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護り屋ヒロマル 〜数理少女のオルゴール〜

作者: hiromaru712

【 #架空職業 『職能戦線』】

ここは異能力を持った仕事屋達が蠢く首都・東京。情報屋、奪い屋、運び屋、監視屋、護り屋…彼らはその能力で時に敵、時に味方になりながら各々の職業の誇りを賭けて帝都の闇に闘っていた。今日、彼らの元に舞い込む依頼は天使の歌声か、はたまた悪魔の呪詛か……⁉



【診断メーカー結果】

hiromaru712は護り屋です。性別は男、灰色の髪で、押しが強い性格です。武器は扇子。よく一緒に仕事をしているのは始末屋で、仲が悪いのは監視屋です。 http://t.co/rxrGwGTI

またお前か、監視屋。高い所から人を見下しやがって!( バサッ )



【護り屋ヒロマル】

扇に気力を込めた呪詞を書き、術を発動する「靈言扇舞法」(こんごんせんぶほう)の正統後継者・ヒロマル。彼の今回の任務は某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛。目指すは高田馬場、高次数学研究所。今日、彼を待つものは果たして何か…⁉



「診断メーカー : 架空職業」からインスパイアされたTwitter上の #架空職業 タグで投稿していた「護り屋ヒロマル」の編集版です。当初、「架空職業が無双系のゲームになったら?」みたいな雑談から派生したので、序盤だけゲームの展開を意識したものになっています。

【使用するキャラクターを選んで下さい】

【SE:ジャキン!】

▷護り屋ヒロマル

「靈言扇舞法・木船田流正統。木船田ヒロマル。推して参る!」




ヒロマル「天才数学博士の護衛?」

アズサ「そう。偶然某国の機密暗号のアルゴリズムを解析しちゃってね。某国エージェントにがっつり狙われてるの」

ヒロマル「国が護ってるんだろ?」

アズサ「囮を買って出た同じく数学者のお父さんをね。本当の天才は……この娘よ」

那由他「こんにちは」

ヒロマル「……!」




【ステージ1】高田馬場

【ミッション】少女を護衛しつつ高次数学研究所を目指せ!




