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 食後の1杯。お父さんの一番機嫌のいい時間だ。


「ねえ、お父さん。明後日はお爺ちゃんと野宿いってきていい?」


 今日の話は衝撃的だったけど、家に帰る事には落ち着いてきていた。現金かもだけど、お爺ちゃんも『まだ難しかったかも』って言ってたし、今は考えるよりも忘れないようにしておくべきだと思うんだ。それよりも野宿。


「あの人まだそんな事してるのか。山の中でポックリいったらどうするつもりなんだ、婆さんもいないしどうせ人付き合いもないんだろ」

 眼鏡を外して眉間を押さえるお父さん、機嫌の悪いサインだった。でも今更引き返せないしお父さんの返事を待っていると眼鏡を掛けなおして僕の方を向くなり呆れた顔になる。

「あぁ。ダメだダメだ。さっさと寝ろ」


 お父さんの声が大きかったのか、お母さんがキッチンから来てしまった。絶体絶命だ。

「どうしたの、お小遣いの前借り? 来週はお祭りだからそれまで我慢しなきゃダメよ」

「あの人が洋を連れてキャンプに行くって約束したらしくてな」


 お父さんはお爺ちゃんの事を『あの人』としか言わない。僕も子供じゃないんだからそれが変だって気付いているけど、一度も聞いたことは無かった。きっと大人の事情とやらだ。


「なにいってるの洋はまだ小学生よ」

 母さんはお爺ちゃんが苦手みたいで何をするのも全部反対だ。子供会でキャンプに行くって言ったらきっと賛成してくれるのに。


「この家の頭金払ったからってうちの家族のこと口出すのやめさせてよ」


 お母さんのこの一言がお父さんの逆鱗に触れてしまった。


「なんだいそれ言い方は。あの人がお前に恩に着せてるっていいたいのか?

 あの人はそんな人間じゃない。だいたい仮にも義父に……」


 華麗なる夫婦喧嘩勃発だ。うちは3人家族だから夫婦喧嘩が始まると止める人がいなくなる。僕が止めようもんならお互い自分の陣営に入れようとしだして余計に話がこんがらがってしまうのだ。

 こんがらがっしゃーんしてしまうのだ。

 なので暗黙の了解で僕は自分の部屋に逃げ帰る。結局野宿の了解を取ることが出来なかったから、明日の朝にリベンジマッチを誓い、気合いを入れると布団に潜り込む。





 気合いを入れるタイミングを間違ったかもしれない。一向に眠くならないのだ。なんどか寝返りをうって頑張って寝ようとすると、控えめに扉がノックされた。喧嘩後のお母さんなら問答無用で扉を開けるのでお父さんだろう。

 返事をすると予想通りお父さんが入ってきて僕のベッドに腰掛けて話しだす。


「洋。野宿行ってくるといい。あの人にはお父さんからも言っておくが、携帯の届かない場所にはいかない事、ナイフと包丁以外の刃物は持たない事、これ以外はお祖父さんの言うことを必ず聞く事。守れるか?」

「なんで許してくれるの?」

 嬉しさよりも疑問が先に出てしまった。お父さんはお爺さんの事嫌ってるのは流石にわかる。しかも冒険者に付き物の野宿は危険も付き物なのに。


「お父さんも洋と同じぐらいの頃にお祖父さんに連れられて野宿に行ったことがあるんだよ。行く前はワクワクもしたしドキドキして眠れなかった覚えがある。帰ってきた時には自分が大人になった気がしたもんだ。

 僕達夫婦はお祖父さんの考えが理解出来なかったけど、洋が物を学ぶ事を反対はしちゃいけないなって思い出してね」


 お父さんの声を聞いて安心したのか、一気に眠気が襲ってきていつの間にか眠っちゃってた。


 朝起きてテーブルに着くと、朝の挨拶が無いまま3人のご飯が始まってしまった。

 夫婦喧嘩は冷戦に突入したらしい。無言の食卓にお天気お姉さんの陽気な声が気まずいさを倍増させている。ここはパンを一気に口に入れるとオレンジジュースで流し込み、戦線離脱を計ろう。

 空の食器を持って台所に向かおうと椅子から降りたタイミングでお母さんが今日初めて声をあげた。


「キャンプなんて初めてなんだから、何が必要かちゃんと教えて置いてもらわないと準備出来ないわよ」


 こちらに向けて軽く笑うお父さん、冷戦はなんとか勝利したらしい。
















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