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見えてないもの

作者: 名無しくん

私の家の家族構成は父と母と1人息子の私だ。両親はお互いに共働きで家族みんなが揃うことはほとんどない。高校時代、家から帰ってくると誰もいないのがほとんどで、家族皆で団欒したり、食卓を囲んだりはほぼなかった。なので私は毎晩、母が作り置きしてくれた晩御飯を一人で食べていた。


別に家族仲が悪いわけではなかった。でも一日にする会話の量は少なく、両親に「おかえり」と「おやすみ」しか言わない日もあった。


だからと言って、私は両親を嫌ってなんかはいなかった。むしろ、高い学費を払って私を私立の高校に通わせてくれたことを感謝していた。


そんなある日、高校の保健の授業で家族について学んだ。その時に、家庭問題の一つで「孤食」というものがあった。 教科書に書いてあった「孤食」では、親が働いている時間に、子供が一人でご飯を食べることを示しており、それにより家族とのコミュニケーションが減り家族の仲が離れていくなどという話だった。


私はその話を聞いて、なんだか悲しくなってしまった。確かに私は毎晩、孤食をしており、寂しさを感じる時もある。だからこの話を聞いて、私の家庭は実は一般的な家庭でなく、世間からしたら問題視されてしまうような家庭なのではないか、と感じてしまったのだ。


私はこの感情を帰り道まで引きずっていた。今までの自分達の家庭が、否定されたような気がしてしまった。


家に帰ると、いつものように両親はおらず台所には作り置きされた晩御飯があった。その殺風景な様子が、私の寂寥感を更に駆り立てた。


夜になり、私は晩御飯を電子レンジに入れて温めた。さっきの話が頭の中で反芻してしまう。私の家庭は実は仲が良くないのか。両親の愛を感じていないのか。


そんな事を考えている内に、晩御飯があったまり終わった。でも中々、箸が進まなかった。


気持ちを振り払い、ようやく箸をつけて目の前の晩御飯を食べると、それはいつものように美味しかった。私はさっきの話なんかを忘れて、無我夢中に食べ進めていった。


そうして全て食べ終わった時、私はこんなに美味しい食事までもが否定されているようで腹が立った。


確かに私の家庭は口数がすくない。家族皆で食事を囲んだりするのだって少ない。旅行も年に1回。休日に何かをしたり、どこかに買い物に行く訳でもない。


だからどうしたというのだ。私は今、私の為に両親が汗水垂らして働いてくれたお金で買った食品を使って、母がわざわざ早起きまでして作ってくれた美味しいご飯を食べていたのだ。一人で食べようが、そのご飯そのものの価値は変わったりはしない。



たとえ一般的な家庭の形と違っても、私にとってそれが私の大事な家庭であり、私の誇れる家族なのだ。私の家庭を馬鹿にするな。私の家庭は問題視されるような、悲しいものなんかじゃない。誰がなんと言おうとこれが私達、家族の形なのだから。


母が先に帰ってきた。私はいつもは言っていなかったのにその日は「今日の晩御飯美味しかった。」と素直に言えた。


すると母は「そう、じゃあまた今度作るよ」と言ってくれた。




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