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「ダメダメ。まずは先に、届け物をしないと。えーっとここが、幸崎屋・・・・」
ただの町のパン屋でないということは聞いていたのだが、聞く以上の実物をこうも目の当たりにすると少々気おくれしてしまう。
高級百貨店のような佇まいに、田舎育ちの娘はたじろぐばかりだ。
食欲をそそる香りと人々の熱気が交じり合う総菜屋の真横を空腹ゆえの誘惑を退けながら、殊葉は先を急ぐ。
時刻が時刻だけに人々の姿はまばらだが、買い物客が皆無と言うわけではない。ぼーっと立ち止まっていては迷惑になることは必至だ。
「えーっと。ここの角を曲がって、ツーブロック先」
幸崎屋の目の前を通り過ぎようとすれば、この店のシンボルなのだろうか。
「幸」と刻印されたライオンのブロンズ像がひょっこりこちらを見ていた。
「はっはぁ。これがライオンね~」
殊葉はスポーツバックを背負い直し、ライオンの目の前まで歩み寄る。幾度となく通り過ぎる人を見送り触られてきただろうその頭はぺかぺかつるんと光っていた。
例に倣って殊葉もそれの頭を撫で、通り過ぎ細い路地に足を進めた。