
なんだか修練を積んでいるときより疲れました…。
これが魔法を使うということなんですね…」
「俺はそうでもないですがね…。
やっぱり使う力が強力な分、消耗も激しいんでしょうかね?」
「ちなみにマルコは属性なんでした?」
「俺は【無属性】でしたよ。
大体はそれが普通ですから」
「そうですか…、かわいそうに…」
「あれ?今、昔からの友人のことをかわいそうって言いました?」
マルコがイリスにツッコむ。
「だって属性魔法が使えれば、必殺技の名前がグッとカッコ良くなりますよ!!!
サンダースネイクだとか!!アイスカッターだとか!ファイヤー・プロレスリング・ワールドだとか!!
…でもマルコは【無属性】。
【無属性】じゃあねぇ…、ふっ」
イリスはマルコを小馬鹿にしたように話す。
「…お嬢って基本的に性格いいですけど、どうでもいいところで超性格悪いですよね…」
マルコは仕方ないので木人にその怒りを、そっとぶつけることにした。
◆
レナードが生徒たちを眺めている。
「ふぅ、属性持ちが38人中6人。
まぁこんなもんか…。
さて、あとはやつだけだが…」
レナードは校庭のすみにいるはずのトルネの方を見た。
「あん?」
一体何をやっているんだ?あいつは…。
◆
トルネは他の生徒たちと離れて、一人だけ別のことをしていた。
入学したばかりのトルネは初めての実技だったので、体力測定をしなければならなかったのだ。
一緒に測ってくれている女子生徒が、トルネに慌ててみせる。
「とっ、トルネさん、そ、それはまずいんじゃあ…?」
「いいからいいから」
トルネは跳躍力を測っていた。
トルネは砂場に向かって走りだす。
そして勢いをつけ、白線の前から思いきり跳んだ。
「ほっ!!」
ズッシャァァァ!!
なんと、トルネはその大きな砂場を飛び越えてしまった。
「ふェ!?す、すごいですー!!砂場を飛び越えちゃいましたよ!!」
「ふぅ、こんなもんか…。
まぁまぁだな」
トルネは華麗に汗を拭く。
「まぁまぁだな、じゃねぇ」
レナードがトルネにツッコミを入れる。
「あ、先生。見てました?オレの華麗な跳躍」
ニコニコ笑うトルネに対し、レナードは不機嫌そうな顔だ。
「おい…、なんだその足につけている妙な器具は?」
言われるとたしかにトルネは、スプリングのついた木製の機械のようなものを足に取り付けていた。
「ああ、これですか?
これはオレの作った新発明《ピョンピョンバッタ君一号》ですが」
トルネは悪びれもなく話す。
トルネが砂場を飛び越えるほどの跳躍をしたのは、どう見てもその機械のおかげだった。
レナードはイラつきながらトルネに命令する。
「脱げ」
「おいおい、白昼堂々生徒にセクハラですか先生、訴えますよ?」
イライラ
「そのアイテムを外せと言ってるんだ」
「イヤです。
今日はこのアイテムの性能調査をすると決めちゃったんで」
「勝手に決めちゃうんじゃねぇ」
レナードは剣を抜く。
「脱ぎたくないならそれでもいい…。
オレがお前の膝から下ごと、綺麗に取り外してやる」
レナードの顔が醜く歪む。
悪魔の笑みだった。
「ふっ!!」
突然、《ピョンピョンバッタ君一号》から煙が吹き出す。
女子生徒とレナードは視界を失う。
「ゴホッゴホッ!!なんですかこれぇ…」
「煙幕か…?!」
トルネはそこから一目散に逃げ出す。
「はーっはっはっは!!!いつもいつも剣で脅せばおとなしく従うと思うなよ!!?
王国最強の騎士を出しぬけたと噂になれば、この《ピョンピョンバッタ君一号》にもはくがつく!!
売り上げ倍増、間違いなしだぜ!!!」
ガッシャガッシャガッシャ!!!
あっという間にトルネは見えなくなっていく。
「は、はやぁい…」
女子生徒は目を丸くしている。
「野郎、いい度胸だ…!」
レナードは剣を取り外すと全力でトルネを追う。
ギュオッ!!!
「キャァ!!!」
女子生徒は突然の突風に驚く。
「れ、レナード先生もはやぁい…。
わ、私、騎士になんてなれるのかしら…」
女子生徒はすっかり自信をなくしていた。
◆
ドドドドドド!!!!
レナードがトルネに追いついてくる。
は、速い!!さすが王国最強の騎士先生!!
身体能力も化け物並だ!!
「どうした…!その程度かコラ!!追い越しちゃうぞこの野郎!!!」
レナードはみるみるトルネに近づいていく。
それなら…!!
トルネは急に方向転換し、校庭から校舎の方へ飛び出す。
「何ぃ…?!」
トルネは構造物をピョンピョン飛び越えていく。
「はッッはっは!!さすがのレナード先生も、建物の上を飛び越えてはいけないでしょう!!
さらばです!!あなたはいい実験対象だった!!」
トルネは叫びながら逃げていく。
レナードは立ち止まると、両手を胸の前に構える。
「俺をなめるなよ…!我が魔力に答えよ…!!」
レナードが呪文を唱え始めると、バチバチとその手の周りに雷が走る。
「長弓の雷霆ッ!!!!」
するとレナードの手から大きな雷がトルネに放たれる。
それは長距離用の攻撃魔法であった。
バリバリバリッ!!!!!
雷はピョンピョンと跳んでいたトルネに見事に命中。
トルネは死んだハエのように地面に叩き落とされた。
「はッ!!?」
しまった…!ついカッとなって、本気の攻撃魔法を…!
殺したか…。うん、まぁ仕方ない。
死体を保存しておいて、明日にでもゾンビ化の魔法の使える黒魔術師を呼ぶか…。
レナードが冷静にゲスなことを考えていると、死にかけのトルネがゴソゴソと動く。
「ん…?」
トルネはポケットからポーションを取り出すと、それをごくごくと飲み干す。
シャキッ!!
トルネは元気になった!!
そして何事もなかったかのように、またピョンピョンと校舎を跳んで行ってしまう。
「ま…」
「待てコラァ!!!!!」
そしてまた、レナードはトルネを走って追いかけていくのであった。
◆
そのころ、校庭の生徒たちは。
「戻ってこないっスねぇ…、レナード先生」
「ハッ!ハッ!」
「…何やってるっスか?イリス様」
「いえ、ちょっと必殺技の練習を…。
ウィンドカッター!!ライトセイバークラッシュ!!ハッ!ハッ!!」
「はぁ…」
読んでいただきありがとうございます。
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もうすでにしていただいている方、本当にありがとうございます。
なんとかそれを糧に書いていきたいと思います。