トルネとイリス
「そこ、座っていいですか?」
「え、あ、うん」
イリスがトルネの隣に腰を下ろす。
「…」
「…」
二人の間に気まずい沈黙の時間が流れた。
「…シャンテリオンと何を話していたんですか?」
「え、まぁ、世間話…、かな、多分」
「ふぅん…」
「…」
「…」
また沈黙が流れる。
な、なんだろうこの空気…。
やっぱり黙っているのは性に合わないトルネだった。
「あの、トルネ」
「え?」
「準決勝の前にひどいことを言ってしまって、すみませんでした」
「いや、あれはオレが悪かったんだし…。
謝るのはこっちの方だよ」
頭を下げるイリスに、トルネが狼狽える。
イリスはうつむいて、トルネに顔を向けない。
一体どうしたんだろうか、イリスらしくもない。
まだオレのこと怒っているのかな?
そうすると、イリスが突然口を開く。
「トルネ…、やはり私は、トルネの友人には相応しくない女でしょうか…?」
「は、はぁ?」
トルネにはイリスの言葉の意味がわからなかった。
「だってトルネは、パルキアの町で【魔法使い】と言われるほどのアイテム職人ですし、モンスターの知識だって、戦いのセンスだって、私よりずっと上です。
それに比べて私なんか筋肉女なだけで…、トルネと肩を並べることなんか…。
やっぱりトルネには、私なんかより、シャンテリオンの方がずっと相応しい…」
「ハハ、なんだよそれ」
冗談かなにかかと思ったが、イリスはずいぶん落ち込んでいる。
も、もしかして、それでずっと悩んでいたんだろうか?
なんて馬鹿らしい…。
トルネは真剣な表情になって、イリスに話しかける。
「イリス、こっちを向いて」
「はい?」
イリスが顔を上げる。
「イリスは…、オレの友達だよ。もうずっと前から」
「トルネ…」
「だいたい、今更じゃない?
強引にオレを騎士学校に入学までさせておいてさ。
これで友達じゃないなんて言われたら、さすがのオレもショックなんだけど…」
「そ、それは…」
「それに、イリスはオレが平民だからとか、剣術ができないからって、友達になれないなんて言わなかったろ?
オレだってそうだよ。
友達になるのに、どんな資格も必要ない。
それをオレに教えてくれたのはイリスじゃないか」
「トルネ…」
「あー!!ハイハイ、これで、この話はおしまい!
あんまり恥ずかしい話をさせるなよな!もう。
イリスって貴族のくせにバカ。ほんとバカ!」
トルネは立ち上がる。
「そ、そんなにバカバカ言わなくても…!」
「ほらっ、イリス」
トルネが右手を差し出してくる。
イリスは気づく。
それは初めて出会った、あのときのように。
「…わかりました、トルネ」
イリスは笑うと、トルネの右手を握って立ち上がった。
二人は出会ってから、今初めて、友人になった。
そんな気がした。
「ふふふ」
「なんだよ、もう」
イリスが笑い出す。
トルネの頬もつられてほころぶ。
二人はなんだかおかしくなって、校庭の隅で一緒に笑ってしまった。
◆
「ああ、そうだ、トルネ」
「ん、なに?」
「私ずっとトルネに言いたいことがあったんですよ」
「なんだよ」
「私、どうやらトルネのことが好きみたいです」
「ふーん…」
オレをねぇ、そりゃ物好きな…、
「って、ハァーーー?!」
突然の告白にトルネが驚く。
「えっ?えっ?」
「ここ最近ずっと、トルネを見ると感情の高ぶりが抑えられなくて…。
そのせいか、すぐ怒ったり、不機嫌になったり、一体これはなんなのかとずっと考えていたんですが…。
どうも私は、トルネのことが好きになっちゃったみたいですね」
「みっ、みたいですねって…!」
「大好きになっちゃったみたいですね」
「い、言い直さなくても…」
トルネは激しく狼狽える。
「今まで、たくましいゴツゴツした男だらけの社会で生活してきた反動でしょうか…。
まるで子供みたいな、ほっぺたプニプニの、お目目くりくりの、生意気でちっちゃなトルネを見ると、母性本能をすごく刺激されると言いますか…、抱きしめたくなっちゃうのですよ。
それにトルネには、ファーストキスも奪われてしまいましたし、裸も見られてしまいました。
その責任を取ってもらわないと…」
「あっあれは緊急事態だったし…!」
イリスはまっすぐトルネを見つめる。
「というわけで、あなたを抱きたいんです。
今すぐ抱きしめていいですか?トルネ?」
あまりにも男らしい、ストレートすぎる告白に、トルネはどうしたらいいかわからない。
真っ赤になって、まともにイリスの顔が見れなかった。
「えっ?いやっ、あのっ、そ、そういうのは、よくないんじゃ…!すっ好きとか、その」
あわあわするトルネは、いつもの生意気な顔より、数段幼く見えた。
涙目になって、ほっぺたは真っ赤である。
その様子をじっと見ていたイリスは、もう我慢できなかった。
「トルネかわいっ!!!!」
「ひえっ!?ちょ、ちょっとイリス?!」
突然、イリスが思いっきりトルネを抱きしめる。
イリスの豊満すぎる胸が、トルネの顔を圧迫する。
トルネは逃げ出そうとするが、イリスの腕はガッチリとトルネをつかんで離してくれない。
「私を誘っているんでしょう?!トルネ!そんなかわいい顔で私を誘惑して!
いけない子です!!嗚呼!いけない子!!」
「ちょ、ちょっとイリス?!しょ、正気に戻って!!!」
イリスはトルネの匂いをクンクンとかぐ。
「すーっ、いい匂い…、あのポーションの匂いがします。
今夜は一緒に寝ましょうね?トルネ。
私のこと、お姉ちゃんって、呼んでいいんですよ?」
「わぁああ変態だぁ!!!」
イリスはまったく話を聞いてくれなかった。
トルネは、イリスと友人になったことをほんの少し、後悔したとか、しないとか。
これで、第一章は終了となります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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これからは、少しの短編を挟みつつ、やっとトルネの学校生活の始まりとなります。
今までの話も、結構最初より手が入っていますので、よろしければ読み返したりもしてみてください。