王国最強の先生
パルキア騎士学校の入学式が始まった。
入学したばかりの生徒たちは、校庭に整列している。
「ワシが!!この王立パルキア騎士学校の校長!!ギルモア!!マキアートである!!以上!」
それだけ言うと、校長は後ろを向いて、さっさと演壇から降りて行ってしまった。
ずいぶんとあっさりした校長先生のお話に、生徒たちは肩透かしを食らった。
「お、お祖父様ったら…」
イリスは頭を抑える。
重要な式典などで話をするときはいつもこれだ。
どうもギルモアは、こういった式典での挨拶が苦手のようである。
パルキア騎士学校の校長であるギルモアは、イリスの母の父親。
つまり、イリスのおじいちゃんだった。
ちなみに父親のファルコは婿養子である。
ギルモアは、今ではすっかり好々爺だが、あれでも昔は騎士団を率いて、【不死身のギルモア】とか呼ばれ、恐れられていたらしい。
「えー…、続きまして、教員代表からの挨拶です」
生徒たちは、すっと居住まいを正した。
壇上に上がってきたのは、スラリとした体格の、黒髪で目つきの悪い男性だった。
モンスターと戦ってできたものだろうか、顔には大きな傷があり、片方の目が潰れていた。
怖そう。
生徒たちはとにかくそう思った。
「あー…、今年から教員代表になったレナードだ」
レナード…?!レナードってあの…?
生徒たちがざわつく。
「お嬢、レナードってもしかして…」
「ええ…」
さすがのイリスも、その名前は知っていた。
隻眼のレナードといえば、王国騎士団最強の英雄の名前だ。
ドラゴンを単騎で仕留めただとか、盗賊団を皆殺しにしただとか、逸話には事欠かない。
しかし、まだバリバリの現役騎士だったはずだが…?
「今日、朝っぱらから、騒ぎがあって呼び出されて…、俺は今、非常に機嫌が悪い…」
殺気のこもった、あからさまに不機嫌な声に、生徒たちはピタッと静かになる。
「他に、宝石やら、従者やらを寮に持ち込んだ馬鹿はいないだろうな…?
言っとくが、見つけたら即退学だ。
俺が見つけた場合は即殺す。聞いた場合も即殺す。
弁明ができるなんて思うなよ。お前らが言葉を発するよりも、俺の剣がお前らの頭を串刺しにする方が早い。
こっそり隠しているやつは、今のうちに山にでも埋めておくんだな」
ドスの効いた脅しに、生徒たちは震え上がった。
しかしイリスだけは、もし従者を連れてきていたら、山に従者も埋めなきゃいけないのかな?あとで質問してみよう、と思っていた。
「お前らがどう思ってるか知らないが、この学校に入学した以上、貴族だろうが、王様だろうが関係ない。
モンスターはどうせ、そんなこと気にしてくれんからな」
「俺たちはこれから三年で、お前らみたいにエサだけを与えられ、ぶくぶく太った貴族のボンボンを、いっぱしの騎士に育て上げなきゃあならない。
これがどれだけ無謀なことかわかるか?あ?
本物の豚を騎士にする方が、よっぽど簡単だ…」
ドスの効いた脅しに、またしても生徒たちは震え上がった。
しかしイリスだけは、豚さん騎士にちょっとだけ興味が湧いた。
「だが手加減はしない。殺すつもりで行く。
ついてこれないやつは、そのまま死ね。
自信がないやつは、今日中に荷物をまとめて帰れ。以上だ」
そう言うと、レナードは壇上から降りていった。
「…」
生徒たちは、一気にこの先の生活が不安になり、言葉を失っていた。
「ああ、それとな」
レナードが突然戻ってくる。
生徒たちはビクッとなった。
「これから先、学校内で許可なく武器を使用することを禁止する。
今朝みたいな調子で、学校の備品まで壊されたりしたらたまらんからな」
レナードは、それだけ言うとまた下に降りていった。
生徒たちはホッと胸をなでおろす。
「今朝…?何かあったんでしょうか…」
「いや、あれお嬢に言ってんですよ」
真面目な顔で言うイリスに、マルコはツッコミを入れた。
どうでもいい補足ですが、今回マルコしか喋っていないのは、
男子と女子2列で、身長が低い順番で並んでいるからです。
マルコとイリスは、背が高く、体型も大人に近いので後ろに並んでいますが、ナナは背が低いので、前の方に並んでいます。