ヒロマル「子供と女は得意じゃないんだがな」

那由多「お互い様よ。私を子供扱いするおじさんは得意じゃないわ」

ヒロマル「へっ、上等だ。怖い事があっても泣くんじゃねーぞ」

那由他「おじさんこそね」

ヒロマル「……口の減らねーガキだぜ」


-----------------------------


那由多「研究所が!」

ヒロマル「燃えてる……!」

???「先手、打たれちゃいましたね」

ヒロマル「誰だ」

情報屋「ども。速くて正確、お値段以上。猫耳じるしの情報屋です」

ヒロマル「お前の仕業か?」

情報屋「まさか。某国エージェント、ですよ」

ヒロマル「じゃあお前は何の用だ」

情報屋「落とし戸付α関数暗号の解析理論に興味があるんです。その子が那由多ちゃんですね?」


情報屋「頂いて行きます」

ヒロマル「ふざけるな新参!半年ROMって……」

【すっ……すすっ……すすすすっ……】


ヒロマル「何⁉これは…多重分身か…!」

情報屋「ツヴァイチャン・イルズィオン。影にして実。実にして影。あなたに見破れますか…?」

ヒロマル「くっ」


情報屋『あなは何故護るのです?』


ヒロマル「何?」

情報屋『今更じゃないですか?』

ヒロマル「なんの話だ⁉」

情報屋『分かってる筈です』

ヒロマル「……」

情報屋『あなたの護りたいものは見ず知らずの依頼人ではないでしょう?』

ヒロマル「……黙れ」

情報屋『それでも誰かを護るのは罪滅ぼしですか?』

ヒロマル「黙れと言ってる」

情報屋『あなたは一番護りたかった……いや、護るべきだった相手を』

ヒロマル「……情報屋、てめえ」

情報屋『死なせてしまってるんじゃないですか?』

ヒロマル「うぉぉぉぉっっっ……!!!」


---------------------------


情報屋「強い、ですね……慣れないことはするものじゃない」

ヒロマル「勝負はまだ着いてねぇぞ!」

情報屋「今回は諦めます。コストとリスクが高過ぎる。暗号解析理論の情報、売る気になったら連絡下さい。高く買います」

ヒロマル「てめえだけには死んでも売らねえ‼」

情報屋「……アウフ・ヴィダーズェン」

ヒロマル「ち……消えやがった」



ヒロマル「アズサか?研究所が燃えてる。おまけに猫耳和装の女情報屋に絡まれた」

アズサ「最近売り出し中のチェシャキャットね。よく無事で」

ヒロマル「代わりになるスパコンは?」

アズサ「只のスパコンじゃ駄目。量子コンピューティング型じゃないと……待って……上野の国立科学博物館。文部科学省越しに話は通しとく」

ヒロマル「上野……」

アズサ「交通機関はダメ。封鎖されたら身動きできない。PDFで近郊共同溝の接続図を送る。地下を行って」

ヒロマル「那由多、少し長い距離を歩くぞ。平気か?」

那由他「おじさんこそ。杖つかなくていいの?」

ヒロマル「……上等。行くぞ!」


【♫〜】

ヒロマル「アズサ、電話はよせ。位置を探知される!」

アズサ「分かってる!でも緊急よ。某国はあなた達の追跡に最新のマシンビーストを投入するわ!」

ヒロマル「動画で観たヨタヨタ四つ脚で歩くやかましい荷運びロボか?」

アズサ「あんな玩具、ダミーのカバーに決まってるでしょ!……ザザ……」

ヒロマル「アズサ……?」

アズサ「ザザ……注意……バスカビル……ザッ」

ヒロマル「おい⁉アズサ、もしもし⁉」


【ブツッ……ツー……】


ヒロマル「バスカビルとは……一体……?」

那由他「行こう……おじさん」

ヒロマル「……おじさんはやめろ」

那由他「じゃ、なんて呼べば?」

ヒロマル「護り屋さん、だ」


那由他「東京の地下に……こんな空間が」

ヒロマル「高圧線、ガス、上下水道、電話線にASDL、光回線……東京のライフライン、首都の動脈がこの直径40m、総延長約320kmの地下トンネルって訳だ」

那由他「……その扇子、光るのね」

ヒロマル「靈言扇舞法の初歩だ」

那由他「コンゴンセンブ……?」

ヒロマル「…静かに!何か…いる」


???『ウーッ…』


那由他「……犬?」

ヒロマル「いや違う!ロボだ!こいつがアズサの言ってた……!」

ロボ犬『ガウガウッ‼』

那由他「きゃあっ‼」

ヒロマル「下がれ那由他!天三宝日月星!地三宝地水炎!日気炎威西南より北東へ‼如律令‼」


【ゴウッ!】


ロボ犬『キャインキャイン!』

ヒロマル「今だ逃げるぞ、ここじゃ……」

那由他「あっ!」


『ウーッ』『グルル……』『ウー、ガウッ!』


ヒロマル「団体でお出ましか」

那由他「囲まれてる……どうするの⁉」

ヒロマル「仕方ねえ。大技で突破する。合図したら眼をつぶれ。手を引いたら眼を開けて全力で走る。いいな?」

那由他「分かった」

ひあ「開……封縮小巻」

【バサッ】

那由他「扇子が……大きく……」

ヒロマル「眼をつぶれ‼」

【カッ‼】




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。敵の追撃を躱しながら辿り着いた高次数学研究所は既に敵の手に落ちていた。地下道を使い逃れる二人に某国の戦闘機械犬の群れが追いすがる。ヒロマルは奥義の封を解き、打って出るが……。


