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夢の国(後)

観覧車の中で、向かい合わせに座ると、いつもうるさいくらい元気な佐藤が、静かに、ぽつりぽつりと話し始めた。


「俺さ、修哉と付き合っててさ、男同士とか、あんまり気にならないんだよね。告白されたときもね、嬉しいとしか思わなかったよ。なんにも困んなかった。俺も好きだから、付き合おう、はい、みたいな。」


「うん」


「クラスの奴らも、いや、それ以外でも俺らのこと知ってる人、学校にいっぱいいるじゃん。でも、冷やかされたりさ、一回もないじゃん?男子校ってのもあるのかな。いや、別に俺は冷やかされてもかまわないんだけど。かまわないって、思ってたんだけど…」


うまく言葉にできない、というような佐藤の顔。痛いくらい気持ちがわかる。


静寂の中、観覧車だけが一定の速度で回り続けている。


…そう。かまわないのだ。どれだけ変だと軽蔑されようと、異常だと罵られようと。


お互いがお互いを好きであれば、何の問題もないから…


なのに。


さっき、少し騒がれただけで、


自分の気持ちに迷いはないはずなのに、


逃げようとした。


そして、その一瞬でも逃げようとした自分が、誰よりも何よりも許せなくて、大嫌いになった。


「わかるよ。佐藤の言いたいこと、全部わかるよ。気にしなくていいってわかってるのに、気にしちゃうんだろ。俺もだよ。割り切ってるはずなのに、些細なことで戸惑う。さっきだって、まわりの視線に怖気づいて、逃げようとした…」


「そんな… あれは、俺を気遣って、」


「ううん。逃げようとしたんだよ。佐藤のこと、好きで好きで、佐藤以上に好きな奴なんていないのに… 佐藤以外の誰にどう思われたっていいのに…」


ごめん佐藤。こんな、よくわかんねえことしか言えなくてごめん。自分でも何言ってるかさっぱりだ。情けなくて泣きたくなってくる。


「よくわかんないけどさぁ… 修哉、俺のこと大好きすぎかよ…」


「そうだよ」


「俺、馬鹿だから、難しいこと考えらんないよ…」


「うん、俺も」


「…修哉、俺のこと好き?」


「好きだよ。さっきから言ってるだろ」


「修哉、」


「ん」


「俺も、修哉のこと、大好きだよ」


観覧車はいつの間にか、てっぺんに来ていた。


俺は、どうしても今すぐ佐藤を抱きしめたい欲にあらがえず…


「佐藤、こっちきて」と誘うも、


「え、やだよ!傾くじゃん!!」と、きっぱり断られてしまった。


…おいおいおい佐藤!!俺の最大限の勇気を!! こうなったら強行突破だ。


「じゃあ俺が行く!」


「はぁ!?どっちにしろ傾くんですけど… わぁっ」


驚く佐藤。揺れる観覧車。


思いっきり抱き着く。きつく、きつく、抱きしめる。俺よりもちょっと細くて、火照って、ほんのりと汗臭い佐藤の身体を。潰れてしまいそうなくらい、強く、強く抱きしめる。


佐藤も、ゆっくりと腕を俺の背中に回す。


無言のまま、お互いの熱で溶けそうになりながら、俺たち2人だけの時間が、ゆっくりと流れていく。


観覧車がそろそろ地上に着くというところで、我に返る俺。


「ご、ごめんいきなり… 苦しかった?」


おそるおそる、佐藤の身体を離す。お互いの距離が30センチくらい離れた瞬間、


佐藤がいきなり、もう一回抱きつくような形で、唇を、俺の唇に、押し付けてきた。


えっ?


えっと…


3秒ほど遅れて思考が猛スピードで動き始める。


「え!?佐藤!?」ようやく何が起こったかを理解する俺。


「ちゅ、つーしちゃった…」なぜか仕掛けた本人も驚いている。


「言えてねえよ!!ちゅー!!」顔が自分史上最高に熱い。


照れて動かない佐藤を引きずるようにして観覧車を降りる。恥ずかしくて、早足になる。暑い。熱い。



佐藤の唇は、正確に言えば俺の唇ではなくギリギリほっぺたに当たっていたけど…


何がどうあれ、これが俺らの記念すべき(?)ファーストキスなのであった。



手を繋いで帰る。お互い何を話せばいいのかわからず、黙り込んでいる。


今までは付き合うっていっても、普通に友達と接しているのと変わらないような関係だったが、今日はちょっと話が違う。なんかこう、一線を越えてしまった感(?)があって、なんとなく気まずい。


駅から佐藤のマンションの方が近いので、俺は佐藤を送ってから自分の家に帰る。遊びに行った帰りはいつもそうだ。


佐藤のマンションの前に着く。


「じゃ、じゃあね…あの、すっごく、楽しかったです…」


「俺も、楽しかったです…」


ぎこちない別れの挨拶。さっきちゅーしてきた強引さはどこいったよ。


「佐藤、」このまま別れるのが惜しくて、俺は声をかける。


「なに…」佐藤の顔はまだほんのり赤い。


「好きだよ」語彙力のなさを痛感。こんなありきたりの言葉でしか、俺は佐藤への気持ちを言い表せない。


「お、お前今日好きって言いすぎ!」真っ赤になって顔を手で覆い、うつむく佐藤。そういうお前も今日は照れすぎだ。


「な、何回言ってもいいじゃんか!!好きだ佐藤!!愛してる!!」…深刻なボキャ貧だな、俺。


「はぁ!?え、えと、お、お、俺も修哉が大好きです!!あ、あいらぶゆー!!」お前なんか馬鹿っぽいぞ。


「さんきゅー!!おやすみマイハニー!!?良い夢を!!」


「だ、ダーリン!!」


「ダーリンってなんだばかやろー!!恥ずかしいこと言うな!!」


「はぁぁ!?先に言ったの修哉だから!!」


世間一般でいうバカップルのような別れ方になった。


ギャーギャー叫んで申し訳ありませんでした、ご近所の方々…



その夜、俺はベッドの中で、汗だくになりながらアトラクションを回ったこと、佐藤が残した分まで緑と青のマーブル模様のアイスを完食したこと、佐藤がコーヒーカップを回しまくるから酔ったこと、それから観覧車でのハプニングと初チューなど、今日あった出来事を隅々まで思い返した。


そしてやっぱり、俺たちの関係について考えずにはいられなかった。


幸いなことに今、俺たちの身近には、優しい人たちしかいない。同性愛を頭から否定されたことがない。


つまり、俺たちはまだ甘い世界しか知らないんだろう。


苦い世界を、今日、ほんの少し垣間見ただけだ。


もし、


もし、世界中の全員が俺たちの関係を否定したら、俺たちはどうするだろうか。


読んで下さってありがとうございます (*´▽`*)


BLのLの要素を多めにかけた気がします。あと若干のシリアスさも。


まだまだ続きますので、よろしければお付き合いくださいませ・・・


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