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TORNE!! ~アイテム屋トルネの冒険~  作者: パノパノ
出会うひとびと編
22/51

契約は計画的に 後編

 

 それは変な生き物だった。


 丸みを帯びた柔らかそうな体に、赤い皮膚。

 角が二本に、つぶらな瞳。

 パタパタと、とても小さな羽が生えており、お尻からは短い尻尾がくるくるぴょんと突き出ている。


「…へんちくりんな豚だな…。羽が生えてやがる」


 トルネはそう結論した。


「豚とはなんだがお!ぶっころすがお!」


 激昂した空飛ぶ子豚が、飛びかかってくる。

 その羽を、トルネは難なく捕まえる。


「は、離せ!」


「…うーん、高く売れるかも知れん」


「ひえ?!や、やめるがお!話せばわかるがお!」


 物騒なことを言うトルネに、子豚は焦ってバタバタ短い手足を振り回す。


「お前は一体何なんだ?

 ゴブリンには見えないけど…」


「聞いて驚け!我は、レッドドラゴン!

 人間の世界を、炎の地獄に変えるためにやってきたのがお!」


「…こちょこちょー」


「アヒャヒャ!や、やめるがお!!」


 脇をくすぐると、ケタケタと子豚が笑う。


「レッドドラゴンだぁー?ウソつけ」


 レッドドラゴンといえば、子供でも知っている、超危険モンスターの代名詞である。


 かつてレッドドラゴンがあらわれたときには、ひと吹きで国が滅びただとか、森が燃えて無くなってしまっただとか、そういうレベルの、やばいモンスターである。

 だが最近ではレッドドラゴンが現れたという話は聞かないが。


「バカにすんなよ?図鑑で見たことあるぞ。

 レッドドラゴンって言ったら、あれだろ…、何百年も生きてて、頭にツノが生えてて…」


 生えてるな。


「尻尾があって…」


 一応あるな。


「羽が…」


 ある…。

 子豚を見ると、ふふんと、偉そうに踏ん反り返っている。

 ま、まじか…、おい?


「いやいやいや!いくらなんでも、こんなに小さいわけないだろ…!

 一匹で国を滅ぼすようなモンスターだぞ!

 しかもこんな、ぶっさいくな…」


「ぶっころすがお!」


 機嫌を損ねたらしい子豚は、またじたばたと暴れ出す。

 しかし、短い手足では届かない。


「はぁはぁ、…これは、我の真の姿ではないがお…!」


「どういうこと?」


「教えないがおー」


 子豚はぷいと顔を背ける。


 トルネはカバンの中から、ねずみをおびき寄せるために持ってきたサンドイッチを取り出す。

 中には、特製のローストビーフがぎっしりと詰まっている。


「!!」


 あきらかに子豚の目が奪われている。

 野菜しか食べていないと言っていたからな…。肉が恋しかろう。


「れ、レッドドラゴンは、何百年かに一度、古い肉体を捨て、生まれ変わるがおよ!

 そうすると、いっとき魔力や力がすっごく落ちるがお!

 それから時間をかけて、ゆっくり体を再生していくがお!

 五十年くらいは、みんな大人しくしてるがおよ!」


 何も言っていないのに、子豚はペラペラと喋り出した。

 こいつ、面白いな…。

 しかし五十年とは…!

 気の長い話だ。

 悠久を生きるレッドドラゴンにとっては、それほどでもないのかな。


「ふーん、で、お前はなんで、大人しくしてないでこんなところにいるんだ?」


「い、言いたくないがお…」


 ほーれほーれ。

 トルネは、サンドイッチを目の前にちらつかせる。


「う…、そ、それが、支配してた火山から、ちょっとお暇を出されたがお…!

