四回戦 そのあとの話
審判席からレナードが降りてくる。
「…」
ナルシスを見ると、完全にのびていた。
レナードはトルネに話しかける。
「おい、お前…」
「はい?」
「…いや、なんでもない」
「勝者!!トルネ!!!」
そうレナードが宣言すると、歓声が巻き起こる。
トルネは観客席にむかって手を振って答える。
「どうもどうもー!みなさん、アイテム屋パパルコをご贔屓にー!!」
「…」
レナードはそのトルネの後ろ姿を、じっと見ている。
レナードにはこの試合のはじめから一つ、気になっていることがあった。
あの野郎…。
ナルシスが《電光石火のポーション》を使ったとき、あの距離からそれを一目で見抜きやがった…。
前に見たことがあったってのか?あんな超レアなアイテムを…?
◆
闘技場の生徒の控え室にて。
「やりましたね!トルネェ!!!」
興奮したイリスが、トルネに抱きついてくる。
身長差により、イリスの豊満な胸がトルネの顔に強く押し付けられてくる。
「ぐ、ぐるジィ…」
トルネは呼吸ができない。
必死に抜け出そうとするが、イリスの腕は万力のように固く、びくともしなかった。
「わー…、イリス様、大胆っスぅ…」
「お、お嬢の胸…」
マルコは少し羨ましそうだ。
「っぷぁ!!!イリス!!殺す気かよ!!」
トルネは、天国から脱出する。
もう少しで本当に天国に行くところだった。
「す、すみません、つい嬉しくなってしまって…」
イリスが謝る。
「しかしすげえな。これで四回戦も突破か。
しかも今回はアイテムを使わず、正々堂々とナルシスを破ったじゃないか。
一体どうやったんだ?」
マルコが聞いてくる。
「ハァハァ、べ、べつに。偶然だよ。
本当はこの《爆発のポーション》を使って、木っ端微塵にしてやろうと思ってたんだけどね…」
「そ、そんなことしたら、たとえ反則にはならなくても犯罪で捕まるっスよ…!」
トルネは、イリス、ナナ、マルコに、簡単にさっきの試合の説明をする。
「はぁ…、動きに法則性?ねぇ…?」
「上から見てたっすけど、全然気づかなかったっスよ。
ナルシスが、びゅんびゅん動き回ってたようにしか見えなかったっス」
ナナとマルコが首をかしげる。
「まぁ、話を聞いた状態で、もう一度見ればすぐにわかると思うよ。
イリスも見ててわからなかったの?」
「え?私ですか?」
言われてイリスが考え込む。
「私は…、まぁ、試合の途中で、ナルシスがすごく単純な動きを繰り返しているのにはなんとか気づきましたけど、
しかし、試合の最初からは、さすがに気づけませんでしたよ」
「オレだって、対処法を知らなきゃあっという間にやられてたさ」
トルネは肩をすくめる。
「しかしナルシスめ、なんと卑怯な!!
正々堂々戦えとトルネを煽っておきながら、裏でそんな高価なポーションを使っていたなんて…!!」
「まぁまぁ、お嬢」
「そうっスよ、あれだけ派手に負けたんっス。
今ごろはきっともう学校中の笑い者っスよ」
ナルシスは取り巻きを使って、学校中にイリスとの婚約のことを言いふらしていた。
その上で、多くの人間の目の前でトルネに決闘を挑み、そして負けたのだ。
自業自得とはいえ、学校中、いや、王国中の笑い者になることは目に見えていた。
貴族は何よりも恥に弱く、そして他人の恥に厳しい。
ナルシスにとっては最悪の結果だろう。
「しかも、オレとの賭けに負けたから、学校を退学しないといけないしね」
「えっ?そうだったんっスか?それは知らなかったっス」
「そうですよ、元々そっちが本当の賭けです。私はオマケです」
「オマケっスか…、ずいぶんおっぱいの大きなオマケっスね…!」
ナルシスはイリスとの婚約のことは言いふらしたけれど、自分が負ければ退学しないといけないことは言っていなかったのか。
自分が負けるわけがないと思っていたのかもしれないが、しかしなんともまぁ都合のいい話だ。
「なぁんだ、私たちはてっきり…」
「なぁ…?」
ナナとマルコは、顔を見合わせる。
「?なんですか?てっきり」
「てっきりトルネ君が勝ったら、二人は婚約するのかと…」
「ええ」
「「ハァ?!」」
イリスとトルネは、同時に聞き返した。
「な、なぜそうなるんですか!!?」
「だって…、これって婚約をかけた決闘だったわけっスから」
「勝った方と結婚するのかなぁ、と」
たしかに退学の話を知らない以上、そういう流れになってもおかしくはない。
「…それって、他の生徒もそう思ってるのかな…?」
トルネが恐る恐る聞く。
「そうっスねぇ…、超思ってると思うっス!」
バターーーーーーーーーーン!!!!
突然、控え室の扉が豪快に開く。
そこには、上半身裸で、身の丈ほどの大きな斧を持ったギルモア校長が立っていた。
その肉体は歳が七十近いとは思えぬ筋肉である。
「きっさまかあぁぁぁ…!ワシの可愛いイリスちゃんと結婚したいだとぉぉぉん?」
ギルモアは鬼の形相で、口の中から湯気のような煙が吹き出している。
あきらかに正気ではなかった。
「こ、校長?!」
「お祖父様?!」
「そんなに結婚がしたいのなら、この【不死身のギルモア】を殺してからいけやぁぁぁあああ!!!!」
ギルモアが鬼気迫った様子で、巨大な斧を振り下ろしてくる。
トルネたちは間一髪、その場から回避する。
四人が座っていた椅子が粉々に砕け散る。
ギルモアは超本気だった。
「お、お祖父様!落ち着いてください!!」
「こ、校長!!言ってない!!オレそんなこと言ってないです!!」
トルネは必死に説明する。
「聞く耳持たん!!!」
ギルモアがまたトルネに飛びかかってくる。
こういうまったく話の通じない、しかも力づくの相手は、トルネが絶望的に苦手とする相手だった。
この後、逃げ回りながらのイリスの説得でギルモアが正気を取り戻すまでに、実に一時間の時を必要とした。
◆
「くそっくそっくそっ!!!!」
決闘でトルネに負けたナルシス・ヴァーミリオンは、自室で激しく悪態をついていた。
「な、ナルシス様…!」
扉の前に立っていた取り巻きの一人が、心配そうに声をかける。
「うるさいっっ!!!私に話しかけるんじゃあないっっ!!!!」
「ヒぃ!!」
ティーカップを投げつけられ、怯えた取り巻きたちが部屋から逃げ出す。
「クソクソクソッ!!!!!!どうしてこうなった…!!!」
私はもう終わりだ!!すべて!!
一体なぜこんなことに…!!
あれだけ盛大に、しかも、国王のいる前で決闘を申し込んだのだ!!!
あとは勝つだけで、勝つだけでよかったのに!!
勝てば全てを手に入れられた!!!
万全を期したはずが、このザマだ!!!私はもう一生笑い者だ!!!!
あの男のせいだ…!トルネ!!トルネトルネ!!!
すべてあの平民の…!!
絶対に許さん…!!!必ずこの手で八つ裂きにしてやるぞ!!!!
ナルシスは一人、暗い復讐の炎を燃やすのだった。




