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 モニカの奇妙な相棒 ~ 最強スキルは、俺自身!? ~  作者: マカルー
第二章 モニカの奇妙な学園生活
329/426

2-15【流れ行く日常 9:~赤い狼、黒い刃~】



 さて、契約だけに結構な時間を取られたが、早朝に行動した事が幸いしたのか、俺達の冒険者契約が完了し、書類を提出したのはまだ昼も遠い時間だった。


「今日、時間大丈夫?」


 窓口の前でモニカがエリクに問う。

 その手はまだガッチリと握手したまま。


「うん、今日と明日は何も予定を入れてない」

「よかった、確認したい事もあるから、とりあえず近くの依頼でもやらない?」

「いいよ、俺もそのつもりだったし」


 エリクはそう言うと、先程まで座ってた席の方を示す。

 そこには、彼の装備と思われる大きな布袋がいくつか見えた。


『準備万端だな』

「よっし」


 モニカがそう言うと、早速とばかりに受付嬢に近隣の依頼状況を確認した。

 すると受付嬢が後ろのケースから依頼書の束を取り出して選り分け始める。


「ご希望の依頼とかあります?」

「とりあえず近場で、戦闘法を見たいから、”戦える系”で」

「ええっと、ヴェレス発の依頼ですと、簡単な討伐依頼は・・・」

「ヴェレスはアクリラが近いから、討伐依頼は珍しいんだ」


 受付嬢の言葉にエリクが補足する。


『なるほど、通りがけの魔法士が処理しちゃうもんな』


 それで無くても平均戦闘力の高いこの地域で、大きな脅威は早々に排除される。


「わたし達が帰ってこれる時間でいいから、もう少し遠くでもいいよ」

「空、飛べますか?」

「うん、エリクくらいなら運べる」

「え?」

「でしたら・・・」


 飛行可能と聞いた受付嬢が、近隣の街の依頼書も出し始める。

 流石に場所を広げると、討伐依頼もいくつかあるな。

 するとモニカはその中で、縁が赤く塗られた用紙を見つけ引っ張り出した。


「これって、”緊急”のやつですよね?」

「ええ、そうですよ。

 依頼の中で、特に緊急性の高いのをそうしてます。

 こちらとしても、できればそういった物に行ってくれると嬉しいのですが、何分これは・・・」


 受付嬢の言葉にモニカが、内容を読み込む。


「キアーザの近くの村だって、ええっと」


 そう言いながらモニカが依頼書の裏の地図を見て、それと俺の持ってる地図を照らし合わせる。

 ヴェレスから400kmくらい西か。


『”ワイバーン”ならすぐに着くな』


 ざっと1時間くらいか。


『”ルブルブス”・・・狼の大量発生の恐れありだって、魔獣はなしみたい』

『じゃあ、エリクの動きを見るには丁度いいか』


 見ておきたいのは”強さ”じゃなくて”動き”だ。

 特に自分で”変な”というくらいなので、複数の獣相手は丁度いいだろう。

 緊急料金もつくし。


「じゃあ、これで」


 モニカが即決で依頼書を受付嬢に渡す。

 すると受付嬢が驚き、エリクが慌てて止めた。


「いや、ちょっとまって、”キアーザ”ってこっからだと行くだけで3日はかかるよ」

「それは”歩いた場合”でしょ?」

「いや、高速馬車だけど・・・」

「・・・?」

『モニカ、普通の人は400㌔を歩いて3日は無理だ』

『ああぁ・・・』


 モニカがエリクとの食い違いに気がつく。

 そんな奴等だらけの環境で麻痺しているが、暴風雪の中を日進100kmで進み続けた俺達と一緒は可哀想だ。

 まあ、結果としては変わりないんだけど。


「もっと早く行けるよ」

「”飛行魔法”? 分かってると思うけど俺は飛べないから・・・」

「大丈夫、わたしが運ぶ。 ・・・前組んでた人は飛べたの?」

「一応。 でも1人で1時間飛ぶのが精一杯で・・・」


 その瞬間、モニカの方から”おっしゃああ!!”的な感情が流れ込み、気づけば右手をぐっと握り込んでいた。

 そんなに誰かに勝って嬉しいのか。


『つい1ヶ月前まで、俺達の方が性能低かった事を忘れてないかい?』

『わかってるよー』


 本当に分かってんのか?

