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TORNE!! ~アイテム屋トルネの冒険~  作者: パノパノ
出会うひとびと編
20/51

剣の天才シャンテリオン

 

「オラァッ!!!」


 ドゴォッ!!


 マルコが渾身の力で、体当たりをかます。

 対するレナードは、事も無げにそれを受け止めてみせる。


「ふん、なかなかいい当たりだ。だがな…」


 そして、前につきでたマルコの足を足で払う。

 マルコは、思いっきり校庭に頭をぶつけた。


「いっデェ!!」


「鈍足なんだよ、テメーは!

 盾持ち(タンク)だからって、ノロマでいいと思うなよ!

 てめーらは先頭で戦うことになるんだ、臨機応変に対応できる足がなきゃ、隊が自由に動けねーだろうが!!

 ほら次ぃ!!さっさとかかってこい!!」


 イリスのクラスの生徒は、全員校庭に出ていた。

 実技審査を兼ねた、レナードによる体力測定。もとい、体力の限界がどこにあるか測定である。

 その測定方法は、ただひたすらレナードに挑んで行き、いつぶっ倒れるか調べるというアホらしいものである。

 生徒が攻撃を仕掛け、それをレナードが潰し、殴り、罵倒して、それを延々と繰り返す。

 それが休憩なしでもう何時間も続いていた。

 その測定方法はともかく、たった一人で四十人近い生徒全員を相手にし続けているレナードの体力も相当なものだ。

 生徒たちのわずかばかりのプライドはとっくに折れて、体力も限界を超えていた。


 もうギブアップしていない生徒は、マルコとイリスを含めた何人かだけだった。


「ぅお願いしますっ!!」


 イリスが剣を構える。


 また、こいつか…。

 レナードが内心でげんなりする。

 しかし、表情には決して出さない。


 イリスは体力測定が始まってからというもの、かなりの頻度で挑戦してくる。

 いくらボコボコにしても、また次にきたときにはケロっとして立ち向かってくる。

 別に、挑んでくる順番が決まっているわけではないのだから、普通ちょっとくらいサボるものだ。

 まぁ、そういうナメた生徒は後で念入りに半殺しだが。

 しかし、ものには限度というものがある。


「オラァ来い!!」


「はぁああああっ!!!」


 イリスの剣が、レナードの剣とぶつかり合う。

 凄まじいほどの気迫と速さだ。

 疲れを全く感じさせない。

 これで十四とは末恐ろしい。

 しかしそれでも、レナードにとっては子供の剣に違いはなかった。


「だから、何度言わせやがる…!てめーの剣は馬鹿正直すぎ…」


 そうレナードが罵倒しようとした瞬間、イリスは足を蹴り上げる。

 レナードは蹴りを難なく避けるが、校庭の砂が目に入る。


「む…」


 一瞬、レナードがひるむ。


 今だ!!


 イリスは一瞬でレナードの後ろに回り込み、一閃、背後から首を狙う。

 

 が、その剣をまるで頭の後ろに目があるかのように、がっちりとレナードが素手で掴む。

 刃で手が斬れていないどころか、それ以上押しても引いてもびくともしない。


「す、素手で…?!」


「はぁああっっ!!!」


 生徒たちが驚いた瞬間、イリスは掴まれた剣を軸に飛び上がり、勢いをつけてレナードの頭に向けて膝蹴りを狙う。


「おおっ!!!」


「ふん」


 レナードは突然、剣を離す。


「あっ?!」


 剣に体を任せていたイリスはバランスを崩し、校庭に倒れこんでしまう。


「あイタァ!!!」


「大道芸人じゃねえんだぞ…!

 しかし、まぁ、俺を殺す気できたのだけは褒めてやる」


「はぁ…、はぁ…、あ、ありがとうございます…」


 イリスは待機する生徒たちの方へ歩いていく。

 イリスもさすがに体力の限界だった。

 マルコの側まで行くと、へたり込む。


「惜しかったですね、お嬢」


「いや、はぁ…、全然…」


 苦し紛れの策が少し意表をついたというだけで、実力ではレナードにとても敵わない。

 実際、それすらもレナードは防いで見せた。


 これが、王国最強の騎士…!


 イリスは胸がワクワクした。


「おねーさん!すごかったね!」


 不意に話しかけられ、イリスは驚いて声のした方を見る。

 そこには長い白い髪をポニーテールにした、線の細い男の子が立っていた。

 たしか同じクラスの生徒だ。


「あの、グイーンって上に上がるの!カッコよかった!サーカスみたいだったよ!」


「さ、サーカス…?」


 本気で戦っている人間に対してちょっと失礼な物言いだが、怒る気も失せた。

 少年は無邪気に笑っている。

 とても悪気があるようには見えなかった。


「次、僕が行ってくるから、見てて!」


 そう言うと、嬉しそうに少年はレナードの方に走って行く。


「だ、大丈夫だろうか…?」


 イリスには、少年がとても剣が扱えるようには見えなかった。


「オラァ!次!かかってこい!!」


「お願いしまーす!」


 少年がレナードに頭を下げる。


「…やっとお出ましか、シャンテリオン。

 てめー、今までずっとサボってやがったな」


 シャンテリオンと呼ばれた少年は、ぺろっと舌を出す。


「だってー、疲れるの嫌なんだもん。

 それに、元気な先生のままだと勝てないかもしれないでしょ?