 我、争いとか、戦争とか大好きで、あんまりみんなに好かれてなかったから…」


 レッドドラゴンは、しょんぼりする。


「ふーん…。ほれ」


「キシャーーーーー!!ガツガツガツ!!」


 トルネは、レッドドラゴンにサンドイッチを渡す。

 レッドドラゴンは貪るようにそれを食べ始めた。

 食っているところだけは、迫力満点だった。


 なるほどね…。

 つまりは、弱体化したところを狙われ、反乱を起こされたわけか。

 永く生きて頭が良くなるというのも考えもんだな。

 権力が生まれ、文化が生まれ、そして争いが起こる。

 やってることは、モンスターも、人間も、そう変わらんわけか。


「ムシャムシャムシャ!!」


 …しかしこいつ、言葉も喋れて、そこそこ頭もいい。

 使えるかもしれん…。


「おい、お前ー。

 本当にレッドドラゴンなのか?

 あの有名な?」


「さっきからそう言ってるがお!」


「そんなちーさい体で、何百年も生きてるなんて、とても信用できないなー。

 そんなに優れているんなら、人間の文字なんかも書けたりするのか?」


「当然がお!人間の言葉なんて、楽勝がお!」


「計算とかは?」


「竜式そろばん検定、一級持ってるがお」


「…それは、信用できるのか…?」


 ていうか、ドラゴンもそろばんやんのか…。


「まあいいや、じゃあちょっと試しに、ここに名前を書いてみて」


「いいがお。

 きったない本だがおねぇ…。

 人間の文化も、底が知れるがお」


 そう言いながら、レッドドラゴンはペンを受け取ると、カリカリと名前を本に書きだす。


「へぇ〜、なかなか字上手いじゃない。…ガルスペリオン・ランド・マリナ・ペペリカ・マ・オライオン?

 変な名前だなぁ…。無駄に仰々しい」


「ぶっころすがお」


 そう言いながら、ドラゴンは名前を書き終わる。


「ふむ、それではここにオレの名前を…、と。

 契約者、トルネ、と」


 トルネは、本を閉じる。


「よし、さて。

 世間知らずのドラゴン君、ここから出ていってもらおうか」


「イヤがお、ここからは絶対でないがお…、んがお?!」


 ドラゴンの体が、トテトテと出口に向かって歩きだす。


「なんだがお?!か、体が勝手に動くがお?!

 んギギーーー!!何したがお!!!」


「内容も確認せずに、商人が出した怪しい紙にサインをしない。

 お母さんに教わらなかったのか…?

 これでお前は、もうオレの下僕だ…」


 ニチャァ、とトルネの顔が醜く歪む。


「マジックアイテム、罪科(ざいか)魔導書(グリモア)

 こいつは、契約者と、奴隷を縛るマジックアイテムだ。

 契約が結ばれれば最後、決して奴隷は契約者のいうことに逆らえない。

 かつて、王が罪を犯した人間を罰するために作られたといわれる、超レアアイテムだ」


「な、なんだとがお…!うおおギギ」


 ドラゴンは、必死に抵抗をしているようだが、無駄のようだった。


「ケケケ…、売店のアルバイトを探すために偶然、持ち歩いていてよかったぜ…!

 モンスターにも効くかはわからなかったが、これでアルバイトは確保だな。

 ドラゴンには労働基準法も適用されないだろう…、ククク、好都合だ!」


「そ、そんなブラック企業で働くのは御免がお!!」


 ドラゴンは息を吸い込むと、大きな声で咆哮を上げた。

 すると、天井から、ボトボトと何匹かの火トカゲが落ちてきた。


「む!」


「フハハ!油断したがお!?油断したがお!?

 たとえ、魔力が落ちたとしても我はドラゴン!

 低級の眷属を支配することなど、造作もないこと!