 遠足気分のモニカはそう答えると、ドンと任せろとばかりにエリクに向って胸を張るばかり。

 エリクの方も、”大丈夫かな?”的に微妙なものだった。


 そして、その顔がすぐに”確信”に変わる。





「こいつで移動するのか!?」


 エリクが正気を疑うような目でロメオを指差しながら、そう聞いてきた。

 すると、協会裏の厩に繋がれていたロメオが、”何だコイツ?”的な感じに近寄り、エリクの腹の匂いを嗅ぐと、”うわ!? まじい!” 的な鳴き声を上げて飛び退く。

 ロメオはエリクの魔力の味がお気に召さなかったらしい。

 我らのペットながら、随分とグルメになったもので。


「この”牛”で、キアーザまで日帰りって・・・」


 エリクがどうしたものかと頭を抱える。

 その表情は、完全に”可哀想な子にあたってしまった”と言っているようだった。

 そんなエリクをロメオが ”ふん、雑魚が” 的に馬鹿にする。

 この2人は仲良くやれそうだな、よかったよかった。


 まあ、ロメオは何も知らなきゃ”その辺の牛”だからな。

 普通のパンテシアよりも肉付きが良いせいで、逆に近頃”牛感”が増してるし、同じ状況になったら誰だってそうなるだろう、俺だってそうなる。


 だがそれも、モニカがロメオの背中の”ワイバーンユニット”を起動するまでだった。


「うわっ!?」


 突然、ガシャンと音を立てて変形しながら現れた真っ黒で大きな”外骨格”に、エリクが声を上げて飛び退いた。


『おお、良い反応』

『フフーン♪』


 エリクの驚きに満足する俺達。

 そのまま魔力素材が形を取り、やがて”ワイバーン”の姿が現れた。

 徹底的に空力を考え尽くした外見をしている”ワイバーン”は、厩の中であっても一際異様な存在感を放ち、周囲にいた人や牛や馬は皆瞠目してその様子を見ている。

 こうしてみると、本当に小さな飛竜にも見えるな。

 もはや”美しい”と形容できそうなそのフォルムは、中身が”しょぼい牛”だとはとても思えないだろう。


「これ、どうなってんだ・・・」


 そう言いながら、”ワイバーン”の滑らかな表面に手を伸ばすエリク。

 その目は輝いていた。

 どうやら、”ワイバーン”の複雑かつ優美な造形は、”男の子”の心をしっかり掴んだらしい。

 

「それじゃ、ここに跨って」


 そう言って、モニカが俺達の”コックピット”の後ろに空いた空間を示した。





「うわあ!?」


 ”ワイバーン”の体がふわっと浮き上がった途端、エリクが恐怖でそんな声を上げた。


「ちょっと、あ、あぶない! 危ないって!」

「大丈夫だよ」


 モニカがそう言いながら手を後ろに伸ばして、エリクの肩を宥める様にポンポンと叩いた。

 だが、哀れなエリクの恐怖がそんなもので収まるわけもなく、伏せるようにロメオの背中にしがみつき、ガタガタと震えている。

 よほど地面に付いてない感覚が怖いのか。

 外が見たいと風防に窓を所望したのに、両目は固く閉じられていた。

 エリクのスペースに”手すり”を付けておいて正解だったな。


 だが、そんな様子の彼など放っておいて、見る見る地面が下に遠ざかっていく。

 協会横の広場から、ヴェレスの市壁を越えるのに時間はかからなかった。


「キュルル!」


 そして背中でブルブル震えるエリクに気を良くしたロメオは、どうだとばかりに気勢を上げると、無慈悲にも一気に速度を上げて大空へと舞い上がってしまったではないか。

 急激なGが俺達を襲うと、それに比例してエリクの悲鳴の音量が増加する。

 哀れなエリクは助けを求めるように俺達の腰に手を伸ばすが、意外と広いロメオの背の上だとせいぜいシャツの裾を掴むしかできず、それじゃ俺達は止まらない。


 それでも複座型の”ワイバーン”の乗り心地は、まだ随分と”ラグジュアリー寄り”になっていた。

 そこまで急激な加減速はしないし、姿勢変化もゆっくり。

 諸事情により(エリクを乗せるための)マイナーアップデートでバランスが変わったせいだが、これはこれで長時間の飛行には向いている。

 魔力の消費も少ないし、これなら2000kmくらいは日帰り圏内にできるだろうか。


『来週から楽しみだ』


 俺はそんな風に素直な感想を呟くと、モニカが同意の感情を返してきた。




 ワイバーンは翼で風を大量に従わせ、本当にビックリするくらい代わり映えのないトルアルム地域を西に進む。

 この辺は、トルバ系の国とマグヌスが複雑に絡み合う地域だが、”国境線”という概念がそれほどカッチリしてないこの世界では、どこがどこの国かは地図と見比べてもいまいちピンとこない。


