表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

掛け言葉短編

ヒトメボレ

作者: RK

「貴方の目って綺麗ね」

 そんなことを言われたのは初めてだった。

 今までの人生、灰色と称するに相応しいものだった。華やかさなど存在せず野郎と過ごすむさい日々。

 それがその一言でバラ色になったのは僕の脳に春が来たからだろう。いろんな意味で。

 飛びあがる心を抑えつけて、務めて冷静に僕は礼を言う。

「ありがひゃおう」

 緊張のしすぎで噛んだ。盛大に。思いっきり。出血する程に。とても痛い。

 痛みと涙を堪え、僕はそのミスをなかったことにする。

「クスクス」

 だが、口の端から垂れる血をなかったことには出来ない。彼女はたのしそうに笑っている。

 僕は顔を真っ赤にして、何とかしないと!でもなにすればいいの!?と必死で考える。経験の無さが祟ってか最善の答えを手繰り寄せることはできなかったが。

「貴方面白いのね」

「てれまふね」

 これは舌が痛すぎて仕方ないからこんな言葉になっているだけだ。本当だ。嘘じゃない。信じてくれ。僕は誰に言いわけをしているんだ?混乱の極みである。アッー!

 とりあえず今の感情を一言で言い表すなら。

 恥ずかしくて泣きたい。

 …あ、二言だった。

 というか舌をかんだ痛みで泣いてるが。

 そんな僕の頬を伝う目から出た汗(吹けば飛ぶようなプライドでの表現)を目の前の少女は舌ですくった。

「しょっぱい…」

「*%#$$P%”++?!?$+???!??!」

 突然の出来事で人語を話せない。流石にモテモテのイケメン君でも初対面の女の子に頬を舐められる経験てあるのか?あるというなら僕は違う意味でも絶望したい。いや、僕も今日から勝ち組みだと考えれば万事オッケーか。とりあえず落ち着け僕。素数を数えろ。2、3…。ちょっとまて1は素数に入るのか?どうだったっけ?まだ二つしか数えてないのに疑問にぶち当たってしまったぞ…。というか本当に落ち着け僕。

 頭から煙を上げてフリーズしている僕に彼女は笑いかけてこう言った。

「またね」

 天にも昇る気持だった。

 それからというもの、僕は彼女と会うことが多かった。

 その度に彼女はこう言うのだ。

「貴方の目って本当に綺麗ね」

 彼女の褒め言葉なのだろう。悪い気がしない。目が綺麗、澄んだ目をしているということだろうか?

 目が綺麗って言葉は何度言われてもいいものだと思う。

 目はその人の心をあらわすとも言うしな。目が笑ってないとか、目が死んでるとか、表情に隠された心の状態を目は如実に映し出している言葉が多い。

 悪い気がしない僕は、何度も何度も彼女の元へと足を運ぶ。

 逢瀬を重ねた僕は遂に彼女に告白するのだ。

 彼女に目を褒められた時から、僕は彼女に好意を抱いていた。

 彼女が好きだと言ってくれた目を彼女に見せてあげよう。いつもは照れてしまって見せてあげられなかったから。

 目を見せれば彼女と必然的に見つめ合う。その時に気持ちを伝えよう。

「ねえ」

「なに?」

 だから気付いてしまった。目は如実に気持ちを表す。目が死んでるとか、目が笑ってないとか内心を映し出すのは目だ。

 見つめ合うことで、彼女の目を見ることで、僕は恐怖した。

「やっと見てくれたのね、嬉しい」

「あ…」

 恐怖で声が出ない。喉からは息がヒューヒューと吐き出されるだけ。言葉にはならない。

「貴方の目って綺麗なの。本当に。飴細工のように綺麗なの。とってもとっても綺麗で…。涙もおいしかった。だからきっと貴方の目も…」


 ――おいしいに決まってるわ。


 僕の目は抉られた。視界を失い、激痛が走る。気が狂いそうなほどの痛みが委縮していた喉に正常な仕事を果たさせる。

 絶叫。それは僕の喉からでているものだった。

「ああ、おいしい。貴方の目は綺麗だからこんなにもおいしい。口の中で転がしてゆっくりゆっくり噛んで感触を楽しんでから中身を啜るわ」

 僕は彼女に恋をしていた。恋は盲目というが本当に盲目になってしまった。

 節穴、そう、僕の目は節穴だった。浮かれて見えるはずの物が見えなくなって。

 結局、僕は一目惚れをして、両目はあった場所には何もない穴を残すのみ。

 はは、一目掘れってか…?笑えねー…。

 最後の思考はそんなくだらないことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 純粋にオチが怖かったです。盲目や節穴の掛け方も良かったと思います。 [気になる点] 最後の主人公の言葉が、、、怖いオチの割にはあまり恐怖感を感じなかったです。 [一言] ストレートなホラー…
2013/09/12 19:56 退会済み
管理
[良い点] えぐられたあともくだらないこと言ってる感じがなんかリアルな感じがして少し怖かった。 [気になる点] 悪い点ではないかもしれませんが、なんとなく読み始めからオチの予想がついてしまったのが少し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