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プロローグ

「ハアアアアアアアッ!」


 鎧に身を包んだ、赤髪の少女が、自身の身長大ほどもある大きな剣を振るっていた。

 その少女の一振りで、周囲の大地は大きく抉れ、地形を変える。


「……そんな攻撃では、妾には届かぬぞ、勇者!」


 赤髪の少女に対抗するように、青髪の少女が、手をかざし、そこから膨大な魔力を噴出させ、巨大な炎の塊を生み出す。


「滅びろっ!」


 青髪の少女は、炎の塊を放つと、赤髪の少女は、それを自身の剣で切り裂いた。


「……くっ! さすが魔王……化物じみた魔力だ。聖剣でなければ、今ごろ消し炭だぞ」


 赤髪の少女は、剣で青髪の少女が放った炎を斬ったことで、その実力を体感した。

 だが、それは青髪の少女も同じであり、自身の攻撃が斬られたことに、衝撃を受けていた。


「……強いな。妾の攻撃をああも斬られてしまうと、自信を無くしそうじゃ……」


 それぞれが、知らぬうちに相手を称賛しているが、それでも瞳に宿る闘志は消えない。

 二人は、決して一人で戦っているわけではない。赤髪の少女には、長い旅を共にしてきた仲間が。青髪の少女には、古くから魔王に仕える家臣たちが。

 それでも、二人のぶつかり合いになってしまうのは、二人の戦闘力が他を凌駕しているからであり、二人の仲間は、その決着の行方を後ろで見ていた。

 赤髪の少女は、再び聖剣を握り直し、青髪の少女は、再びその膨大な魔力を練り上げた。


「――――だが、これで終わりだ」

「――――フン。それは、こちらのセリフじゃ」


 両者ともにらみ合い、互いの隙を探る。

 そして――――。


「「はああああああああああああああっ!」」


 赤髪の少女は、聖剣に神々しい光を纏わせ、突撃し、青髪の少女は、禍々しい闇の魔力を巨大な球体にして撃ちだした。

 二つの強大な力がぶつかり合う。まさにその瞬間だった。


「「なっ!?」」


 突如、二人の足元に、大きな魔法陣が出現する。

 その魔法陣には、二人とも見覚えがあった。


「こ、これは……!」

「転移の魔法じゃと!? それに、転移する場所が指定されていない……!」


 一体誰が……。

 二人は、それぞれの仲間の方へ、自然と視線を向けていた。

 そして、二人は絶句する。

 今まで、苦楽を共にしてきた仲間が、家臣が。赤髪の少女と青髪の少女が、魔法陣に巻き込まれるのを喜ぶかのような表情を浮かべていた。


「なっ、何故……!」

「どういうつもりで……!?」


 二人は、悟った。

 ――――裏切られたのだと。

 しかし、それを理解した時には、二人の足元の魔法が、発動してしまった。


「クッ……!」

「っ!」


 光り輝く魔法陣。

 その魔法陣が、より一層輝きを増し、周囲一帯を光で包み込んだ。

 赤髪の少女の仲間も、青髪の少女の家臣たちも、激しい光量に顔を顰める。

 そして、光が収まった後には――――二人の姿は、消えていたのだった。


◆◇◆


 ――――いつの記憶だろうか?


