再会する二人
入学式は終わり、今日はその場で解散となった。
ほとんどの生徒たちは、レナードの言葉で不安になり、暗い表情で帰って行く。
そんな中、イリスはキョロキョロと辺りを見回していた。
「お嬢ー!」
「イリス様ー!帰りましょー!」
ナナとマルコが声をかけてくる。
二人は特にレナードの言葉に不安になっている様子はない。
二人は子供の頃から騎士見習いだったからか、レナードのような厳しいタイプには慣れっこだった。
「え、はい…」
イリスは上の空で返事をした。
まだ辺りを見回している。
「どうしたんですか?お嬢」
「お嬢はやめなさい」
「あっ」
ナナが声を上げる。
「そういえば、トルネ君にまだ会えてないっスねえ」
「え?ああ、例の、お嬢と一緒にバジリスクを倒したっていう?」
マルコは、顎に手を当てて思い返す。
「確か黒髪の…、平民でしたっけ?
平民出身のやつなんてそう多くないはずですが、見てないですねぇ。
本当にここに入学してるんですかい?」
パルキア騎士学校は、貴族だけでなく平民もちゃんと入学することができる。
しかし学費が高いため、一部の金持ちしか入れない。
もちろん試験で成績優秀なら学費が免除されることもあるが、それも数えるほどである。
そういうわけで貴族の生徒の方が圧倒的に多いのだった。
「そんな、たしかにここに来ると言っていました!間違いありません!」
「実は、同じ学年じゃなくて先輩だったとかはないっスか?」
「あの顔で、私より年上ということは絶対にあり得ません!
実は年下だったというならともかく…」
「あの顔でって…」
「人は見かけによりませんぜ、お嬢」
「おっさん顔のマルコが言うと、説得力あるっスねぇ」
せっかく、今日トルネに会えると楽しみにしていたのに…。
イリスは目に見えて落ち込んでいた。
そこに、レナードが近づいてきた。
「おい、イリス・マキアート。今朝のことでお前にも一応注意を…」
「レナード先生!!!」
イリスはレナードにしがみついた。
「な、なんだ?」
「トルネという名前の生徒が入学していませんか?!平民の出身のはずです!!」
「…なんなんだ、全く…」
そう言いながら、レナードは持っていた名簿をペラペラとめくっていく。
「トルネ…、トル…、いや、いないな。そんなやつは入学していない」
「な…」
ガガーーーーーーーン!!
イリスは大きなショックを受けた。
イリスは、生気を失った様子でふらふらと校舎へと歩いていく。
「お、おいコラ!まだ話は終わってないぞ!!イリス・マキアート!!」
レナードが叫ぶが、イリスには聞こえていない様子だった。
ふらふら
「…あいつはどうしたんだ?」
レナードが、残った二人に聞く。
「青春です」
「青春っス」
ナナとマルコは、悟ったような顔で答える。
レナードにはさっぱり訳がわからなかった。
「はぁ…」
イリスは、中庭の噴水に腰掛けてため息をついていた。
「…トルネがこの学校に入学していないなんて…」
イリスは彼と別れた日から、また会える日をずっと楽しみにしていた。
あの日の礼を、もう一度言いたいと思っていた。
彼がいなければイリスは今頃生きてはいなかっただろう。
こうして騎士学校に入学することもできなかった。
もう一度、感謝を伝えたかった。
それだけではない。
あの日からイリスの中の何かが変わった。
同じ歳のはずの彼の、豊富なモンスターの知識、的確な状況判断、戦場での冷静な立ち回り。
すべて、今のイリスにはないものであり、できないことだった。
あの日、トルネは、天狗になっていたイリスに、足りないものを教えてくれたのだ。
きっと、共に騎士を目指して切磋琢磨し合える、特別な友人になれると信じていた。
「はぁ…」
もう何度目かになるため息を、イリスはまたついた。
「あ、そうだ…。剣の手入れ用の研ぎ石を買っておかないと…」
イリスは、ふらふらと立ち上がった。
学校の中には、売店や食堂が設備されていた。
基本、学校から出なくても生活ができるように配慮されているのである。
イリスは、出来てまだ間もないような真新しい売店に入っていった。
「すいません…、研ぎ石を」
「へいらっしゃい!!研ぎ石ね!」
聞いたことのある声だった。
ふと顔を上げる。
「お、イリスじゃん。久しぶり」
そこにいたのは紛れもなくトルネだった。
彼は売店の店員だった。