 最初は怖がっていたエリクの方も、この安定した乗り心地に安心したのか、今ではすっかり風防に手をついて窓から下を食い入る様に見つめていた。

 やはり空を飛ぶというのは男の子心をくすぐるようで、その目は興味深そうに下の道や遠くの稜線を追い、街が見える度に感慨深げにあれは何処かと教えてくれる。


 面白い事に、エリクはどの街でどういう技術や製品が作られているのかをよく知っていた。

 鍛冶屋は伊達では無いということか。

 特に金属知識の少ない俺達にしてみれば、頼もしい。


 そして、そんな風に過ごしていると、空の旅というのは意外とあっという間に終わりを迎えるもので、


「あれがキアーザだ」


 気づけば、そう言ってエリクが目的の街を指差した。

 その影を左に見ながら、俺達は問題となった地域へと羽を進める。

 それから数分で小さな丘と谷をいくつか抜けると”件の村”が見えてきた。

 だが、様子が少しおかしい。


『どうやら、ちょっと遅かったみたいだな』


 眼下の村では凄惨な景色が広がっていた。

 何者かに襲われたらしい。

 村の中心部に何人分かの死体が集められ、その周りを武装した住民が興奮した様子で巡回してるのが見えた。

 何人かがこちらに気づいて指さし声を上げる。

 すると警戒するように全員がこちらを見た。

 ”ワイバーン”の姿は見慣れぬからな。

 すると俺達の後ろから鋭い声がかかる。


「降りて! 何人か顔を知ってる」


 乗った時の狼狽えっぷりはどこへやら、エリクの顔は”異変”の空気を感じ取ってしっかりしたものになっていた。

 そしてそれを背中で感じたモニカは、迷うことなくロメオに指示を飛ばして一気に高度を下げる。


 何人かが武器のつもりか、農機具であろう長いフォークをこちらに向けるが、そんなものはお構いなしに村の真ん中に着陸すると、”ワイバーン”を解除してロメオの背中から滑り降り、俺達は死体の山に、エリクは村人たちの方へと走った。

 目の前に、ハエのたかったスプラッタな光景が大写しになる。


『どう?』

『だめだ、死後3日は経ってる。 アクリラでも蘇生は無理だ』


 というか結構どれがどれだか分かんない程に破損しているので、仮に直後だったとしても無理かもしれない。

 生徒が持ってるような”保護”を最初から掛けてるなら、あの街では軽傷なんだが、ここじゃそうはいかないからな。

 それよりも、


『予想通り全部”獣傷”だ』


 傷の断面にはどれも特徴的なギザギザのあとが見られる、大きな牙が何本も突き立った証拠だ。


『それも結構大きい』


 モニカが鋭い声でそう言う。

 噛み傷の感覚と欠損の割合からいって、7~8m前後か。

 北国の”怪獣共”と比べると小ぶりだが、”件の獣”だとするならば少し大きいだろう。

 この子供など、一溜りもなかったに違いない。

 もはや”死体”というよりも”切れ端”といった方が近いな。


 一通り検分を終えた俺達は後ろを振り返ってエリクの様子を窺った。


 気が立ってるときに突然現れた俺達に怒って襲われてるかと心配したが、意外にもエリクは問題なく村人たちに混ざっていた。


「まさか、エリクさんが来てくれるとは・・・これから”キアーザ”の協会に助けを求めに行こうかと思ってたんですよ、でも”奴ら”が怖くて・・・」

「被害は?」

「全部で17人・・・大人が8人と子供が9人・・・あと家畜が30頭」


 うわ、かなりの被害じゃねーか!?


『でも、ここには11人分しか無いよね?』


 モニカが”残骸”を数えながらそう呟く。


『残ってるのも”一部”って感じだけど・・・おうえっ』

「うっ!?」


 その時、あまりに悲惨な光景に吐き気を催した俺につられて、モニカがえずく。

 すると村人との話を一旦止めてエリクが近寄ってきた。


「こういうの慣れないなら無理しない方が、外で待って・・・」

「いや、大丈夫、これは”違う”から」


 そう言いながら口を拭うモニカ。

 そのしっかりした様子に、エリクもそれ以上何も言えずに背中でも擦ろうとしたのか軽く上げた手で空を掴む。


「ありがと・・・」


 モニカはそう言うと、その手を押しのけ自然な足取りで死体の山から遠ざかった。


『・・・すまん、恥かかせた』

『苦手なものくらいあるよ。 エリクだって見ないようにしているし』


 シュンとした俺を即座にモニカがフォローする。

 だが、これは優しさと言うよりも、戦場前の叱咤に近い。


 モニカが俺のために少し離れたところで、ロメオの装備を確認しながらエリクと村人の会話を聞く。

 それによると、どうやら昨晩突然獣の群れに村が襲われたらしい。

 その少し前から目撃されていたので緊急の依頼が発生していたわけだが、事態は彼等の想像以上に早く進行したようだ。

 暗闇のせいで何に襲われたのかは分からなかったらしいが、状況からして俺達が追ってる連中と見て間違いないだろう。

 子供と家畜が重点的に狙われているところから見ても、頭もいい狼達の可能性が高い。


「大凡の群れの数は?」

「さあ、暗くて・・・わかんねえが10頭はいたと思う」

『やっぱり、結構な数だな』


 それなりの群れに襲われたか。

 だがモニカの見立ては、更に深刻だった。


「27」

「「・・・え?」」


 モニカの呟きにエリク達が驚く。

 するとモニカが地面のぬかるみを指差した。


「足跡の数、27種類ある」


 モニカは事も無げにそう言う。

 実際、モニカが言うのだからそうなのだろう。

 だが、エリクは信じられないように首を捻った。


「それって、君の”スキル”か何か?」

「いや・・・」


 そこでモニカは俺達の言葉に信用が無いことに気がついたようだ。

 さっきの”吐き気”が悪いように作用しているらしい。


『まあ、別に10頭でも27頭でも変わりは・・・』

『ロン、メガネの表示、地面に色つけて、窪みに適当に色つけてくれるだけでいいから』

 

