準決勝!!VSイリス 後編
先に動いたのはトルネだった。
トルネは桶の中から四つの《スライムボールくん》を取り出すと、三つをイリスに投げつけた。
「!!」
このボールを斬れば、空中で破裂してしまう…!
イリスは素早い身のこなしで、飛んできた《スライムボールくん》をかわす。
しかし…、
「甘いっ!!」
トルネは手の中に持っていたスライムを握りつぶす。
ボンッ!!!
すると、イリスに向かって飛んでいった《スライムボールくん》が一斉に破裂した。
中から液体が飛び出し、イリスにふりかかる。
「くっ?!!」
たまらずイリスは、トルネから距離を取る。
トルネはニヤついている。
「甘いぜイリス。
あいかわらずモンスターの勉強不足だな。
これはスライムだって言ったろ?
同じ個体から生まれたスライムには、”連鎖反応”が起きる性質があるんだ。
近くで一つが破裂すれば、連鎖的に他のスライムも破裂するのさ、水の中に入っていない限りはね」
イリスはかけられた液体をぬぐいながら、トルネを見る。
「…今のに入っていたポーションは何です…?」
「さぁ?何だろうねー?そこまでは教えてやんないよ。
でも、今のが《爆発のポーション》だったらどうなっていたかな?
もう勝負は終わっていたかもねぇ」
トルネはイリスを挑発する。
◆
審判席から見ているレナードは、奇妙に感じていた。
あの野郎、解せないな。
なぜわざわざ、あんなにバカでかい水桶を闘技場に持ってきたんだ?
たしかにあれだけあれば弾切れの心配はないだろうが、あれではやつもあの場所から身動きが取れんだろう。
イリスが剣で近距離に踏み込んでしまえば、トルネは終わりだ。
踏み込ませない自信があるのか…?それとも…。
◆
「ふぅっ…」
イリスは深呼吸して、頭を冷静にすることに努めた。
落ち着け…!イリス。
トルネの挑発に乗ってはダメだ。
相手を強引に、自分の土俵に巻き込むのが彼の戦い方なのだ。
私は、私の戦い方をしなければ。
イリスはまた剣を構える。
ボールを避けることも、斬ることもできない。
しかも、ああ見えてトルネは結構すばやい。
とくにアイテムを使用するスピードと、そのタイミングは神がかっている。
それならば…。
イリスが集中力を増していく。
その前…。
彼がボールも投げれない、反応もできない圧倒的な速度で、彼を斬る。それしかない。
何も考えず、全力の全力で。
今できる最高の技で…!
「行きますよ、トルネ。
剣技…!!」
トルネが身構える。
「【はやぶさ斬り】!!!!」
イリスの体が、突然消えたかのようにブレる。
それは彼女の父、ファルコから教わった必殺の剣。
彼女はまるで獲物を狩る隼のように、トルネに襲いかかる。
「ふッ!!!!」
あっ、という間もなく、イリスはトルネの懐に潜り込んでしまった。
そしてイリスの腕から閃光が走る。
その剣がトルネを捕らえたかのように見えたが…。
ヒュオッ!
それは、トルネの服を切り裂いたが、薄皮一枚のところでトルネは身をかわした。
「!!!!!」
よ、避けられた…!?
◆
と言うよりも…。
レナードは冷静に分析する。
剣を避けたと言うよりも、イリスが動く前からトルネは逃げ出していた、と言うのが近いな。
剣撃を避けたように見えたのは偶然。
あまりにもイリスの剣がやつに届くのが速かったからそう見えたにすぎない。
チッ、まるで運だけで生きてるような野郎だ…。
◆
タタターーーーーっ!!!!!
トルネが、イリスと水桶を置いてスタコラと逃げ出す。
「???!」
そのトルネの様子を見て、一瞬、混乱するイリス。
ボンッ!!
その足元で小さく爆発が起こる。
下を見ると、水桶が壊れ、水が漏れ出している。
そして、中に入っているスライムたちが、一斉にプルプルと震え出していた。
◆
「やはり罠か…!」
レナードは、奇妙に感じていた感覚の謎がとけた。
やつは説明の中に、少しの嘘を混ぜていたんだ。
あの《スライムボール》の中には、様々な種類のポーションなんか入っていない!
最初の四つをのぞいて全て…、
◆
「《爆発のポーション》か!!!」
イリスも一瞬でそれを理解した。
イリスは慌てて、その場から離脱する。
スライムたちは、ポーションを活性化させつつ、大きく膨れ上がり…!
そこまでは、イリス、レナードの二人にも理解ができた。
しかし次の瞬間の光景までは、想像できなかった。
次の瞬間、闘技場には、天にまで届くような巨大な火柱があがった。
◆
火柱がおさまり、闘技場の端に伏せていたトルネは、立ち上がって闘技場の中心を見た。
「ふぅ…、なんとか勝てたな…!!」
審判席にいたレナードも、観客も、あまりの光景に声も出せない。
◆
「こ、これは…?!」
「なっ…、なっ、なっ!!!!!」
それを観ていた国王とギルモア校長も、あまりのことに言葉を失っていた。
「いっ、イリスちゃんを…、こここここ殺しおった…!!!!!!!」
その視線の先、闘技場には、底の見えない巨大な穴があいていた。
補足ですが、スライムの連鎖反応についてはプロローグ第一話に少し記載されております。