『絶対……絶対に会いに行きますから!』


 目を赤く泣き腫らしながら、そう叫ぶ幼い少女。


『ボクのこと、忘れないでね!』


 毅然と、涙を流すまいとする、幼い少女。


『玲雄君のこと、忘れないから……!』


 いつまでも、笑顔のまま手を振る、幼い少女。

 親父に連れられ、幼いころからいろいろな場所を回った俺には、多くの人と出会った思い出がある。

 ……でも、そのどれもが、遠い日の記憶。

 もう、顔も名前も憶えていない。

 どれもこれも、歯車が微妙にずれたような、そんな歯がゆさを感じるくらい、曖昧な記憶しかないのだ。

 そんなことを感じながら、俺――――大神玲雄おおがみれおは、深い闇から意識を覚醒させていった……。


◆◇◆


「ん……?」


 俺は、眠い目をこすり、机の上に置いてあった時計に目を向けた。

 ――――7時。

 ……ああ、そういや、今日は入学式だっけか。

 未だに覚醒しない頭でも、そのことだけは理解できた。

 大きな欠伸をし、仕方なくベッドから出ようとしたそのときだった。


「玲雄! 起きなさいっ!」

「んあ?」


 突然、俺の部屋に、女子が何の前触れもなく突入してきた。

 寝ぼけた頭のまま、その女子を見る。

 茶髪のツインテールとやらに、勝気そうな目。俺の悪友曰く、胸は残念だが、そこがまたいいツンデレ系美少女。俺自身は、その言葉のほとんどを理解できていないんだが、美少女という点については、正しいと思う。

 とにかく、いきなり俺の部屋に突入してきたこの女子は、俺の幼なじみである宮代凜華みやしろりんかだ。


「……あれ? 珍しい。玲雄が起きてるなんて。なんだか嫌な予感がするわね……」

「……おい、凜華。お前は俺を、どんな目で見てんだよ」


 徐々に覚醒してきた俺は、半眼気味にそうツッコむと、凜華は少し頬を赤らめた。


「ど、どんなって……そ、そりゃあもちろん……」

「あ? 言いたいことがあるんなら、ハッキリ言えよ」


 モジモジとしながら、ハッキリとしない凜華の態度に、俺は小さな苛立ちを覚えた。カルシウム足りてねぇかも。牛乳でも飲むか。


「……アンタねぇ、そんなこと言えるわけが……っ!?」


 俺の言葉に、何故か怒りかけた凜華だったが、何かに気付いたようで、さっき以上に顔を赤く染めた。というより、真っ赤だ。


「あ、ああああアンタっ! なんて格好してんのよっ!?」

「はあ?」


 凜華が顔を真っ赤にし、片手で目を覆いながら、俺の体を指さしてきた。つか、指の隙間から見える目は、俺の方をしっかり見てるんだが。

 まあそれはいいとして、俺はそんなにおかしな格好をしているだろうか?

 ふと、自分の体を見下ろす。

 まず、昨日は風呂に入った後、小腹が空いたからコンビニまで出かけたんだよな。だから、そのときの服装のまま、寝ちまった。

 なので、今の俺の格好は、寝苦しいと嫌という理由から、軽くワイシャツを羽織り、黒のズボンを穿いているといった、実にシンプルな格好だ。

 なんもおかしい格好してねぇじゃねぇか。全裸でもねぇし。

 そんな風に思っていると、未だに顔を赤くしている凜華は、まくし立てるように言った。


「と、とにかく! ちゃんと服を着なさいよ! 今日から高校生活が始まるのよ!?」


 お前は俺のオカンか。

 内心でそう思いつつも、口には出さない。面倒なことになるからな。

 その後も説教じみたことを言い続けた凜華は、もう言いたいことは言ったと言わんばかりに、部屋から出て行こうとする。

 しかし、あることに気付いた俺は、凜華の腕を引いた。


「きゃっ!」

「ちょっと待てよ」


 俺の方に凜華を振り向かせ、両肩を押さえる。


「な、ななななぁあっ!?」

「……」


 凜華よ。何が言いたいんだ。

 よく分からんが、さっき以上に顔を赤くした凜華を無視し、俺はそっと凜華の頭へ手を伸ばす。

 その動作に、凜華は体を一瞬強張らせた。……その反応は、軽くショックを受けるが、まあいきなり頭に手が伸びれば、警戒もするか。

 そう納得した俺は、すぐに凜華の頭についていたゴミを、とってやる。


「ゴミ、付いてんぞ」

「……………………へ?」


 すごい間を置いて、凜華は間抜けな声を出した。

 そして、徐々に顔を赤くしていき――――。


「~~~~~~~~っ! 玲雄の……バカああああああああああっ!」


 俺の部屋から、飛び出していった。

 ……何で、ゴミをとってやったのに、罵倒されるんだ?