 モニカがそう言うと、メガネインターフェイスユニットを頭から取って、エリクに近づきその頭に被せた。


「!? 何だこれ!?」


 エリクが、視界いっぱい表示される色とりどりの文字や図形に困惑して声を上げる。

 これは”ハッタリ”なので意味不明なものをとにかく大量に表示したが、その中で俺は地面の窪みにそれぞれ色分けするのを忘れなかった。

 エリクがメガネを外して実際の地面とメガネの表示を見比べる。


「数日前の足跡が・・・」

「残るよ、結構」


 モニカはそう言うなりしたり顔でメガネを掛け直し、村の南を指差した。


「あっちにいってる」


 するとそれを見た村人達が肯定するように声を上げた。


「確かにそっちの方に去っていった、足跡だけで分かんのか」

「当然。 特に土は読みやすいし『氷だと大変だけど』」


 村人の援護に”どうだ”と胸を張るモニカ。

 一方のエリクは、メガネとロメオの背中を交互に見回しながら、悩むように眉を寄せていた。

 モニカの言う”27頭”という数字は信じがたくとも、俺達の作る魔道具の性能は身を持って体感しているだけに否定しきれない感じか。

 やがてエリクは諦めたように頭を振り、村人達にしばらくは村から出ないように注意してから、またこちらに寄ってきた。


「とりあえず、”人の味”を覚えた奴らだけでも狩りたい。

 君なら10でも30でも変わらないだろう?」


 エリクがそう言うと、モニカが”よし来た”とばかりにドヤ顔でロメオの背中を叩いた。

 それを見たエリクが、”空の旅”を思い出して苦笑う。





 村を出た俺達は、足跡を追って一路南へ足を進めていた。

 本来ならキアーザの協会で事務処理をするのが先だが、予想以上に事態が深刻且つ急を要するという事で、先に群れを追いかける事にしたのだ。

 もちろん、それは俺がこの辺の植生を理解しており、エリクの方は実際に来たことがあるから可能な芸当なのだが。


 獣の足跡を追うのは簡単だった。

 村人が踏み荒らす村の中と違い、外の地面には俺でもわかるレベルでくっきりと残っていたからだ。

 俺達は道なき野原を土地勘のあるエリクを先頭に進んでいく。

 野原と言ってもちょっとした起伏が俺達の背よりも高いし、生えてる草も、”草”と言うよりはもう”木”で良いんじゃないか? と言いたくなるようなものなのでそれほど”野原感”はない。

 エリクが障害になる草を、荷物から取り出した鉈で切りながら進んでいく。

 その姿に俺はちょっと感心した。

 

 普通、粗野な剣士とかだと剣を鉈代わりに使うものだが、彼は腰に差した剣と鉈を完全に分けて考えているようだ。

 しかも鉈を振るうのは左手で、利き手は絶えず臨機応変に動きながらも必ず剣の柄に戻る。

 その動きにモニカは”まだまだ”と言ってるが、俺は及第点くらいはあげて良いんじゃないかと感じていた。


 エリクの武装は、安物だがしっかりとした作りの軽装鎧、布の内側に細かい金属板を縫い合わせて動きを確保している。

 材料は良くないが、作りは丁寧なところを見るに自分で作ったのかな。

 剣も包んでいた布を取ってある。

 だが見た目は想像していたよりも遥かに”普通”だった。

 何処にでもありそうなグリップに、何処にでもありそうな鞘。

 だが、相変わらずその内側はよく分からなかった。

 恐ろしく高精度な魔力素材と同じような反応を示しているが・・・


 俺達はロメオを含めて徐々に緊張の色を強めていた。

 エリクは草を切り払う前にかならず前方を確認しているし、ロメオは俺達からピッタリくっついて離れようとしない。 

 気負ってないのはモニカくらいなもの、それでも油断はせずに、周囲の空気の色を見るように視線を泳がせていた。

 それもそのはず、襲撃から数日経って村人の間では何処か安堵が蔓延していたが、人の味をしめた獣がまた来るのは時間の問題。

 そうなると、もうすぐ近くまで来てるかもしれないのだ。


 事実、モニカの足がピタリと止まった。

 続いて、強烈な獣臭と肉が腐った様な臭いが鼻につく。


「!」


 エリクが咄嗟に腰を落としてかがみ、剣の柄を握りしめて引き抜く。

 特徴的な真っ黒な剣身と、俺の感知スキルの画面に光点が表示されるのはほぼ同時だった。


『アタリだ、四足獣15・・・22・・・いや、32!』

『5もズレた!?』

『かなり多いぞ』


 この近辺の狼の群れとしては異常だ。

 しかも生息地域からかなり離れているし。

 聞いていたどおり、何らかの原因で紛れ込んだのだろう。


 狼達は全部、ゆっくりと這うように動いている。

 これは休んでるのか?


