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0-3【オアシスの精霊2:~変わらない景色~】




 想像してみてほしい。


 見渡す限り白一色の銀世界が地平線まで広がる光景を。


 その地平線の向こうにはどんな景色があるのか?


 山があるかもしれない、海があるかもしれない。

 見渡す限りの草原が見えてくるかもしれない。

 ひょっとすると格好いいお城が見えてくるかもしれない。

 とにかく、多くの人が多少なりとも今の景色に対して変化することを想像するだろう。

 

 だがしかし!!


 地平線の向こうに変化などない! 

 現実はただひたすら同じような真っ白い景色が広がっているだけだ。

 たまに氷が割れて盛り上がってそれが山脈のような壮大な光景を作っていたりするが、それを乗り越えてもまた真っ白。


 この前は薄っすらと雪が降っていて、遠くが全く見えなかったせいで気にならなかったが、こう晴れて遠くの方まで見えてしまうとその絶望感たるや。

 主は慣れているっぽいが、俺は慣れていないのでつらい。

 

 おそらく主は適度に緊張を保つ術をよく心得ているのだろう、もしくはこの変化のない世界の中に何らかの変化を見出しているせいかな。

 その主は今、上半身を地面にベッタリとつけて伏せっている。


 何をしているかというと、地面に耳をつけて周囲の状況を確認しているらしい。

 視界が悪いときと違い、地平線の彼方まで何も遮るものがないと隠れる場所もない。

 とくにソリを引いて速度の出ない今のような状況では、無用な厄介事には近寄らないに越したことはない。


 というわけで、主は時折レンジャーよろしく地面に耳をつけて、地平線の彼方を確認することにしているらしい。 

 ただ聴覚データを何度リプレイしてみても、俺にはさっぱりなんにもわからないんだけどね。

 たまにこれを行なった後に向かう方向を変えるので、何かを察知しているようなのだが俺にはまだ早いのだろうか。


 うーん・・・・


 意外なことに地面の音はそれほど静かではない。

 そもそもこの地面は土ではなく降り積もった雪が固まってできた氷の大地だ、そのため結構な頻度で氷に亀裂が入るような高い音が聞こえてくる。

 他にも様々な方向から、様々な音が入るのでどれが何の音だろうかなどと考えては収拾がつかなくなってしまうのだ。

 こればっかりは情報を些細に見ることができることの弊害といった印象だ。


 そんなことを何度も繰り返しながら、行けども行けども何もない時間が過ぎていく。


 そして遂に今日一日変化が何もないまま日が暮れてしまった。



 この極寒の世界を見てきて知ったのだが、日が落ちるとそれを境に気温が一気に落ちてしまう。

 この数週間の間に何回か夜中に外に出ることがあったのだが、それはもう魂まで凍りつきそうな状況だった。

 とても人が行動できるとは思えない。


 そして現在、その太陽は地平線に沈み始めている。

 そこで今日の行軍はもう無理と判断したのだろう、ようやく足が止まる。


 主がこの前のように円形に軽く地面を慣らしたあとその中心部に棒を突き立てた。

 そして、棒に手を当てて何かを喋ろうとしたのだが、そこでふと何か思いとどまったようだ。


 一体どうしたのだろうか?


 俺はてっきり棒を中心に快適空間を作り出す魔法の、”ドムイ”という呪文を発するものだと構えていたのだが。

 この呪文、訳すなら”家”という意味にするのが一番近いのだが、棒に手を当てて”家”と呪文を唱える姿を想像すると少々滑稽で気になってしまって、どう訳そうかずっと悩んでいたのである。

 

 その時、主が棒に向かって集中力を傾けた。

 ここ数日お馴染みになってきた主からの魔力調整の注文だ。


 どうやら主はこの魔法も俺のアシストが使えるか気になって試すことにしたらしい。

 棒から外へ何かを放出するタイプの魔法なので、おそらく効果は高いと思うが・・・

 

 おう・・・・かつてないほど集中力の細かな変動が多い。

 主も器用なもので、最近ではこうやって細かな魔力の動きを詳細に注文してくることが多くなっていたが、その中でもこれはなかなかの難易度だ。


 恐らくだが主が呪文を口にする時としない時の差は、この魔力操作の難易度の問題だと思う。

 砲撃魔法のような例外もあるが、基本的に呪文を使うときはかなり複雑に魔力を操作する必要があるように感じていた。


 えぇっと、なになに・・・・棒の中心部に魔力溜まりを作って・・・ふむ

 そこから小さな流れを4つ作って・・・はあ・・・なんだこれは?・・・変換?