 僕負けるのキライー」


「ふん…」


 勝てないかもしれない、か。

 こいつ勝つつもりでいやがる。

 今まで、じっくり俺のことを観察してやがったってわけか。

 その上で…?

 面白い…!


「かかってこい…、今までサボってた罰だ。

 じっくり殺してやる…!」


「それじゃー遠慮なく…」


 シャンテリオンは、剣を突き出すように構えた。

 不思議な形の剣だ。

 剣幅が細く、持ち手が銀でできていた。


「ふっ」


 瞬間、シャンテリオンが消えた。


「あ、あれ?」


 生徒たちには何が起こったかわからない。


 ギャイイイイン!!


 突然、大きな金属音が鳴り響く。

 レナードの方を生徒たちが見ると、シャンテリオンがレナードに斬り込んでいた。


「えっ?」


 さっきまでそこにいたはずのシャンテリオンは、レナードに肉薄していた。

 イリスにもマルコにも、シャンテリオンが踏み込んだ瞬間が目で追えなかった。


「ほっ!ほっ!」


 シャンテリオンが斬りつける。

 それをレナードが剣で受ける。

 ただそれだけだが、その動きは人間のものではない。

 大部分の生徒たちには速すぎて、シャンテリオンとレナードの腕から先が見えていない。

 剣がぶつかる度に鳴り響く大きな金属音だけが聞こえるのだった。


「すごいすごい!今まで、こんなに僕の剣を受けられる人いなかったよ!」


「ふん…」


 まぁそうだろうな、とレナードは考えた。

 この剣速はもはや子供のもんじゃない。騎士のものでもない。人外のものだ。

 まともに受けきれるのは、王国では自分か、パルキアの騎士団長であるファルコくらいのものだろう。


「じゃあ、ちょっと本気を出すよ…!」


「む…!」


 シャンテリオンのプレッシャーが増す。

 それを感じ、レナードが剣を構える。


「剣技【シャボン玉剣(シャボン・ブレード)】…!!」


 瞬間、剣の弾幕がレナードを襲う。


 なんだぁ…?!この滅茶苦茶な剣は。

 たしかに恐ろしい速さだが、無駄な方向に剣撃が走りすぎている。

 意味のない手数が多すぎる…、相手を混乱させるためか…?


 レナードは冷静に、自分に向かってきた剣撃だけを正確に叩き落とす。

 全てを捌くのは無理でも、これくらいなら造作のないこと。

 それを見たシャンテリオンが、嬉しそうにはしゃぐ。


「すごいや!僕の必殺技まで防ぐなんて!」


「…」


 必殺技?それは違う。こいつは、そんなものじゃない。

 必殺技なんてものはもうちょっと真面目にやるもんだ。

 この剣は誰かを殺すとか、モンスターを倒すために考えられ、編み出されたような技じゃない。

 例えるなら、遊んでいて偶然できたかのような…。

 成る程、シャボン玉剣ね。

 こいつは、空に浮かんでいる沢山のシャボン玉を、全て同時に弾くために生まれたような技…。


 そのとき、学校のチャイムがなる。


「ちっ、今日はもう終わりだ…。帰るぞ」


 レナードは剣を鞘に収める。


「えー!やっと楽しくなってきたのに!」


「今までサボってたやつが言うな…」


 シャンテリオンは、ぷーと膨れている。


「…」


「す、すげえ…」


 周りで見ていた生徒たちは、唖然としている。

 レナードはともかく、あんな化け物みたいな人間が自分たちのクラスにいただなんて。


「す、すごい…!」


 イリスは興奮していた。

 こんなにも強い人間が、しかも同い年でいるとは…!

 やはり世界は広い!

 自分では考えられないようなものがまだまだ存在しているんだ!

 私ももっと、強くなりたい!!もっと!!


「ハイハイハーイ!!先生ーー!!私も、もう一勝負!お願いしますッッ!!!」


 イリスはいても立っても居られず、手をあげてレナードに叫ぶ。


「だぁから!もう終わりだって言ってんだろうが!!」


 レナードが叫び返す。

 レナードは、不機嫌そうにさっさと校舎に歩いていく。


 ちっ、やれやれ、今日中に生徒全員の鼻っ柱をへし折ってやるつもりだったんだがな…。

 まだしぶといのが何人もいやがる。

 しかも、アホみたいに元気なのが、何度も向かってきやがる。

 全く、面倒臭いったらありゃしねえ。


 そう考えながら、レナードは生徒に見えないように密かに笑うのだった。

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