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0-4【はじまる”俺達”2:~戦闘~】

 家の領域に入ってしばらく経ったが、コルディアーノの姿が見えない。

 まだ、反対側で戦っているのだろうか?


 となると、家に着くまでにこの状況をなんとかしたいな。


 主が後ろを振り返ると、態勢を立て直したサイカリウスの群れがこちらに向かって走り出していた。

 残念なことに群れの内容をよく見ると、先程俺達が行なった魔力溜まりによる爆撃で倒せたのは2,3体といったところで、殆どの個体に対してはそれほど多くのダメージは入っていない。


 数体、足を引きずって群れから遅れだす個体もいるので、全くノーダメージではないようだが。


 あの巨体相手では直撃しない限りあまり意味はなさそうだ。

 まあ、もともとあれで倒せれば儲けものくらいの気持ちで行なったのだ。

 数体倒せただけで良しとしよう。


 実際あの攻撃を恐れてか、サイカリウス達の纏まりが悪い。

 何体かが群れから距離を取り出した。


 こうなればこっちのものだ。


 主は時折走る方向を変えると、そういった不用意にはぐれた個体に向かって距離を縮め、射程に入ったところで砲撃魔法で仕留めるといったことを繰り返した。


 そうすると今度は各個撃破を恐れたサイカリウスたちが纏まりだすが、主が片手を突き出しただけで再び散り散りになる。

 どうやら先程の一撃は大したダメージではないものの、獣の本能か大きな音と衝撃に対してトラウマめいたものを持ってしまったらしい。


 そうやって徐々に数を減らしていくサイカリウスたち。

 

 今、主は家に向かって直進はしていない。


 理由は簡単で、あいつらを家まで案内して荒らされたくないからだろう。

 その為現在は、家領域の中ほどを維持したまま右へ左へランダムに移動している。


 コルディアーノが自分の相手を片付けてこちらに応援に来るのを待っている状態だ。

 

 まあ、このペースだとこちらが片付くのが早いかもしれないが。

 別にあいつらを斃してしまっても構わんし・・・・


 そんなことを思ったのがいけなかったのか、それともこの状況に業を煮やしたのかは分からないが、サイカリウスの群れの中から大きな鳴き声が聞こえてきた。

 よく見れば群れの中心に一際大きな個体が隠れている。

 ただ大きいだけでなく、他の個体よりも明らかに筋肉質なため魔獣化していることがひと目でわかる。

 おそらくあいつがこの群れを指揮しているのだろう。


 大きさからいってこの前の三匹のうち、子分の方のどちらかか?


 となると、コルディアーノの方には超大型と大型の2体が行っていることになるのか?

 いやこいつらのように何匹か通常個体を引き連れているのかもしれない。


 とにかく、群れの中の魔獣化した個体が周囲に何か檄を飛ばしている。


 これは何かしてくるな・・・


 どうやら再び群れが固まるようだ。

 主が牽制のように片手を上げ、それに反応した個体が散ろうとするがボスの一声で踏みとどまる。

 そしてそのまま一丸となって突進してきた。

 どうやら数体を肉の壁にして距離を縮めるようだ。 

 

 ならば話は早い、俺達は再び手の先の空間に魔力をため始める。

 そして臨界を迎えた魔力溜まりを投げつけようと試みたその時、不意に数体を残して一斉に横にバラけた。


「くそっ!?」


 虚を突かれた形となった俺達は、それでもとばかりに魔力溜まりを群れの中心に向かって投げつける。

 だが大多数の個体はその範囲から逃げおおせて効果がなかった。

 

 何より魔獣化した個体に接近を許す形になってしまったのだ。

 咄嗟に砲撃魔法を叩き込むが、やはり魔獣化した個体には大きなダメージが入っていない。

 そのまま一気に距離を詰められると、その巨大な口が眼前に迫る。


「はああ!!」


 だがギリギリのところでそれを躱す。

 普段から攻撃の最後に撤退を行う訓練が生きていたようで、咄嗟の回避で大きく距離を離す。

 だが所詮、相手の巨体から見れば僅かな距離だ。


 巨大サイカリウスはすぐに踏み込んできて、今度は前足を使って捕まえようとしてくる。

 しかし、主も伊達に準備運動代わりに近接の訓練を行っているわけではない。

 筋力強化と棒術を使った、高機動戦法で巨大サイカリウスの攻撃を避け続けた。


 この距離も意外にも主優勢で戦いが進んでいる。

 巨大サイカリウスの動きはその巨大さも相まって、近くで見ると隙きだらけといってよく、避ける合間に砲撃魔法を叩き込む余裕すらある。

 

