そんな二人の帰りみち
長い実技大会の一日目が終わり、イリスとトルネは二人で歩いていた。
暴れるギルモアをなんとか抑え、説得し、その帰り道であった。
あたりは日も暮れはじめ赤く染まっている。
「まったく、お祖父様にも困ったものですね…」
「いや、ほんとに…」
話を聞かないのは血筋だろうか?
イリスそっくりだとトルネは思った、が、口には出さなかった。
「私とトルネが婚約するだなんて…」
「…」
「…」
トルネはなんとなく気まずくなって黙ってしまった。
イリスは顔を赤らめている。
なっ、なにかな?この空気は!?
ちょっと!!
オレってしゃべるのは得意だけど、黙るのはあんまりなんだけど…!
トルネは意味不明の空気に焦っていた。
商売の場数は踏んでいても、こういう経験の場数は踏んでいない。
空気に耐えられなくなり、トルネから話をきり出す。
「いっ、イリスには悪いことしちゃってゴメンね!
店を馬鹿にされたら、なんだか頭に血がのぼっちゃって!!
つい、イリスを賭けるだなんて…」
「いえ、いいんです、」
「ーー私は、トルネを信じていましたから」
イリスが、まっすぐにトルネを見て笑う。
またトルネは黙ってしまった。
トルネはイリスの方を見ないようにして歩く。
なっ、なっ、なにかな?!!ほんとにこの感じは!!?
イリス、イリスって、今日はなんだかすごく…、
「トルネ?」
「えっ、あっはい!」
「私は…、実はずっとトルネに言いたかったことがあるんです…」
「えっ?」
「あの森でトルネに助けられてから、ずっと心に秘めていたことが…」
「えっ?えっ?」
何?!なにこの流れ!!アレ?!聞いてないよ!!
「トルネ…、私は、あのときからずっと…」
「はっはい!」
トルネは、なぜかすごく緊張している。
「ずっと!!あのとき飲んだポーションが飲みたいんです…っ!!」
「…」
…えっ?
「えっ?ぽ、ポーション…?ですか?」
トルネはぽかんとしていた。
「そうです!!あの味がずっと忘れられなくて!!
でも、トルネの売店にも置いていなくて…!」
イリスはくねくねと身をよじらせている。
「あ、ああ…、あのとき飲ませた《解毒のポーション》のこと?
あれは、たしかに店には置いてないなぁ…」
あのポーションは試作品で作ったものだ。
たしか店に置いてあった、廃棄する用の薬草を山ほどぶち込んだのだった。
「あれって、もうないんですか?」
「う、うーん、そうだね」
「…本当に?」
「う、うん」
「本当の本当に?」
「な、ないってば」
「本当の本当の本当に??」
な、なんだ?
えらく聞いてくるな…?
もしかしてあのポーション、中毒性でもあるのだろうか…?
「かかかか隠してるんじゃないですか?!一つくらい…!
あれじゃなきゃあ、ダメなんです…!!
トルネの作った、あれじゃないと…!!」
イリスの目が、完全にやばかった。
本気の目だった。まるでピーの中毒患者だ。
「い、いや、ハハ、そ、そうね…、そのうち作ってあげるよ、気が向いたら…」
トルネは適当に話をごまかす。
「本当ですか!!?本当ですね!!!
ッシャアアアアアアア!!!
約束ですよ!!!
言い値で買います!!!いくらでも出しますよ!!!」
ハハハ…、作ってたまるかそんなもん。
も、もしかして、入学式の日まで会わなかった間も、イリスがオレのことを気にかけてくれていた理由って、それが原因だったんじゃなかろうか?
なるほどなと合点がいった反面、少し寂しい気がしたトルネだった。
◆
イリスとトルネは二人で歩いていた。
怒りでトルネを血祭りにあげようとするギルモアをなんとか抑え、トルネの睡眠薬で落ち着かせた、その帰り道であった。
あたりは日も暮れはじめ赤く染まっている。
「イリス…」
「はい?」
分かれ道で、トルネがイリスに話しかける。
「実は、イリスに頼みがあるんだ…」
「え?」
トルネが私に頼み事を?
めずらしい。
「この首飾りを、イリスに持っていて欲しいんだ」
トルネがポケットから、何かを渡してくる。
それは、銀の十字架を模した綺麗なペンダントだった。
「これを…?」
「うん、これはオレにとって、すごくすごく大切なものなんだ、
でも、明日の五回戦の相手はすごく強い…、オレも…、勝てるかどうかわからない。
だからこれをイリスに預かっていて欲しいんだ…!」
「…!」
トルネは、真剣な表情だった。
実技大会は実戦形式の大会だ。
たとえ刃引きされて、教師による審査を通った武器でも、命に関わる怪我をすることもある。
当然、勝ち進めば進むほどその危険は増していく。
トルネにはそれがわかっているのだ。
「わかりました、それを預かればいいんですね…?」
「うん、それを持って、五回戦を見守っていて欲しい…」
こんなに弱気になったトルネは初めて見る。
イリスは元気付けようと強く返事をする。
「わかりました!必ず…!」
「うん。そしてもしオレが勝ったら、一番にそのペンダントをオレに届けて欲しいんだ」
「そんな…!負けるだなんて…」
考えたらダメですよ!と言おうとして、イリスはそれをやめた。
騎士の世界に絶対はないのだ。
「イリスにしか頼めないことなんだ。
そして、オレにこう言ってほしい…」
「は、はい…」
イリスは真剣にトルネの話を聞く。
「ポポリペンチョパスカーテリププピロポン」
「ぽぽ…、え?」
イリスはぽかんとする。
え?なんだって?なんて?
「だから、ポポリペンチョパスカーテリププピロポン」
「ちょ、ちょちょっと待ってください、メモしますから…!」
イリスは、焦ってメモを取る。
「いい?必ず、勝って一番にそのペンダントを届けてね!!絶対だよ!!!」
トルネは、走って店の方に帰っていく。
「ちょっ!ちょっと待ってください!?ポポリ…、なんですか?!ちょっとトルネ?!」
「ポポリペンチョパスカーテリププピロポンだからねーーーーっ!!!」
トルネは走って、見えなくなってしまった。
「い、いったいなんなんでしょうか…?」
イリスにはさっぱりわけがわからなかった。
イリスの手の中で、ペンダントだけが怪しくキラリと光っていた。
また、どうでもいい補足ですが、
ポーションの中に入っていた薬草については、プロローグ「魔法使い」の回の最後に少し触れられています。
飲めば力が湧いてくるような効果もあるようですが、中毒性もある危ないポーションになってしまったようですね。




