大会当日!!
空は快晴。
祭りの雰囲気に、パルキアの町は色めき立っている。
今日は、騎士学校の実技大会の日だ。
騎士学校の実技大会は、二日かけて行われるパルキアの名物行事だ。
この日は、他の町からも観光客も大勢くる。
下町の方では多くの屋台や露店が立ち並び、にわかに活気付いていた。
そして当然、その中にはトルネもいた。
「さぁ!!安いよ安いよ!!
ヒドラの尻尾だ!!なかなか食べられないよ!!
そこのお兄さん、どうだい!!
一つどうだい!!
故郷の恋人の、土産話に食べていかない?一個300Gだ!
どうだい!!」
「バッカ野郎!!故郷に恋人なんていねえよ!」
客の返しに、周りの客がどっと笑う。
「ありゃりゃー、こりゃ悪いこと言っちまった!
でも大丈夫、心配なさんな!!
うちの特製ヒドラの尻尾を食べりゃ、精力増強!気力満点!
男っぷりがイヤでも上がるってもんだ!
どうだい?特別に…」
「トルネ!!探しましたよ!!」
人混みの中からイリスが叫ぶ。
「…ほらね、この通り。
女の方がほっとかないよ!!」
周りの客が、またどっと笑う。
客をかき分け、イリスがトルネの側にやって来る。
「探しましたよ!開会式にも出ずに!
こんなところで何油売ってるんですか?!」
「何だって売るよ。商人だもの。見てわからない?
今日は、一番の稼ぎどきなんだ。
ハイ!お客さん、ありがとうー!一個でいい?おまけしとくよ!!
ていうか、よくここがわかったね?」
トルネは客をさばきながらイリスの相手をする。
「それは…、売店にいた、よくわからないあの生き物が教えてくれましたから…。
あれ、なんなんですか?店員って書いてありましたけど…、どうみてもあれモンスター…。
って、それよりも!
今日は、実技大会当日なんですよ!?もう戦う準備はできてるんですか?!」
「うーん、まぁ、なんとなくはね」
「なんとなく!!?…ですか…」
イリスは何か言いたげである。
やれやれ、イリスだって自分の試合があるだろうに。
人の心配ばかりしていてくたびれないのかね。
「大丈夫、勝てるって、信じてていいよ」
「そ、そうですか…!」
イリスは一瞬で、パアッと顔が明るくなる。
だから、そう簡単に人を信じるなって…。
まったく、正義の騎士様がこんなに騙されやすくて良いのかしら。
しかし、こんなどうでもいいことで嘘をつくなんて、案外振り回されている方はオレの方なのかもしれないな。
「ところで、ヒドラの尻尾って、私、初めて見ます。
へぇ、美味しそうですね」
「食べる?一個500G」
「…さっき言ってたのより、高くなってません?」
まぁヒドラなんて、オレも見たことないけど。
これは濃ゆ目に味付けした、デブガエルの足だ。
「じゃあ、まぁ、そろそろ行くかね。
と、その前に」
露店の上にかけ上がると、トルネは大声をあげる。
「よーし!!!!みんな聞いてくれ!!オレはこれから、騎士学校の実技大会に出る!!」
周りの人間がトルネに注目する。
トルネは持っていた麻袋を上に掲げる。
「こいつは、ウチの店の、この一週間の売り上げだ!!
こいつをぜーんぶ、次の勝負のオレの勝利に!!!!賭けるぞっ!!!!」
店の方で接客をしていた、パパルコの顔が真っ青になる。
周りから大きな歓声が上がる。
うおおおおおおおおお!!!
「よく言ったぁ!!トルネ!!」
「応援してるぞ!!!」
「騎士なんかぶっ殺しちまえ!!」
「やったれやったレェ!!!!!」
トルネはみんなに手を振って答えると、金を商売仲間に放り投げ、
スルスルと下に降りて行く。
「さ、いこか」
「は、ハァ」
町の大盛況の中、二人は学校へと歩いて行く。
「す、すごい人気ですね…!」
「ま、下町のみんなは、全員オレの家族みたいなもんだしね。
気のいいやつらさ」
「えーと、トルネの対戦相手って…」
「キース・ガルバード。男。
王国辺境地方の領主、ガルバード家の長男で、あまり生徒の評判は良くない。
得意の武器はロングソード。
魔法は使えず。試験の結果は、実技60点、学力60点でギリギリ入学。
入学式の日に、馬車で寮の部屋に大量の家具を運び込もうとして騒ぎになり、退学にされかけた」
「…ずいぶんと詳しいですね…」
「最近ずっと、ヒマだったからねー。
だから一週間の売り上げって言っても、実は大したことはないんだけど」
「えっ?…か、勝てますよね?」
トルネは、イリスの問いに真剣な顔をして答える。
「イリス…、オレはたとえ、それがたった1Gだろうと…」
「絶対に!!負ける勝負にお金を賭けないよ!!!!」