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「それにしても・・・・暑い」
自宅を出てからほとんど車やバス、電車を乗り継いできた殊葉が半日ぶりに触れる大気は蒸し暑く、けだるいねっとりと絡みつく陰湿な熱を持っていた。
地下街を出てから既に10分以上が経過している。
そろそろ母の言っていることが信用できなくなってくる頃合いだが、それでも手がかりがそれしかないともなれば、「見つけるまで」歩き続けねばならないことは承知の通りだ。
歩けば歩くほどじんわりとした汗が体表へ浮かび上がってくる。
殊葉は手の甲で軽く汗をぬぐうと、スカートのポケットの中から一枚の紙を取り出した。紙には地図と指示が簡易的に書かれており、それによれば。
「幸崎屋の横の細道にはいって、2ブロック先。目印はライオン。…ライオンねぇ」
こんなご時世にライオンなんているものか、と思いはするものの。目印がそうとはっきりと書かれているので信じるしかない。
殊葉が指先で行くべき方向を確認していると、大きく開けた道の中に重厚な石材造りの建物が目に入った。視線を巡らせると建物と建物の間に商店街ができているようで、「幸崎商店街へようこそ」と白い垂れ幕が殊葉を歓迎してくれた。
「幸崎・・・。幸崎屋!」
合点がいったと殊葉は即断して、その大きな道に入り込む。
石畳が敷かれた商店街の両端には右側にはどこかの百貨店の高級ブティックのショーウィンドーが2つ、左手には呉服屋、文房具や、靴屋と個人商店のようなこじんまりとした店が立ち並んでいる。
そして視界を断続的に阻むのは人の流れだ。
殿朝という土地は、どこに行っても人が多い場所らしい。
靴屋の隣には「にほんみやげ店」とひらがなで書かれた妖しい雰囲気の店があり、通行の妨げにはならないものの、せり出した扉に風車や「神風」「忍者」と書かれたいかにもなTシャツがかかっている。誰が買うんだろうか、とみていると外国人観光客がモンペ袴姿の女性から接客を受けて大仰に感銘していた。
「売れるんだなぁ」
感心してみる間もなく、みやげもの店の横に殊葉が求める場所があった。