 モニカとエリクが目を合わせ、モニカがロメオをしゃがませると、エリクがゆっくりと目の前の草を開いた。


「・・・あの林の中にいるみたいだ」


 エリクに近寄ると彼が先を指差して耳打ちする。

 草の向こうには、確かに1km四方程の林が見えた。

 感知スキルの方向とも一致する。


『【透視】使うか?』

『一瞬だけね、オオカミは勘がいいから』

『分かった』


 それを合図に、俺は【透視】を機能するギリギリで発動した。

 俺の中で発動と終了を示すアラームが連続でなる。

 普通であれば認識など不可能だが、視覚記録を参照できる俺なら問題ない。


『”ルブルブス”・・・本当に”赤い狼”って感じだな』


 そう言いながら画像をメガネインターフェイスユニットに写すと、モニカから肯定の感情が流れてきた。

 確かに毛並みが若干赤っぽい、だが種族の魔力傾向が赤に寄ってるとかではなく、単純にそういう色なのだろう。


「ルブルブスと戦ったことは?」


 モニカが聞く。


「ある。

 頭が良くて上手くて狩り出すにはコツが要るんだ。

 何頭いるか分かったりする魔法ある?」

「32、いくつかは資料より大きい」


 モニカがそう言うとエリクは緊張気味に頷いた。

 流石にこの量の気配に異論を挟む余地はない。


「大変だけど、人の味を覚えてるし、逃がすわけにはいかない。

 君の遠距離魔法、どこまで遠くを狙える?」

「10㌔ブルくらいなら余裕」

「本当? それ信じていい?」


 エリクがモニカの言葉の真偽を問うように、聞いてくる。

 するとモニカは軽く威圧するように見返した。


「動かないなら地平線まで狙える」


 その言葉を聞いたエリクが”仕方ない”と、覚悟と諦めの混じったような顔をした。


「頼みたいことがある」



 そこから俺達はエリクの作戦の指示を受けた。

 それにモニカは意見を挟まず頷く。

 向こうの方が経験豊富だし、ルブルブスを狩ったこともある。

 それにエリクの能力を見るには丁度いい。

 もしダメそうなら、エリクを避難させてから大出力攻撃を打ち込めば殲滅できるしな。


 エリクは指示を出し終わると、任せたとばかりに俺達の肩をポンポンと叩いた。

 すると反対にモニカがエリクの肩を掴む。

 そして少し驚いたエリクの耳に真っ黒なものを取り付けた。


「これ持っていって」

「え? なにこれ」


 突然耳につけられた謎の代物にエリクが狼狽える。

 それは小瓶の付いた貝殻のような見た目の魔道具だった。


「『これで離れてても会話ができる』」

「『君の声が二重に聞こえる!?』」


 突然、耳で発せられた明らかに通常とは違うモニカの声に、エリクが目を見開く。

 それを見た俺達は心の中で満足感を深めた。

 反応が良いと作り甲斐がある。


 以前作った”なんちゃって無線機”と違い、これはちゃんと双方向通信が可能な最新版。

 小型の給魔器を取り付けることによって、通信波の出力が可能になったのだ。


「『安心して、離れれば二重には聞こえないから。

 あと仲間なんだから、わたしを呼ぶ時は”モニカ”って言って』」


 そう言うと、今度こそ頼んだぞとばかりにモニカがエリクの肩を叩いた。





 エリクが出ていってから数分後、俺達はエリクの指示通り、できるだけ静かに空中へ飛び立つ。

 使い慣れないベクトル系の魔法を使ってまで無理やりエンジンの使用量を減らしているが、静音化に成功したおかげで鳥と同じくらいの騒音で浮かぶことが出来た。

 ルブルブス達は林の中で外の様子はわからないため、観測スキルの反応は変わらない。

 モニカが林の向こう側に見えるエリクに向かって手を振る。

 さて、ここからが彼の腕の見せ所だ。


 するとエリクはおろかにも(・・・・・)バサバサと大きな音を立てて移動し始め、事もあろうに”風上”に向かって走り出したではないか。


 そういう作戦とはいえ、俺は自分よりも大きな猛獣の群れの前でそんな危険な真似をするという行為自体に肝が冷える。


『今! 【透視】撃って!』

『おっと』


 モニカの指示に俺が慌ててスキルを起動する。

 今のモニカはもう”狩人モード”だ、全神経で群れの機微を感じている。

 【透視】を使うと、林の中で一気に向きを変える赤い狼の姿が見えた。

 やはり、不用心(・・・)に近づくエリクに夢中で、こっちの事など気にもしていない。

 ”観測スキル”の方も、エリクの方角ににじり寄る狼の集団を捉えていた。

 だが、一向に襲う気配はない。

 ルブルブスは警戒心が高く、”釣り出し”をかけても全頭が出てくることはないらしい。

 そればかりか罠だと気づいた瞬間、控えていた仲間がそこら中に逃げ出して殆ど狩れないんだと。

 だからこそ、”罠”もそういう特性に気を配らないといけない。

 

 ここから見る限り、エリクの足取りはとても確かで抜けを感じなかった。


『・・・見違えた』

『なんか師匠がすげーって話だから、鍛えられてるんだろな』


 どんな師匠だろうか?


