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それでもお前は執事じゃない!  作者: 千早 朔
第九章

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第三十五話


「側にいる理由が欲しくて、脅すような『契約』を迫りました。申し訳ないと思いつつも、こうして一番近くにいれる事が、本当に嬉しかったんです。最初はそれで満足していた筈なのに、日を追う毎に、功基さんを知る度に、もっと沢山、欲しくなりました。……自分がこんなにも独占欲が強いだなんて、初めて知りました」


 邦和がそっと功基の手をとった。

 キツく握り締めていた事によって黄色くなった肌を労るように、両手で包み込む。


「……こんな俺を知られてしまったら、功基さんに拒絶される。そう思って、必死に隠していました。けれど功基さんは、どうにも無防備で、何度タガが外れそうになったかわかりません。お料理を作ってくださった時だって、本当に……本当に嬉しかったんです。けれどそうして、功基さんがご自分で動ける事に『気づいて』しまったら、俺が側にいられる理由がなくなる。怖くて、つい、あんな言い方をしてしまいました。……本当に、すみませんでした」

「……っ、くにかず」


 落とされた言葉の一つ一つが、直接心臓に突き刺さってくる。

 その強さを受け止めるのに精一杯で、ただ名前を呼ぶしか出来ない功基に、邦和は祈るように目を伏せた。

 握られた掌に、力がこもる。


「お願いです、功基さん。俺を必要としてください。『執事』としてじゃなくて、俺自身を求めてください」


 功基を捉えた漆黒の瞳には、渇望が色濃く滲んでいた。


「功基さんが好きです。『執事』としてでも、『主人』としてでもなく、功基さんの事が欲しくてたまりません。大好きなんです。……俺を、許してください」


 はっきりと告げられた邦和の想いが、氷が溶けゆくように、功基の心臓にゆっくりと染みこんでいく。

 好き、だと言ったのだ。この男は。『執事』ではなく、自分を求めろと。


(っ、なんだよ、それ)


――ぜんぶ、一緒じゃないか。


「……オレは、『執事』なんて、いらない」


 小さく宣言した功基は邦和の腕をグッと引き、よろめいた首筋に頬を寄せて抱きついた。

 邦和が驚愕に目尻まで見開く。


「『恋人』として、側にいろよ。お前を全部、オレによこせ、邦和」


 伝われ、伝われ。

 そう胸中で叫びながら、功基は邦和の首元に額を押し付ける。


「っ、お前が好きだ。好きなんだよ、邦和」


 吐き出してしまった秘事は音になった瞬間に、消え失せるどころか胸の内で更に膨らんでくる。

 かっこわりい。そう思うのに止められずに、功基はただ「すきなんだ」と、熱くひりつく喉でうわ言のように繰り返した。


「……功基さん」


 そっと邦和の掌が功基の髪をすいた。腰元に回された腕が、もっとというように力を伝えてくる。

 まるで安心させるような仕草に、功基は今度こそ縋り付いた。腕を温かな背に落として、ギュッと握りしめる。

 けれども、そうしていられたのもつかの間。耳元に落とされた艶やかな声に、功基はピシリと固まった。


「……こういう時は、キチンと目を見て言うものですよ」

「なっ……! い、だろ、べつに!」

「駄目です。正確な意思の疎通を図るためにも、大事な部分はうやむやにしないでください」


(大事な部分って、うやむやって、ちゃんと言っただろーが!)


「功基さん」

「っ!」


 強請るような甘い声を吹きこまれ、功基はたまらず顔を上げた。


(っ、くそ!)


「邦和が、好きだ!」


 ヤケクソ気味に叫んだにも関わらず、邦和が瞳を蕩けさせる。

 いつもの能面はどこいった、と思うほどに頬も口元も、幸せそうに緩めた笑顔。

 功基は沸騰する脳裏の隅で、多分、一生忘れないだろうなと思った。


「俺も、大好きです」


***


「いやーほんっと上手くいって良かったよねー。これも俺の協力あっての賜物っていうかー、うん、めでたいめでたい」

「……庸司、なんかすっげぇ棒読みじゃね?」

「え? そーお? 気のせいじゃない?」


(ったく、よくいう……)


 目の前の定食をバクバクと平らげていく友人に、功基は小さく溜息をつく。

 この食堂で一番高いメニュー。昨日の礼にと、功基が奢った昼食だ。


 朝、顔を合わせるなり、庸司は開口一番に「おめでとう」と言ってきた。

 功基と邦和がなんとか収まる所に収まった経緯を話す前だったので、功基はなんでわかったのだろうかと目を白黒させたが、曰く、「幸せオーラが駄々漏れ」だったらしい。

 幸せオーラって……と思ったが、確かに鬱々としていたここ数日間と比べれば、生き返ったように見えるのだろう。

 事実、昨夜は邦和と共に冷蔵庫に残されていた夕食をペロリと平らげ、朝もまた、これまで通り邦和の用意した朝食をしっかりと腹に収めてきた。

 先日までの食欲のなさが嘘のようだ。


(にしても、なんでコイツはこんなに不機嫌なんだ?)


 今もそうだが、祝いの言葉を口にする庸司は、どうも不満気味である。尋ねても『気のせい』と返してくるあたり、理由を言うつもりはないのだろう。

 ヒレカツを齧りながら、功基は頭を悩ませる。思い当たるとすれば、相手が男とはいえ功基は『恋人持ち』になったワケだが、庸司には特定の相手がいない。自分のほうがモテるのにと、功基に先をこされた事が面白くないのかもしれない。

 だがその点に関しては、庸司のせいでもある。明らかに引く手数多だというのに相手を作らないのは、庸司が選り好みをしている他ない。


「……庸司。お前、理想が高すぎなんじゃね?」


 途端に庸司が変な顔をする。

 魂が入ってないような、あまりに素頓狂な表情に功基がギョッとしていると、庸司は勢い良く頭を抱えた。


「どうせ……どうせ俺は後出しジャンケンに負けたピエロだよ……!」

「え、なに? ホントなにがあったんだよ……」

「なんもない。ホント、悲しいくらいなにもなかったんだって……」

「……そっか」


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