 それにこの距離なら、巨大サイカリウスの攻撃を怖がってまわりの個体が手を出せないでいるというメリットがあった。


 だが、こちらの攻撃は所詮豆鉄砲なので有効なダメージが入らない。

 精々びっくりさせるのが関の山である。

 となると、この状態は必ずこちらから脱却せざるを得なくなってしまう。

 

 だが、優勢を放棄しなければならないとしても、そのタイミングを選ばせてやる道理はない。

 

 主はまわりの個体の様子を見て、行けると判断すると巨大サイカリウスの攻撃を大きく避けて距離を取る。

 そして片手を上げて再び魔力を流し始めた。


 それを見たサイカリウス達の動きが止まる。

 だがこれはブラフだ。

 この短時間で臨界まで持っていくのは不可能だ。 


 本命は他にある。


 主は巨大サイカリウスの動きが一瞬止まるのを確認すると、もう片方で用意していた砲撃魔法を解き放った。

 今度は今までと違いこちらが反動で吹き飛ばされるのもお構い無しで、大量の魔力を注ぎ込んだ正真正銘の大砲だ。

 例え狙いがおぼつかなくてもこの距離ならば外さない。


 その魔力を開放した瞬間、俺達はロケットのように後ろに向かって飛ばされた。

 

 そしてそのまま、何mも転がり続ける。


 余りにもの反動と転がる衝撃で全身が悲鳴を上げたが、動きが止まると即座に顔を上げて状況を確認した。


 視界の先では肩から血を流した巨大サイカリウスが、痛みに我を忘れて暴れまわっていた。

 その迫力に周囲の通常個体たちはどうして良いのか判断に困っている。


 これは好機とばかりに俺たちは一気に距離を開ける。


 今回は正直余裕は殆ど残っていなかった、こんなことは何度もできはしない。

 それが分かっていたからこそ、取れる選択肢が限られていた。

 こうなれば多少の被害は覚悟の上で、家の中に逃げ込むしか無い。

 周囲の小屋は無事ではすまないだろうが、あの卵型の本体ならば巨大サイカリウスたちでは壊せないと思う。


 それは希望的観測かも知れないが、今はそれにすがるしか無い。

 俺達は痛みにのたうつ巨大サイカリウスを尻目に、一路家に向かって走り出した。



 家の頑丈そうで頼もしい姿が見えてくると、俺は心の中で安堵が漏れるのを感じた。

 この謎の建造物は見た感じや触った感触からして、普通のものではない。

 例え普通であってもその強度は普通ではないはずだ。

 恐らくコルディアーノやクーディと同じ素材と思われるが、その分厚さは比較にならない。


 この壁を破ることは不可能に近いだろう。


 だからこそすぐ近くまで来た時、その家が大きく揺れたのを見て俺は驚いた。

 いや、主はもっと驚いているようだ。

 何があったのかと目を見開いている。


 ここからでは普段との違いはよくわからない。

 ということは家の向こう側で何かあったのだろうか?


 そう思ったときだった。


 家の上を何やら巨大な物体が飛び越えた。

 そしてその物体はこちらに向かって飛んでくる。


 危ない!


 そう思ったのと同時に、主が横に向かって大きくジャンプして回避する。

 間一髪のところで避けた俺達は、その物体の正体を見て戦慄した。


 そこには片腕を失い腹を大きくえぐられたコルディアーノが倒れていた。

 

「グォルルルル・・・・」


 上からまるで雷のような唸り声が聞こえてくる。

 見上げると”それ”と目があう。


 ”それ”はまるで王者のように、卵型の家の上に足をかけて君臨していた。

 そして獲物を見る目でこちらを睥睨する。

 

 その圧倒的なまでの存在感は、とても今まで戦ってきた物たちと同じ種族には見えない。

 だが、巨大な尻尾にその顔つき・・・・


 30mの超巨大サイカリウスがそこにいた。



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