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TORNE!! ~アイテム屋トルネの冒険~  作者: パノパノ
実技大会!編
39/51

準決勝!!VSイリス 前編

 

 王立パルキア騎士学校、実技大会。

 二日目の午後。


 準決勝。

 トルネとイリスの試合がはじまる。




 ◆




 そのころ観客席では。




「むむむ…、まさかイリスちゃんとトルネ君が戦うことになるとはのう…」


 観客席で見ているギルモアは、気が気ではなかった。


「はは、さすがのギルモア校長も、自分の孫娘の試合となると、緊張すると見えますな?」


 一緒に試合を観ている国王が、ギルモアに声をかける。


「い、いや、お恥ずかしい。自分の御前試合でもこんなに緊張したことはないんですがの…」


「分かります分かります。お互い、孫を持つ身。もういい年ですからなぁ」


 国王は、まだ小さな孫を撫でながら、えびす顔で笑う。


 くっ…!人ごとだと思って、このクソジジィめ…!


 ギルモアは心の中で密かに悪態をつく。

 ギルモアはイリスが心配でたまらなかった。

 普通の生徒相手でも心配なのに、今度の相手はよりによって、あのトルネだ。

 今までの試合での、容赦のない、常識のない、悪逆非道の戦いっぷり。

 いったいイリスに何をしてくるかわかったものではない。


 それでも、生徒たちの意識が少しでも良い方向へいくのなら、と放置していたが、まさかこんなことになるとは…!

 さ、さっさと適当な理由をつけて、トルネ君を失格にしておくんじゃった!!

 でも、今からそんなことをしたら、きっとイリスちゃん怒るだろうしなぁ…。


 ギルモアは闘技場のトルネを見る。



 それに、一体なんなんじゃ?あのトルネ君の持ち込んだものは…?

 不安じゃ…、イリスちゃん、ガンバじゃよ…!



 悩むギルモアは、しかしなす術もなく、ただ二人の試合の行方を見守るほかなかった。




 ◆




 観客席がざわついている。

 闘技場には、イリスとトルネの二人が立っていた。


 イリスに関しては、今までの試合どおり、ロングソードと盾を持っている。

 だが、トルネの方はいつもと様子が違う。

 トルネの足元には水の入った大きな桶が置いてあり、中には何かボールのようなものが大量に入っていた。


 レナードが説明を始める。


「今回の試合は、イリス・マキアートの要望を認め、アイテムの使用を無制限に認める特別ルールとする。

 二人とも、準備はいいな?悔いのないように戦え」


「私の方は、準備はできています。

 いつでも開始してください」


 イリスがレナードに頷く。


「ちょっと待ってくれ」


 トルネは手をあげてレナードに申し出る。

 トルネがイリスに目を向ける。


「少しこのアイテムの説明させてもらうぜ。

 このまま試合開始じゃ、あまりにもこちらが有利すぎる。

 負けたあとで、グダグダ文句を言われても困るからね」


 トルネが挑発をするように、イリスに言う。


「…あなたに騎士道精神がわかるとも思えません。

 私を油断させようとしても無駄ですよ、トルネ」


 イリスがトルネを睨む。


「別に騎士道精神なんかじゃないさ。

 こっちのためにルールまで変えてもらって、こちらが恵んでもらってばかり。

 プロの商人としちゃ心もちが悪いというだけさ」


 トルネが桶の中から、ボールを一つ取り出す。

 それは綺麗に透き通った緑色をしていた。


「いいか?

 こいつはオレの開発した歴史的大発明(になる予定の)《スライムボールくん二型(ツー)》だ!

 イリスも見ただろ?

 鎧を着た男子生徒の集団が、あっという間に全滅するさまを。

 こいつはあの水鉄砲の中に入っていたものさ」


「…」


 イリスは、一瞬にして周りが炎に包まれた、あの光景を思い出す。


「この《スライムボールくん》の中には、それぞれに、様々な効果、種類のポーションが入っている。

 これによって従来の《回復のポーション》や《解毒のポーション》のような回復系のポーションだけではなく、今まで発明はされていたものの、容器の問題で戦闘に使用されることのなかった《麻痺毒のポーション》や《爆発のポーション》《酸のポーション》なんかの危険極まりないポーションも、問題なく、しかも大量に使用することができるようになったのさ」


 黙ってトルネの説明を聞きながら、イリスは考えを巡らせる。


 なるほど。

 あの爆発は、ボールの中に《爆発のポーション》を仕込んでいたからか…。

 しかし、それにしても恐るべき威力だった。

 あれがトルネの作った、【魔法使い】のものと見紛うほどのアイテムの威力なのか。


「まぁ、この《スライムボールくん》の中に入っているポーションは、目に見えないから、まだ普通の人間には扱えないけどね。まだまだ試作段階。

 でも、オレは【鑑定】のスキルを持ってる。

 だから一目で、そのボールの中身が何のポーションなのか理解することができるんだ」


「!」


 イリスは驚く。


 トルネが、スキル持ちだったとは…!


 スキルとは、神に与えられたと言われている、人が生まれたときから持っている特殊な能力のことだ。

 持って生まれる人間は、すごく珍しい。

【鑑定】のスキルは、その名の通り、武器や防具の種類や効果、呪いの有無を調べることのできる能力である。


 それを聞いていたレナードは合点がいった。


 なるほど…。

 やつ(トルネ)は【鑑定】のスキルのおかげで、ナルシスが持っていた《電光石火(でんこうせっか)のポーション》のことを一瞬で見抜くことができたのか…。

 学校にも通っていないクソガキのくせに、妙にアイテムに詳しいわけだ。

 アイテムを見ればすぐにその効果がわかる上に、多くの種類のアイテムが集まりやすいアイテム屋という職。

 まさに、生まれながらのアイテムの申し子というわけか。


 トルネが説明を続ける。


「さて、この《スライムボールくん》。

 こうやって水の中に入っていれば危険はなんにもない。

 だけど外に出て、何かにぶつかったり衝撃を与えると、とっても危険。

 中のポーションを活性化させながら破裂しちゃうんだ。


 つまり今回、オレが使うアイテム。

 それは…、」


 トルネが、ビシッとイリスに指をさす。


「《水薬(ポーション)》!!

 アイテム屋は、ポーションに始まり、そしてポーションに終わる!

 今まで(つちか)ってきたオレのアイテム製作の技術の全てをもって、イリス、お前を倒す!!

 覚悟はいいかな?」


 トルネはにやっと笑う。


 イリスは震えるほど嬉しかった。

 トルネは、商人として秘密にしておきたかったであろう自分のスキルをイリスに打ち明けてくれた。

 この勝負のためだけに。

 今、トルネは本気で自分のことを見ている。

 イリスの願い通りに、本気で自分のことを倒そうとしてくれている。

 自分も、それに応えなければいけない。


 イリスはその笑顔に、笑顔では応えなかった。

 真剣な表情で剣を構える。



「ありがとう、トルネ。

 私も、今までの全てを。

 全力をもって、あなたを倒す!!」



 これがイリスにとっての最大の敬意だった。

 剣を構える手に力がこもる。


 レナードが開始の合図をする。


「…それでは、双方悔いのないように」





「トルネ対イリス・マキアート!!

 はじめっ!!!」





 試合開始の太鼓の音が鳴り響いた。

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