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絞首台の街、安楽死の少女  作者: 東雲佑
第三章 死に損ないの青年と死にたがりの少女

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■3 この街においてはほとんどのことがそうであるように。

 前日の帰宅途中に一人で立ち寄ったカフェに、この朝は二人で入った。


 いつも一人で来店する青年が異性の同伴者を伴って訪れたことに、顔なじみの店主と女給はほんの一瞬驚いたような表情を浮かべた。


 しかし、それだけだった。

 彼らがなんらかの詮索(せんさく)めいた言葉を投げかけてくることはない。好奇心を態度に匂わせることすらしない。


「あの人たちにはどういう風に見えていたのかしら」


 壁際の席を選んで腰を下ろしたそのあとで、ユータナシアが言った。

 カッコーは聞こえなかったふりをして黙っていた。


 少女は青年のそうした態度を面白がるようにくすくすと笑う。

 そして追い打ちをかけるように、もう一度同じことを繰り返した。


「わたしとあなたの関係、あの人たちにはどう見えていたと思う?」

「……さあな」


 舌打ちでも打ちたい気分で、ユータナシアの顔も見ずにカッコーは吐き捨てた。

 まさに二重の意味で「さぁな」だった。「知ったことか」のさあなと、「見当もつかない」のさあな。

 自分とこの娘の関係がなんなのかなんて、カッコー自身理解できてはいないのだ。


 座席に座って待っていると、すぐに女給が二人分の食事を運んできた。

 メニューを選ぶ必要もなければ注文を告げる必要もなかった。


 そもそも選択肢など最初からないのだ。

 この街においてはほとんどのことがそうであるように。


 青年と少女は向かい合って一つしか無い選択肢を口に運んだ。

 食べているのは同じメニューなのに、テーブルの左右に漂う感情はまるっきり正反対だった。

 ユータナシアは記念すべき街での最初の食事を――味の薄いスープと堅すぎるパンを――無邪気そのものに堪能し、そんな彼女の様子にカッコーはまたため息をついた。


 いつのまにか、店内の少ない座席はほとんど埋まりきっていた。

 風変わりな取り合わせの二人組に、朝の客たちが不躾な視線を注ぐことはなかった。



   ※


 食事を済ませて店を出たときには、すでに街はすっかり目を覚ましていた。

 商店は看板をあげ、人々は与えられた役割に準じはじめる。


 そのようにして一日ははじまる。


「このあとはどうするの?」


 並んで通りを歩きながら、隣を進むユータナシアが聞いた。


「街の案内、最初はどこに連れてってくれるの?」

「その前に買い出しだ」


 眼差しに期待を漲らせる少女に、青年はすげなく応じた。


 ユータナシアの荷物、彼女が街の外から持ってきた品物は、そう多くはなかった。

 少なかったわけではない。しかし、十四歳の少女には巨大すぎる旅行鞄には、ユータナシア本人にしか意味をなさない品物ばかりがいっぱいに詰まっていたのだ。

 たとえば使いかけの消しゴムと歯で噛んだ跡のある鉛筆、数字のボタンがたくさんついている壊れた機械、破かれたノートと誰かからの手紙……そうしたものが。


 つまり正しくは、生活に必要なものがまったく足りていないのだ。


「ふうん。だけど最初に買い物なんてしたら、荷物にならない?」

「荷物になるほど買わないから問題ない」


 やはり素っ気なく答えて、それから、強調するように付け足した。


「必要なもの以外は買わない。けっして」


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またこの物語が読めて嬉しいです。カッコーを見届けたい。
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