 モニカが”無線”を飛ばす。


『もういい?』

『もう少し』


 だがエリクは”待て”のまま、更に狼達を刺激するように風上に走り続ける。

 マップ上の赤い光点が、それに釣られるようにピクリと動いた。


「『今!!』」


 その時、エリクがそう叫び、無線からわずかに遅れて直に声が響いた。

 すると間髪入れずに俺が飛行モードを切り替える。

 今まで体重の半分を支えていたベクトル魔法と翼面気流がストップし、代わりに翼の中程に付けられた大きな魔力エンジンが直に火を吹いた。

 当然、発生した大轟音は周囲の空気が震えあがるほど大きなものだ。


 目の前の獲物(エリク)に気を取られ体重が前のめりになっていた狼達は、その轟音に背中を押されて前に飛び出すしかない。

 結果として狼達は、一頭残らずエリクのいる方向に向って飛び出した。

 視界の中に、林を突き破って現れる赤い群れ。


『さて、ここからだぞ』


 俺は言い聞かせるようにそう呟く。

 全ての狼を1方向に釣り出すまではいいが、そこから先は32頭の猛攻の直撃をエリクが受けることになるからだ。


 すると狼達の先でエリクが真っ黒な剣を構えた。

 その動きはぎこちなさを残しているものの、表情は肝が座ったように落ち着いている。

 そしてそのまま、先頭の狼に向かって剣を振り上げて走り出した。

 先頭を走る狼達が迫ってくる”弱そうな敵”を見て、回避よりも排除の方が簡単と判断したのかエリクに向かってわずかに進路を修正する。

 これも陽動だ。


『ロン、エリクに釣られなかったのをねらって!』

『あいよ』


 俺はその言葉と同時に、背中から砲身を2本伸ばして狙いをつけ、モニカも狙撃用のフロウを手に持って構えた。

 群れの中でエリクに向かわなかったのはおよそ半数の14頭。

 その先頭を走る3頭の狼達が、砲撃魔法の直撃で下半身を喪失した。


 続いて発生したドドドン! という衝撃波が白い波となって野原を駆け抜けエリクの髪を揺らすが、衝撃波に驚く狼と違いエリクに変化はない。

 ただ足の運びをわずかに修正すると、急に速度を上げて最初の一頭に近づいた。

 それでも大した速度ではないのだが、そのあまりの変化に狼達はエリクの姿を見失う。


 次の瞬間、最初の一頭の首が飛んだ。


『はやい!?』

『なんだありゃ、剣速だけなら”エリート”並だぞ!?』


 俺達がその”一撃”に驚愕する。

 エリクの剣は殆ど一瞬にして振り抜かれていた。

 そしてその切っ先は、たしかに以前ヘクター隊長が連れてきた”エリート剣士”の剣速に匹敵する凄まじいものだったのだ。


『どういう鍛え方してんだ!?』

『でも、動きが変だった!』


 モニカのその言葉通り、たしかにエリクの動きは変だ。

 続いて2撃目、3撃目と剣が振られるが、エリクの剣はまるで意思を持ったように異様に動き、エリクの動きも、それを”成して”いるというよりは、むしろそれを”往なす”ように動いている。

 そのままエリクは膝を曲げ、ちょうどハンマー投げの要領で剣を一回転させると、再び恐ろしい速度で横にいた別の一頭を斬り飛ばす。

 切ったのは首ではなく丸太より太い胴体だというのに、全く抵抗を感じない。

 これは、どうなってんだ?

 だが、今度は確かに剣が黒く光るところを観測できた。


『モニカ、やっぱりありゃ魔剣だ。 それもかなりピーキーな』


 剣や武器に魔力回路を仕込んで強化する事例は、この世界では枚挙にいとまがない。

 トルバの”魔導剣士”やアルバレスの”勇者”等がそれに当たるが、それこそ刃こぼれし難いだとか、錆びにくいなどの”ちょっとしたもの”も含めれば、魔道具でない武具など存在しないと言ってもいいくらいなのだ。