【ビシッ!ガシャン‼】

ロボ犬『ギャウッ……』

ヒロマル「はぁっ、はぁっ……これで……12体!あとは……!」

那由他「今ので最後よ!もう追ってくるメカ犬はいない」

ヒロマル「……そう……か」

【どさっ】

那由他「ちょ!おじ……護り屋さん!しっかりして!護り屋さん……!」


-------------------------------


【ぴちょん……ぴちょん……】


ヒロマル「……ここは?」

那由他「気がついた?さっきの場所から少し離れた横穴よ。大丈夫。足跡は消しながら来た」

ヒロマル「…お前一人で運んだのか?」

那由他「重かった。後でなんか奢ってよね」

ヒロマル「手当されてる」

那由他「初めてだし適当だけど、ないよりましでしょ」


ロボ犬『ウーッ』

ヒロマル「うわ⁉」


那由他「大丈夫、落ち着いて」

ヒロマル「だがこのブリキ犬は……!」

那由他「あなたが倒した中で状態のいいのを一匹引っ張って来たの。ポートは普通のUSBだった。基本のOS、windowsのMEなのよ?マジウケる」

ヒロマル「……つまり?」

那由他「物凄く分かり易く言うと、タブレット端末でこの子を味方に改造中」


【ペペ……ゥー】


那由他「これで……」

【ポピ!】

那由他「ビンゴ♫……Can you here me?」

ロボ犬『わん!』

ヒロマル「おお……」

那由他「Im'your new master.I give you new mame, Your name is HACHI!」

ハチ『うわん!』

那由他「いい子ね♫」

ヒロマル「成る程……天才少女、か」


ヒロマル「位置情報を送信したりしてねえだろうな?」

那由他「そういうのは真っ先に閉じたから大丈夫」

ヒロマル「30分程休もう。先は長い。ちゃんと手当もしたいしな」

那由他「ハチ、見張りをお願い」

ハチ『わん!』

ヒロマル「……法術なんかよりコンピュータを学ぶべきだったかな」



ヒロマル「月気生脈の流れもて癒しの手となれ……癒絆着傷、患!」

那由他「傷口が……」

ヒロマル「俺の術は陰陽五行思想と真言密教に基づいてる……世界は五つの気からなり、正しく述される言葉や文字はそれを操ったり影響を与えたりできる」

那由他「道具が扇なのは何処でも拡げられてすぐ文字が書けるから?」

ヒロマル「……そうだ。正直、この法術体系は相手が人間や自然の事物の時に最大に力を発揮する。メカやロボには効き目がイマイチだ。苦戦してすまなかったな」

那由他「ううん、いいの。結局護ってくれたじゃない」

ヒロマル「……まだ早い。その台詞はゴールしてからだ」

那由他「ねぇ……聴いてもいい?」

ヒロマル「なんだ?」


那由他「猫耳の情報屋が言ってた……あなたが護れなかった人のこと……」

ヒロマル「……」

那由他「あ、いいの。嫌なら別に……」

ヒロマル「もう15年も前のことだ。構わないさ。……当時付き合ってた女がな、宗教絡みのテロに巻き込まれて、命を落とした。俺は駆け出しの護り屋で仕事中だった。その時に……そばにいなかった」

那由多「……」

ヒロマル「あの情報屋はああやって、人の心の傷をえぐって戦いを有利にするんだろう。後悔がないと言えば嘘になるが、とっくに涙も枯れた出来事だ」

那由他「……ごめんなさい」

ヒロマル「お前が謝るこたねー、さ、そろそろ出発しようぜ。外はぼちぼち陽が暮れる」

那由他「うん。行くよ、ハチ」

ハチ『わん!』




???「全滅……12機のフェンリルが……クックック、面白い。よもや人間相手にお前を出す羽目になるとはな……」

【ヴン……ズシン!ズシン!】

「ターゲットインストール……ロック。バスカビル、ゴーアヘッド‼」


【ウォォォォォー……ンン‼】




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマルは敵の追撃を躱す為潜り込んだ地下道で戦闘機械犬の群れに襲われ、傷つきながらもなんとか撃退する。だがそれらを上回る新たな脅威が迫りつつあるのを、二人はまだ知る由もなかった。


