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幸崎屋、と銘打たれた石造りの建造物である。
商店街に接する壁側に大きなはめガラスの窓が四つあり、あまりにも窓が多いので外から中で何をしているのかはっきりとみることができる。店の入り口―――、みやげもの店と隣接するドアとその反対の扉にはドアガールが存在し、にこやかに扉を開閉し、出ていく客入っていく客を送迎している。まるで貴族の邸宅のような外観と雰囲気、もてなしである。
窓の中の人の様子を注視してみれば、椅子に座って何かを食べたり飲んだりしているということから、飲食ができる場所が設けられているとすぐ分かった。
扉が開くたびにパンの香ばしく焼ける匂いが鼻をくすぐり、ちょっと入口に視線をやると階段を上がった先、人垣の合間に見栄えよく並べられたパンの一部が見え隠れする。
「うわぁ、おいしそう・・・・」
じゅるり、と口の中に溢れていた唾液が音を立てる。境界を超えて口の端から躍り出ようとするのを寸でで止め、彼女は首を真横に振った。