 だがエリクの”剣”はそれらと比べても、かなり”凶暴”な方だろう。


 まるで、それ自体が魔物のように荒れ狂う剣は、血を求めるように苛烈に襲い、次々に狼を切っていく。

 だがそれを成しているエリクは、まるで自分自身が剣に襲われているように剣に振り回されていた。

 エリクはそれをなんとか全身で支え、往なして向きを変え己の力に変えていく。

 傍から見れば、”エリクと狼の戦い”というよりも、”エリクと剣の戦い”に哀れな狼が巻き込まれているようにしか見えない。


『こりゃ確かに、”変な戦い方”だ』


 援護しようにも、どう手を出していいか分かったものではない。

 一つ言えるのは、シルフィと組むのは止めた方がいい良いということだろう。

 嵐と嵐がぶつかり合って、それだけで災害みたいなことになってしまうに違いない。


『ロン! 右に4頭行った! 左のはわたしが狙う!』

『あいよ』


 エリクの近くのは狙えないが、エリクに向かわないやつ、エリクから逃げるやつを狙って俺達は空中から砲撃を打ち続ける。

 ロメオもそれを支援するように、姿勢を調整しながら飛んでいた。


 こうなると狼達に逃げ場はない。

 逃げようとしたやつから俺達に狙われ、真ん中に向かってもそこには”人間フードプロセッサー”と化したエリクが居るだけ。


 エリクの動きは更にとんでもないことになっていた。

 剣は相変わらず何かに引っ張られるように動き、エリクはただ体重でその向きを変えているだけ。

 エリクがジャンプすると、どこぞの”ハンマーの神”よろしく剣に牽引されながら大きく空中に飛び上がったりもしている。

 なんちゅう剣だ。


 俺達も”魔獣狩りの巨刀”を使いこなせれば、あんな感じになるだろうか。

 

 ・・・ん?

 というか、あれって・・・


 剣の組成に違和感を覚えた俺は、手すきのリソースを剣の解析に回した。

 モニカの方も、あらかた逃げた個体を処理し終わるとエリクの戦い方をじっと観察している。


 気がつけば狼達は剣の嵐を前に打つ手がなくなってしまっていた。

 数で襲うにも、剣の速度が速すぎて、エリクがグルグル回るだけでどうしようもなく、無抵抗に切り裂くので仲間を盾にもできない。


『こりゃ、数は効かねえタイプだな。 だが、そのせいで組んで戦うのにも向かない』


 俺がそう言うとモニカが無言で頷く。

 これと一緒にやってた”師匠”とやらは、とんでもない奴か、それともこれ以上に変な奴かのどちらかだろう。





 それから少しして、全ての狼を排除し終わると、俺達がゆっくりと上空を旋回して取り漏らしが無いかを確認してから、エリクの下へと降りていった。

 だが降りてみると、エリクは激しく息を荒げながら地面に膝をついてるではないか。


「はっぅ、ふうっ、はあっ・・・うぅっぐ」

「大丈夫?」


 その様子にモニカが声をかけるも、エリクはそれどころでは無いらしい。


「ちょっと・・・この剣が・・・キツくて・・」


 エリクはそう言うと、目の前に横たわる彼の剣を顎で指した。

 真っ黒な剣は、先程までの異様さはどこへやら、すっかり普通の見た目で転がっていた。

 こうしてみると黒い以外は本当になんの変哲もない剣だな。


 しかし、あの凄まじい動きは使用者にもそれなりの負担を強いるらしい。

 使い慣れた上で、かなり鍛えてる筈のエリクですらこれなのだ。

 他の者ではとても扱いきれないだろう。


 それよりも気になるのが、解析スキルから上がってきたデータだ。


『モニカ、”アタリ”だ。 さっき話した可能性と見て間違いないだろう』

『同じような物じゃなくて?』

『ここまで同じ反応を示す物は、アクリラですら見たことがない』


 俺がそう言うとモニカは頷き、未だ息を整えているエリクに近寄った。


「ねえ、この剣、どこで手に入れたの?」

「・・・え?」


 藪から棒のモニカの言葉にエリクがキョトンとする。


「みたことないから気になって、誰が作ったのか」

「ごめん、拾ったから分からない」

「拾った?」


 モニカがそう聞き返すと、エリクがコクリと頷く。


「ヴェレスの瓦礫の中で拾った。 たぶん、元は別の魔道具なんだと思うけど、俺が持ってからずっと剣の形をしてる」


 その言葉を聞いた瞬間、俺達の中に納得の感情と更に別の不思議な感情が渦巻いた。


『やっぱり! ”あの時”に落としたやつだ』


 それはアクリラに着いた日、激しい戦闘の中で失った、モニカの2本あるフロウの内の1本だ。

 もう1本は短くなって今まさに手の中にあるし、欠片は”ポニテの髪留め”としてメガネインターフェイスユニットと一体化している。

 ここまで近づいた事で使える様になった感知スキルのデータでは、どちらも同じ反応を示していた。

 なら疑う余地はない。

 だが、


『なんで、”剣”の形してんだ?

 俺の知ってる限り、何もしない時はずっと”棒”の形を取るはずなんだが、なにか違うのか?』

『ううん、むかしからずっと”棒”だよ?