 をして、再び混ぜる・・・・・それをもう一回上に貯めて・・・薄く散布・・・ねぇ


 まあ、とりあえずやってみましょう。


 魔力溜まりの製作と流道の作成は元々ほぼ完璧だったし、問題は変換と散布だな。

 特に変換、前の時のログを見る限りでも、結局のところ変換は呪文によるイメージの補助に頼らないとできていなかった。

 ”家”という呪文はこの変換の部分に使われるイメージだったようだ。


 では変換とは一体何を変換しているのだろうか、主から送られてくる注文だとここがどうしても曖昧でなかなか理解できない。


 前使ったときはどういう処理をしていたのか・・・どうも波長のようなものを切り替えている様ではあるのだが。


 やるとすれば、こういう感じで・・・・


「おお!?」


 その瞬間主にも、魔力が変換がうまくいったのがわかったようだ。


 我ながら結構綺麗に決まったのではないかな?

 少なくとも初めてにしては上出来だろう。

 そして変換された魔力が棒の先の方まで流れていき、再び溜まるのを感じた。


 あと調整できるのは散布か、これは何もしなくても問題なさそうだったが、一応放出量をより細かくすることで密度をより緊密にできることができた。



 魔力の散布が始まると周囲の温度が上昇し始める。

 散布が安定するのを確認し、あとはそれを維持するだけの魔力を魔力溜まりの中に入れて、切り離してやれば”家”魔法の完成だ。


 あとは魔力が切れるか、棒を抜いてやるまでは自動的にこの状態が維持されるだろう。


 なかなかいい仕事だったのではないだろうか?


 もちろん結果が決められている魔法なので威力の上昇とかはない(あったら問題だが)が、変換部の無駄が減った分だけ燃費が良くなったように思う。

 まあ結局、前回と同じだけ魔力を放り込んでいるので実は使用量自体は変わらなかったりするのだが、今後はより素早く展開できるしそのときは魔力を減らせば問題ない。

 今回無駄にすることになる魔力は、安い授業料みたいなもんだと思えば問題ないだろう。

 それに展開の速さはそれなりに武器になるし、恐らくこの魔法には領域内の認識阻害がかかっていると思われる。


 真っ暗で何も見えないとはいえ、こんな大平原で安心して寝るには必要な機能だった。




**********************



 翌朝、少し不機嫌気味な主が俺に対する報復とばかりに一段と血なまぐさい汁をすすっていた。

 いや、彼女なりのストレス発散方法なのだろうけどキツイものはキツイ。


 なぜ彼女が不機嫌なのかというと、”家”魔法に若干の不備があったらしく昨夜あまり寝られなかったのだ。

 不備といっても気温が微妙に違うとかそういうレベルの話だ、正直これ以上調整のしようがないので慣れてもらうしかない。

 あれだ、ホテルに泊まった時に何故か分からないが微妙に寝づらい的なやつだ。


 


 2日目も、今のところ特に変わった事はない。

 相変わらず、同じ景色を延々と続けている。

 視覚ログを見る限りちゃんと移動しているようだが、この世界の無駄に広大な所を見せつけられているようで、なんとも歯がゆい。


 装備の内容的に今日中には目的地のすぐ近くまで行かないといけない計算だが、こんな調子で本当にたどり着けるのだろうか?

 というかそもそも、この近くに植物が自生できるような土地が本当にあるのか。


 ここがいったい何回分の地平線の向こう側なのかわからなくなってきた頃、俺はついに主の目的が野菜の採取ではないのではないかと疑い始めだした。


 きっとこの後ろのソリも何か別のことに使用するつもりで持ってきたのだ。

 そうにちがいない。


 ただそれが何かと聞かれると、やっぱり野菜以外思いつかないんだよねぇ・・・



 さらに二日目の行程も13時間が過ぎようとした頃、俺はもう考えることを止め始めていた。

 ただぼーっと、視界に浮かぶ細かな氷の凹凸(おうとつ)を眺めている。

 この半日の間、視界の中を最も大きく変化したのは恐らく太陽だ。

 その太陽も今はかなり傾いていて、もうすぐ空が赤く変色を始めるだろう。


 結局今日もたどり着くことはなさそうだ・・・・・・



 ん?


 気のせいだろうか、地平線が妙に近いところにあるような・・・・


 いや視界の一方向・・・つまり俺達の進行方向の部分だけ歪んでいるみたいになっている。

 何だあれは。


 さらに近づくとそれが、氷の平原の中に一箇所だけぽつんとある、大きな窪みであることが分かってきた。

 まだここからでは窪みの底の方は見えないが、既に対岸の縁が地平線上に見え始めている。

 見た感じ傾斜はかなり緩やかな様だが、穴が相当に大きいため、深さもかなりのものになっていそうだ。


 段々と底のほうが見えてくるにつれ、そこに違和感があることに気づいた。

 なんだ?色が違う?


 そして何やら謎のモジャモジャのようなものが・・・・


 あれは・・・・まさか!?


 窪みの底が見えた時、俺は驚きのあまり声が出るかと思った。(出ないけど)


 なんとそこには植物によって作られた、緑色の空間が広がっていたのだ。

 



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