霧雨がくれた勇気
トレーニングとして始めた即興小説で書いた物の1作目です。
書いたものの、時間が足りず気になった時等は修正もします(修正した旨、記載します)
夕食を終え、食器を洗っているとぽつぽつと雨が降り始めた。
「っとと、急に振ってきたなぁ…洗濯物取り込まないと」
手を拭いて駆け足でベランダに向かう。
幸いまだ雨足は強くなく、洗濯物は無事だった。
何とか全部取り込んで、洗い物に戻ろうとすると、普段滅多に開かない扉が開いてのっそりと人影が出てくる。
「岬姉さん、またくま出来てるよ…仕事は終わったの?」
声を掛けられてやっとこちらに気付いた姉は疲れと達成感、その他色々な物が入り混じった表情をしながら声を出す。
「みなとくん…うん、何とか〆切に間に合ったよ…凄く疲れたし、お腹減って倒れそう…」
倒れそうな姉さんを片付けたばかりの食卓に座らせて、あらかじめ作り置きして置いた分を出す。
「はい、今日は姉さんの好きな金目鯛の煮つけを作ったから好きなだけ食べてね?」
好物が目の前に出されたのを見て、死んだ魚の目をしていた姉さんの瞳に光が戻る。
「わぁい!みなとくん大好きだよ!」
そう言って子供の様にパクパクと食べ始める姉さんを見て、作ってよかったなぁと思える。
何気なく窓の外を見ると、霧雨が降っていた…
「そう言えば、あの時もこんな天気だったね…」
それまで凄い勢いで箸を動かしていた姉さんが遠い場所を見る様な目で窓の外を眺める。
今この家には、僕と岬姉さんしか住んでいない…いや、正確には〈僕の家族は〉姉さんだけだ。
3年前のある日、僕たちの両親は交通事故で亡くなった…
トラックの運転手がお酒を飲んでいて、父さん達の車に追突したらしい。
突然、両親を失った僕たちは親戚の人の家を転々としながらも何とか普通の生活を送れたが、いつまでも、僕の心の傷は治らなかった。
「私が養ってあげる!」
姉さんは高校を卒業した日、急にそんなことを言い出した。
最初は何を言っているのか分からなかったけれど、姉さんはずっと小説を描いていて、卒業する頃には出版社からスカウトが来ていたらしい。
唐突過ぎて困惑する僕に、姉さんはその勢いのまま言葉を続ける。
「だからまたあの家で暮らしましょう!」
あの家、父さんに母さん、姉さんと一緒に暮らしていたあの一軒家…あの日から1度も戻らなかったあの場所。
姉さんは僕の手を取って、そのまま走り出した。
「私が働いて、みなとくんが料理をするの!ね、楽しそうでしょう?」
姉さんの笑顔を見て僕は頷き、それから僕達家族の生活が始まった。
「あの時は凄く辛かった…でもあの出来事が無かったら私は変われなかったと思うの」
確かに昔の岬姉さんはこんなに活発的じゃなかった。いつも本を読んでいて、話すときもゆっくりとしか喋らなかった。
それから姉さんは笑顔で続きを話す
「だからね…私は霧雨が大好きなんだ。普通の雨じゃない、〈二人で見る霧雨〉が好きなの」
「そう…だね、僕も好きだな…」
それから二人で思い出話をして、姉さんは「御馳走様でした」の後に、ある物を取り出した。
「何これ?遊園地のチケット?」
「そう!編集さんから貰ったんだ!だから明日一緒に行きましょう!」
「それじゃあ明日の準備をしなくちゃね、姉さんも手伝ってくれる?」
「任せて!お姉ちゃんの料理スキルをみせてあげるわ!」
色々大変だったけれど、僕は今の生活が凄く気に入っている。
この気持ちはこれからも変わらないだろう…
読んでいただきありがとうございました!
他にも連載小説2作品書いてます!
「自己犠牲錬金術師の冒険譚」(仮題)
「人形の彼女と紡ぎ手の僕」
よろしければどうぞ!(こちらは日刊ではありません)