 棒じゃなくできたのはロンの声が聞こえるようになってから』

『だよなー、でもエリクの感じだと、もうずっと剣て感じだろ?

 エリクは特段魔力操作に優れてるわけでもないし、無理やり剣にしてるフシもないし』


 エリクは戦っている間も、それ以外のときも特に操作らしき事はしていない。

 それにもしそんな状態なら、あんなに振り回されたら解けるだろう。


『それに、あの剣の動き、”魔獣狩りの巨刀”じゃないか?』

『わたしもそう思った』


 あれは間違いなく、無制限のベクトル魔法陣を剣の中に埋め込んでいるもの特有の無茶苦茶な動きだ。

 だがどういう仕組みか、直前に使ったその魔法をフロウが記憶していたとでもいうのか。

 そんなバカな。


『でもエリクは、ほとんど制御していた』


 モニカが少し悔しそうにそう言いながらエリクを見下ろす。

 相変わらず肩で息をしているが、この少年は俺達でも出来なかったベクトル魔法の制御方法を無理やり見つけ出していたのだ。

 

『しかたない、”専門家”には勝てねえよ』


 俺はそう言ってモニカを宥める。

 エリクはこれで飯を食っているのだ。

 数あるオプションの一つに過ぎない俺達では太刀打ちできない。


 というか、棒とか剣とか言ってるけどさ。


『そもそも、”コレ”って本当に”フロウ”なのか』

『それはこの剣が?』

『いや、俺達のも含めて、特定の形を記憶して変形しても戻るって、それもう”配線(フロウ)”の度を超えてるだろ?』


 俺達にとって最初からそういう物だっただけに、気づけばフロウってそういう物ってイメージだけど、そんな野蛮な使い方をしている奴はカシウス以外聞いたことがない。

 言ってしまえば”電源ケーブル”で殴ってくる奴なワケで。

 そう考えると、この”フロウだと思ってる物”がいかにヘンテコか。


 それは口にする程ではない程薄っすらとではあったが、俺がずっと抱えていた感情だ。

 最初はカシウスのフロウが高性能だからと思っていたが、学べば学ぶ程、”本当に高性能なフロウ”と”コレ”の差は無視できなくなってきていた。

 これは帰って詳しく調べないと・・・


 いや、今はそれよりも、


『どうする? 取り返すか?』


 もし本当にあの時落としたフロウなら、元々はモニカのものになる。

 それにこんな”危険なもの”を放ったらかしにするのも無責任だろう。

 だが、モニカはそれに否定の感情を返す。


『もう、”エリクのもの”になってる。

 フロウが剣の形になったってことは、フロウがエリクを選んだんだと思う。

 少なくとも、ちゃんと大事に使ってくれる人が使ってくれるなら、今のままでいい』

『本当に?』

『うん、もう、わたし達には必要ないし』

『わかった』


 確かに、今の俺達にとってはそこまで必要なものではない。

 だが、


『見過ごすわけにも行かないぞ』

『うん、データは?』

『取れてるがもっとほしい』

『分かった』


 モニカはそう言うと、エリクの肩に手を置く。

 すると、掌を通して彼の熱と鼓動が伝わってきた。

 よほど疲労が大きいのか防具は汗でぐっしょり。

 それをモニカが意味深な視線で見守る。


 俺達は一つの結論に達していた。

 すなわち・・・



” 良 い 実 験 体 を 見 つ け た ”



「ちょっと痛いよ」

「え!? って、痛っ!?」


 エリクが突然背中に走った鋭い痛みに身を縮める。


「え? なに? なに!?」


 そう言いながら背中に手を伸ばすも、指がかすかに”それ”に触れるだけでどうしようもない。

 ここから見ると、ちょうどエリクの背中の上の方に、真っ黒で薄い三角形の板のような物が取り付けられていた。

 これは、医療用の携帯計測装置を俺が改造した物で、このデータは非常に役に立つ。

 なにせ、曲がりなりにも俺達の作り出した物を、利用出来ているやつが居たのだ。

 それはすなわち、今の俺の個人的テーマとしている”ユニバーサル計画”の適応者と言えるかもしれないか。


「とりあえず、それ来週まで付けてて」

「お、おい、これ取れねえぞ!?」


 エリクがなんとか引っ掻くも、計測装置はびくともしない。

 その接合部は医療魔法を使って癒着させているので生半可な事では取れないようになっている。

 いつも”モニカ班”にやられるので、スキル化して覚えてしまったのだ。


「わるい物じゃないから、安心して。 これは、一緒に組むために、もっとエリクを知るための物だから」


 そう言って意味深にモニカがニコリと笑う。

 するとエリクが、その有無を言わさぬ笑顔に腰を抜かしたように後ずさった。


「お、おい!?」

「それじゃ戻ろ。 今からなら、今日中に村に戻って報告して、キアーザで手続きできるし・・・」



『『すぐに調べ始められる』』



次回は、「ルーベンくん大騒ぎ」をお送りいたします。

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