 火トカゲたちよ!こいつを黒焦げにするがお!」


「キッシャアアア!!」


 火トカゲたちがトルネに襲いかかる。


「甘い!火トカゲが怖くて、アイテム屋がやってられるか!!」


 叫ぶとトルネは、カバンに手を突っ込み、あらかじめ用意していた灰を、火トカゲたちに浴びせかける。


「ギ、ギ?ギャオオオオオオん」


 白い灰が、火トカゲたちに降りかかる。

 すると、火トカゲたちはその灰を、浮かれたように必死に集めだす。


「な、何してるがお?!我が眷属よ!さっさとそいつを殺っちゃうがお!」


「ムダムダ」


 何もわかっていないドラゴンにトルネが説明する。


「こいつは、パラスウッドっていう木を焼いて作った上等の灰さ。

 匂いが強くて、香料などにも使われるパラスウッドの灰は、火トカゲの大好物。

 舐めると、とても気分が良くなって、火トカゲは酔っ払ったようになってしまうんだ」


 要するに、猫にとってのマタタビみたいなものだった。

 火トカゲたちは、必死に灰をかいだり、体をこすり付けたりしている。


「こ、こんなもので、我が眷属たちが…!卑怯がお!!」


「ちなみに、中には銀の粉が混じっていて、舐めていると、そのうちお腹が痛くなる」


「け、けんぞくぅーーーーーーー!!!」


 火トカゲたちはひっくり返って、ピクピクと動かなくなってしまった。


 絶望しているドラゴンを、トルネがひょいと捕まえる。


「まぁまぁ、聞けって。

 どうせこのままここにいたら、食料なんか運ばれてこなくなるぞ。

 だいたい、モンスターがいると分かれば、騎士がお前らを退治しにくるだろうし…」


「ぐぐ…」


「オレのところに来れば、少なくとも飯と住める場所は用意してやれる。

 ただしその分、きっちり働いてもらうがな」


「…うう、わかったがお。ただし、力を取り戻すまでの間がお」


「おーけー、おーけー。契約成立だな。

 あ、でも人前で言葉は喋るんじゃないぞ?騒ぎになるからな」


 こうして、無事、アイテム屋パパルコ二号店の店員が増えたのだった。

 格安で。




 ◆




 翌日。



 レナードが、売店にやってくる。


「ちっ、剣がボロボロになっちまったぜ…、あいつらが無茶苦茶しやがるから…」


「がーおー(いらっしゃーせー)」


「…」


 レナードは、目を疑う。

 売店の中には、訳のわからない生き物が浮かんでいた。

「店員」と大きく書かれたTシャツを着ている。


 な、なんだ…?こいつは。

 なんで学校の中にモンスターが…?!

 た、退治しちゃっていいのかな…。

 でも、Tシャツに店員って書いてあるし…。


「がお?(なんだこいつ…。人の胸元ばっかり見やがってがお。変態がお。隻眼の変態がお)」


 レナードが混乱していると、生き物はノートに文字を書き、それを見せてくる。


 《なににします?》


「え、ああ、じゃあ、騎士用長剣お手入れセットを…」


 《300Gになります》


 得体の知れない生き物が、また文字を見せてくる。

 横では、何匹かの火トカゲたちが、せっせと商品を袋に詰めている。


「はい…、300Gね…」


 恐る恐るお金を渡すと、得体の知れないモンスターが商品を渡してくれた。


「がおー(ありあっしたー)」


 モンスターたちに手を振られながら、レナードは売店を出て行く。


「???」


 な、なんだったんだ?一体あの店は。

 モンスターが、店員をやっている店なんて聞いたことがない。

 まぁとくに危険な感じではなかったが…。

 相当な腕前のモンスター使いでも、店員にいるのだろうか?


 レナードは、パタパタ浮かんでいたモンスターのことを思い返す。

 なんだか、プニプニとしていて、丸っこくて可愛らしかった。

 今まで感じたことのない、不思議と癒されるような感覚をレナードは感じていた。


「…また行ってみるか…」


 レナードは空に向かって、そんなことをつぶやいた。


ブックマークしてくださった何人かの方、本当にありがとうございます。


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