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それでもお前は執事じゃない!  作者: 千早 朔
第五章

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第二十話

 台所に立っていた邦和が、ひょいと顔を覗かせた。


「失礼します、功基さん。オムライスのご飯はケチャップ派でしょうか、バター派でしょうか?」

「っ! け、ちゃっぷ派!」

「……かしこまりました」


 挙動不審な功基に首を傾げつつも、特に深くを尋ねずに再び姿を消した邦和に安堵の息をついて、功基は腕の中のモフリとした猫のぬいぐるみをギュウと抱きしめた。

 ぬいぐるみを愛でるような少女趣味はない。茶色の毛並みと同色の瞳で愛らしく小首を傾げるそれは、つい先程庸司に押し付けられたモノだ。


「ワンコ君が来てから全然構ってくれないし、どうせならゲーセンも寄ってこ!」


 庸司の好きな有名コーヒーチェーン店へ向かう途中、腕を取られた功基は半分引きずられるようにして、久しく足を踏み入れていないゲームセンターへ赴いた。

 確かに最近、庸司とブラつく機会もめっぽう減ってしまっていた。

 鍵を渡したのだから、帰宅が遅くなった所で邦和を部屋の前で待たせる事はない。それに、この鬱々とした気分も、多少なりとも晴れるかもしれないと考えた。

 そうして散々遊び尽くした最後に、庸司が駄目元でと挑んだクレーンゲームの戦利品を、功基が持ち帰る事になったのだ。


「コレを俺だと思って大事にしてね」


 いや、いらねぇし。

 そう思ったのだが、抱いてみるとこれが妙に落ち着いた。不安な時に、何かを抱きしめたくなる衝動と似ている気がする。


(とにかく、落ち着け、オレ)


 庸司の助けもあり、邦和への想いを自分の感情として何とか受け入れられたとはいえ、『そう』として自覚しまったが故に些細なコトでも過剰に反応してしまう。

 中学生か。情けなく思うが、反射は理性じゃ止められない。


(ちゃんと、普通っぽくしてねーと)


 『契約』が続く限り、庸司はこうして功基の側に在り続ける。功基の気持ちを知ってしまったら、契約の破棄に加え、功基の秘密も口外される可能性があり、更には「気持ち悪い」の一言でも投げつけられそうだ。

 ダメージがデカイ。失うものが多すぎる。

 つまりは今の功基に残された道は、これまで通りに『仮初主人』であり続けるの一択しかない。のだが。


「……功基さん」

「っ! なんだ!?」

「……出来ましたので、お運びしてもよろしいですか」

「あ、おう!」


(全然普通じゃねぇじゃねーかっ!!)


 最早情けないを通り越して悲しくなってきた。

 目の前に置かれたプレートに視線を移すと、ケチャップで味付けされたチキンライスの上に、楕円形の黄色い卵がぽんと乗っていた。

 失敗、したのだろうか。功基の記憶にあるオムライスといえば、しっかり焼かれた薄い卵の皮で包まれた形である。

 別にそこまで見た目に拘るタイプでもないし、食べれるのならば問題ない。二人分の紅茶も用意した邦和が机の右側に座ったのを確認して、功基は「いただきます」とスプーンを取った。

 途端、伸ばした手を静止するように、邦和の掌が重なる。


「っ!?」

「ちょっと待ってください」


 重ねた左手をそのままに、上体を浮かした邦和が卵にスッとナイフを入れた。割り開かれた上部から、トロリと滑り落ちる艷やかな黄色。唖然と口を開けたままの功基に視線を流すと、邦和は瞳を緩めて掌を退いた。


「どうぞ、お召し上がりください」

「っ」


(なんなんだ一体そのスキルは誰得なんだ!? オレ得か!?)


 料理の腕もさることながら、こうした自然な接触や心臓を鷲掴みにする表情を向けられては、功基の必死の決意など即座に打ち砕かれてしまう。

 動揺を隠すように急いでオムライスをすくい、口の中に入れ、功基はゴクンと咀嚼した。


「いかがですか」

「……めちゃくちゃうまい。切って開くとか、店かよ……」

「少々勉強致しました。喜んで頂けたのなら光栄です」


 邦和は満足そうに頬をゆるめると、自身の分へとナイフを入れる。


(ってか、ていうかさぁ!?)


 わかっている。邦和は何も悪くない。

 良し悪しをつけるのならば、たったコレだけでままならなくなってしまう自分が悪い。


(……手、あつい)


 意識せまいと思えば思うほど、触れられた感触が蘇ってくる。

 自身よりも温度の低い、少しカサついた指先。身長差があるためか、功基の手を覆ってしまうほどに大きかった。

 思い起こせば、邦和の指先を感じたのはこれで二度目だ。

 そんな思考が過ぎった瞬間、先日の熱い瞳が功基の脳裏に浮かんだ。


「っ!」


(イヤイヤ何考えてんだ!?)


 落ち着こうとしているのに、これではてんで逆効果だ。

 浮かんだ映像を打ち消そうと頭を振り、功基は縋るように膝に載せていた猫を片手で握りしめた。


「……功基さん」


 邦和がカチャリとスプーンを置く。


「……庸司さんと、何かあったんですか」

「……へ!?」

「昨晩から何か思い悩んでいらっしゃったようですが、お戻りになられてからはいっそう物憂げですので。……ぶしつけながら、まるで心を奪われているかのような」

「ぶぅ!?」

「申し訳ありません、以前『勘違い』だとおっしゃっていたのは重々承知しておりますが、あの時は自覚がなく、つい最近改めたという可能性もあるのかと」


 どうしてコイツはこう、妙な方向へは抜群に察しがいいのだろうか。

 功基は両手を床につきたくなる衝動をグッと堪え、重い口調で絞り出す。手元のもふもふが、良い緩和剤だ。


「……だから、ちげーから。庸司はいい友達。そういや最近あんま遊んでなかったなって反省してたトコ」

「……庸司さんが、そのように?」

「たまには構え程度だけどな。ほら、お前と会ってから、授業終わったら直帰ばっかだったし。でも鍵渡したから、待たせるコトもなくなっただろ? 今後はもうちょっと時間作ってやらないとなって」

「…………受け取るんじゃなかった」

「え?」

「いえ、なんでもありません」


 邦和のボソリとした低音は聞き逃してしまったが、その眉根がグッと寄っているので何かしら不満があるのだろう。

 なんだ、そんなにオレは庸司が好きなように見えるのか。

 お前だよ! と言えたらどんなに楽か。功基は胸中で嘆息する。勿論、そんな恐ろしい決断は出来ない。


 一応、納得はしたようで、邦和はそれ以上を追及することはなく、再び黙々とオムライスを口に運び初めた。

 なんだか今日一日で、どっと疲れた気がする。

 こんなんで明日から大丈夫だろうかと、功基は今後いつまで続くかもわからない『片思い』の未来を憂いた。


***

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