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TORNE!! ~アイテム屋トルネの冒険~  作者: パノパノ
実技大会!編
28/51

四回戦!!前編

 

 トルネの第四回戦の相手である、ナルシス・ヴァーミリオンの自室。


 ナルシスは何人かの取り巻きと、紅茶を楽しんでいた。




「くっく…!こいつは面白いことになったな…」


 あんな平民のガキを倒すだけで、マキアート家の令嬢と婚約だと?

 こんなうまい話が他にあるか?


 ナルシスは笑いが止まらなかった。


 そうなれば、ヴァーミリオン家の地位は王国の中でも確固たるものになる。

 わざわざ学校に通って、騎士の資格なんて取る必要もなくなる。

 すぐに父上に手紙を送り、婚礼の準備をせねばならない。


 それに、イリスのあの大人びた肉体(からだ)…。


 ナルシスは舌舐めずりする。


 あの世間知らずの女のでかい尻に、男をじっくり教え込んでやるのも悪くない。

 女に子供を産ませるのは、早ければ早いほうがいい。

 子供ができればイリスも、女のくせに騎士になりたいなどと、恥知らずなことは言わなくなるだろう。

 女が騎士の真似事など気分が悪い。


「ナルシス様、ご婚約おめでとうございます」


「このままいけば次期騎士団長ですか?」


 取り巻きたちが、ニヤニヤしながらナルシスに媚を売る。


「ふふ、気が早いぞ、お前たち!まだな」


 そう言いながらナルシスもまんざらでもない様子だ。


「しかし…、念には念を入れておくか。

 おい、あとであの女が知らぬふりなどできんように、

 この婚約のことを他の生徒たちにも触れまわっておけ。

 学校中の噂になるようにな」


「はっ!」


 ナルシスが取り巻きの生徒に指示を出す。


「それと…」


 ナルシスは、机の引き出しの中から封筒を取り出し、中から小さい薬瓶を取り出す。

 それはナルシスが、叔父から大会のために送ってもらったものだった。


「準決勝で使おうと思っていたのだがな。

 もう出し惜しみする必要もないだろう…」


 ナルシスの顔が醜く歪む。

 薬瓶の中に光る黄金の液体。

 それはナルシスの、とっておきの秘策だった。




 ◆




 王立パルキア騎士学校、実技大会。

 トルネの第四回戦。



 闘技場の観客席。



「イリス様ーーーー!!!」

「お嬢ーーーーーー!!!」


 ナナとマルコが、イリスを見つけると焦った様子で走ってくる。


「あ、二人とも。どうしたんですか?そんなに慌てて…」


「イリス様!!ヴァーミリオン家の嫡男と、婚約したって本当っスか!!?」


「ハァ?!」


 イリスが驚いて、すぐナナに聞き返す。


「こ、婚約って、どう言うことですか?!ナナ!!」


「え?だって本人が言いふらしてるっスよ…。

 次の試合で、ナルシス・ヴァーミリオンがイリス様との婚約をかけた決闘をするって。

 そしてイリス様も、そのことを(こころよ)く了承したって…!」


「なっ…?!」


 本人が言いふらしている?

 なんという姑息な…!

 周りに言いふらせば、私が約束を反故(ほご)にできないと、そう考えているのか!

 そんなことをしなくても私は約束を破ったりはしないというのに…!


 イリスは唇を噛み締めた。


「い、イリス様…?」

「どうやら、マジみたいだな…」


 ナナとマルコは心配そうにイリスをみる。


「しかし実際、これはまずいですぜ、お嬢。

 今は実技大会を観に、王国のお偉いさんも貴族もかなり来てる。

 そんな中で、婚約の約束をかけた決闘なんてやったらなかったことになんてできませんよ。

 もしこれで、トルネが負けでもしたら…」


「そうっス!子供のしたことじゃ済まないっスよ!!」


 もともとこの闘技場(コロセウム)は、決闘の作法を生徒に教えるためにわざわざ作られた施設である。

 それほど貴族にとって決闘とは絶対であり、必要不可欠な知識なのだ。

 勝者が敗者に何を要求しても、敗者はそれを守らなければならない。

 戦争が終わり、戦いのない平和の世になった今でも、その考えは根強い。


「…なかったことにする気はありませんし、その必要もありませんよ」


 イリスはまっすぐ闘技場のトルネを見つめる。


「トルネは絶対に勝ちますから」


「でもお嬢、トルネは武器もまともに扱えないんでしょう?!」

「何か勝算でもあるんっスか?!」


「いいえ。しかし、トルネは勝ちますよ」


 イリスはにこりと笑う。

 それを見て、ナナとマルコは心配そうに顔を見合わせる。


 ナナとマルコが心配する気持ちはわかる。

 しかし、イリスはなぜかそれ程不安にはならなかった。

 イリスにも、なぜか理由はわからない。


 トルネは武器も使えないし、体格は子ども並み。

 性格もひねくれている。

 自分の気持ちを素直に相手に伝えることはまずない。


 そのトルネが、私をまっすぐ見て、大丈夫だと言った。


 それだけでイリスには十分だった。


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