魔法
「ちょ、待って!これからどうしたらいいの!?」
あたふたするななみに、アルクが言った。
「魔物退治?まあ、何とかなるさ。レベルをあげたらいいんだろ?」
「うん。でもさ、魔法の使い方なんて、分からないよ」
そう言ったななみに、アルクはぽん、ぽん、と魔法書を叩いてみせた。
「こいつに載ってる。試しに使ってみようかな。『火!』
アルクは杖を掲げて叫んだ。すると、周りが赤く光って杖についている赤い玉から火が出た。まっすぐ上に飛んだ火は、1mほど上まで上がっている。
「やっぱり最初の魔法は単純なのな」
うん、うん、と頷くアルクに、感嘆の声が飛んできた。
「すごいすごいすごーい!!魔法だぁ!私にも使えるかな?」
ななみは魔法書を開いた。呪文は『風』らしい。下には効果、相性のいい魔法など、細々としたことが書かれてある。後で読んでおくことにしよう。
「『風!』」
四方が緑色に包まれて、杖の玉から風が出た。だが、威力はせいぜい前方の落ち葉が1mほど飛んでいくくらい。
「こ、こんなので魔物なんか倒せるのかな……?」
ははは、と苦笑いを浮かべた。
「か、風の魔法はほら、RPGでも扱いが難しいって言うじゃないか。レベルアップするうちに強くなるって!」
アルクが必死に励ましてくれた。
そうだよね、まだ初めてだし。
前向きに捉えることにした。
「ありがとう。いっぱい練習したら、強くなれるよね!」
「うん。でも魔力の消耗には気をつけた方がいいな。最初の体力の把握が大切だ。ななみは今自分がどれくらいの魔力と体力持ってるか知ってる?」
いよいよRPGになってきた。
「ううん、知らない」
「魔法書の表紙めくって固い紙の裏面に書かれてるよ。ほら」
そう言って、アルクは魔法書の表紙をめくってみせた。
「HP1200、MP500?」
「男の火の魔導士の初期値らしいよ。ちなみに『火』のMP消費量は、2」
へぇ~と感心しながら、ななみも自分の魔法書を開く。
「えーと、私は……HP1000、MP600かぁ……。『風』のMP消費量は……3」
「経験値150でレベル2になれるらしいな。これ、HPなくなった時とかどうなるんだろう」
「んー、RPGみたいに宿とかないもんね……。レベル2か、いつになるんだろ。1匹倒してどれだけもらえるかわからないし」
……と言った時だった。突然、ピカーンと魔法書が光り出したのだ。光る魔法書を開くと、HP、MPなどの下に、クエストと書いた欄が追加されていた。
「ク、クエスト……」
もうつっこみを入れるのも面倒くさくなってきた。
「えーと、なになに……?前方100mに草・非魔法タイプ『サルラル』出現。撃退せよだって」
いきなり言われても何が何だかわからない。第一、前方ってどこの方角だ。
二人は身構えて少し待った。
ザッ!
草が揺れ動くような音がして、何かが飛び出してきた。
「で、でかい花だ!」
それはバラが大きくなったような感じの魔物だった。
「えっ!?どうすれば……」
「『火!』」
ななみが戸惑っていると、アルクが前へ飛び出し火を放った。
「ギャオン!」
サルラルという魔物は、花らしからぬ叫び声を上げた。
アルクが放った火はサルラルに命中し、花の半分を焦がした。だが、まだ倒れる気配は無い。
「『風!』」
ななみも魔法を使ってみた。
ヒューン
さっきよりは強めの風が出た。だがやはり威力は弱く、サルラルの花びらを数枚撒き散らしただけだった。
やっぱり私、弱い……。
そう思っていると、突然ちくり、と痛みが走った。
サルラルが攻撃してきたのだ。バラのトゲ……だろうか。負けていられない……!
ななみは至近距離から風を放った。
「「風!』」
サルラルの焦げた花びらは、ななみの魔法によって全て吹き飛んだ。
……と同時に、1本の針のようなトゲのような物を残し、サルラルは消えた。
「こいつの弱点は花らしいな」
トゲを手に取りながら、アルクが言った。
「経験値見てみろよ。増えてるぜ。あのサルラルとか言う奴は、風の魔法が有効だな。いや、もしかして花がついてるのはみんなそうなのかもしれない」
最初の一言以外はほぼ独り言のような声だった。
「ん?何?経験値?……あっ!30だ!30に増えてる!やったー!ってことは、5匹倒したらレベルアップ……?」
「さあな。俺は残念ながら20しか入らなかった」
アルクはガックリとうなだれた。
「そうか、魔法の特性によって違うんだね……難しいなぁ」
「まあともかく、これでやり方はわかったな。これから頑張ろーぜ!」
「おー!」
二人は拳を大きく掲げた。