 釈然としないまま、俺は制服に着替え、食卓へと向かった。

 食卓に向かうと、ご飯や味噌汁と言った、朝食が用意されていた。


「ほらっ! とっとと座りなさい!」


 朝食に目を向けていると、すでに食卓についている凜華からそう言葉が飛んできた。


「いや……座るのはいいんだがな。…………なぜ、お前がここにいる?」


 席につきながら、俺は思ったことを口にした。

 そう、凜華が俺の部屋に突入してくるのも、朝飯を用意しているのも、すべておかしいのだ。だって、一緒に住んでるわけでもないんだぞ?

 すると、凜華はとんでもないカミングアウトをしやがった。


「なぜって……私がここで暮らすからに決まってるじゃない」

「…………お前、寝ぼけてんなら顔洗って来いよ」

「寝ぼけてないわよっ!」


 いや、だって……なあ? なぜ、俺の家で暮らすとか言ってんの? 意味が分からん。

 首を捻っていると、凜華はため息を吐いた。


「アンタねぇ……前にも話したでしょ!? 高校に入学するにあたって、アンタのとこの寮が一番学園から近いから、世話になるわねって!」

「…………ああ、そんな話もあったな」

「あったな、じゃなくて! 覚えてなさいよ! アンタ、ここの寮長でしょ!?」


 凜華は、ギャーギャーと朝っぱらから喚き散らす。元気な奴だ。

 ただ、凜華の言う通り、俺の住む家は、今は学生寮として運営している。

 もともと、祖父母が経営していた旅館を、寮へと名目を変えただけなのだ。

 まあ、部屋は有り余るほどあるし、温泉だってあるこの寮は、自分で言うのもなんだが、相当いいところだと思う。

 ……ただ、入居者は凜華以外いないんだけどな。


「俺としては、他にも入居者が来てほしいんだがな」


 しみじみとそう思いながら、味噌汁をすする。凜華のヤツ……相変わらず、料理が上手いな。いい嫁になるんじゃねぇだろうか。

 一人で呑気にそんなことを思っていると、突然凜華は声を上げた。


「だ、ダメよ! まだ、ここに人を募集するには早すぎるわよ! 第一、人を集めるだなんて、意味がないわ!」

「……入居者がいない寮は、それ以上に存在する意味すらねぇと思わねぇか?」


 だって誰も使わねぇんだぜ? 本当に意味がない。

 俺はそう思うだが、凜華の奴はどうも違うらしく、俺に向かっていろいろ言い始めた。面倒なので、全部スルー。


「それに、やっと陽菜ようなちゃんと、月乃つきのさんがいない、二人っきりになれたのに……!」

「ん? 姉さんと陽菜がどうかしたか?」

「なっ何でもないわよ!」


 ……なぜコイツはいちいちケンカ腰なんだろうか?

 それにしても……姉さんと陽菜は元気にしているだろうか?

 俺には、大神月乃おおがみつきのという姉と、大神陽菜おおがみようなという妹がいる。

 ただし、そのどちらも、俺の親父の再婚相手である義母さんの連れ子なので、血は繋がっていない。

 中学の初期は、口もきいてもらえなかったが、途中から二人ともやけに優しくなったな。なぜだ?

 それはともかく、俺の親父と義母さん、そして姉さんたちは、親父の仕事について行っているので、この家……それどころか、おそらく日本にすらいない。

 まあ、親父たちがいるところにいた方が、安心と言えば安心だがな。

 それはともかく、そのあとも凜華がうるさいまま、朝食を終えた。

 そして、軽く身支度を済ませると、揃って家から出る。


「玲雄! アンタ、初日からもう制服を着崩して……そんなんだから、不良って思われるのよ!」

「あ? 俺、不良に思われてたのか?」

「……自覚、なかったのね……」


 結局、凜華は詳しいことは教えてくれず、俺は首を捻りながら学園へと向かうのだった。

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