那由他「なにここ……広っ!天井高っ‼」

ヒロマル「知らないのか?地下遊水施設だ。都心に大雨が降った時、都内の川と言う川から溢れた水がここに集まるのさ」

那由他「へえ……ヤッホー!」

【ヤッホー……ホー……ホー】

那由他「なんか秘密の神殿みたいね」

ヒロマル「ロマンチストだな。天才でも16歳の女の子、か」


【ドドドド……】


那由他「何の音?……まさか雨水⁉」

ヒロマル「いや、予報じゃ週末まで晴れの筈。気を付けろ!何か来る‼」


『ウォォォォォー……ンン‼』


那由他「何あれ⁉象⁉」

ヒロマル「違う!メカ犬の親玉……!」

【ビュッ!ザグッ‼】

ヒロマル「がはッ……!」

【ドン!ズズズ…】

「ぐっ……!速ええ……」


那由他「護り屋さん!きゃあ⁉」

???「ハハハハ!いい様だな日本人!」

ヒロマル「誰だ、てめえ」

少佐「少佐、と呼んでくれ。互いに名前など意味がないだろう」

那由他「離して!」

【バチバチッ】

那由他「う……」

ヒロマル「那由他!」

少佐「この娘は貰って行く。パンドラの箱は開けさせない」

ヒロマル「……野郎」


少佐「おっと君の相手はそこにいる地獄の番犬だ。Permission,Using The Firearms.」


【ジャキ!ブゥゥ……ゥ‼】

【バリバリバリ……‼】


ヒロマル「バルカン砲⁉うおぉ……っ‼」

少佐「フハハハ……バスカビルは単独で戦車一個中隊の戦力を持つ。楽しんでくれたまえ!」

ヒロマル「待て‼」


【ザッ】

バスカビル『ウォォォォォン‼』

【ガシャ!スパッ‼】

ヒロマル「ミサイル⁉」

【ヒュルル……】

「ダメだ!躱しきれな……」

【ドン‼】

ヒロマル「……ハチ!」


【ドカン!バチバチッギギ……】


ハチ『くうー……ん……』

ヒロマル「くそっ!……バスカビルとか言ったな?機械の分際で人間様を怒らせるとどういう目に会うか……思い知らせてやる‼」




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。追撃を逃れ進む地下道。追いすがる戦闘機械犬の群れを辛くも撃退。だがそこに巨大な機械獣バスカビルが現れヒロマルは危機に陥る。少佐と名乗る男に連れ去られた那由他の運命は……?


バスカビル『ガウッ』

【バリバリバリ……‼】

ヒロマル「またバルカン砲……うわわっ‼」

【ザザッ】

ヒロマル「くそ!近づくこともできやしねぇっ‼」

【ガシャ!スパッ……ヒュルル……】

ヒロマル「ミサイル…!木氣召雷!絡撃‼」

【カッ……ドカン‼】

ヒロマル「埒があかねえ!気力が残っている内に……打って出る‼」


【バッ】【バッ】


ヒロマル「すうっ……」


ヒロマル「鬼敵駆逐、靈言扇舞法……集氣練丹、紅火、蒼水、黄土、緑木、白風……」

【くわっ】

ヒロマル「極壁越限……この一撃に全てを賭ける!五天崩玉扇‼」


バスカビル『ウォォォォォー……ン‼』


【バリバリバリ……‼】

ヒロマル「遅い!……貰った‼」


【ガキン‼】


ヒロマル「……どうだ!」

バスカビル『……グルルル』

ヒロマル「……な……に⁉」

【バキャ‼】

ヒロマル「……ッ‼」


【ドサッ】


ヒロマル「ぐ……気の量が……完全な術に……ならなかった……か」


【ズシャ……ズシャ……】


ヒロマル「近づいて来る……直接、とどめを刺すつもりか……」


【ズシャ……ズシャ……】


ヒロマル「立て!俺の身体!うぉぉぉっ‼」

【フラッ】

ヒロマル「はぁっ……はあっ……はあっ……」


ヒロマル「……そこをどけ、犬ころ」

【ズシャ。ガシャッ!】

ヒロマル「俺はもう死んでも御免なんだ……」

【ピピピ……】

ヒロマル「護るべき誰かのいざという時に!」

【ピー……!】

ヒロマル「そばに居ないのはッッ‼」


【スパッ……ヒュルル……ドカーンッッ‼】


ヒロマル(……⁉ 爆風が……遠い?)

???「よくぞ吠えました。それでこそヒロさんだ」

ヒロマル「お……お前は……⁉」

???「アズサさんからの依頼でね。お届け物を運んで来ました」


ヒロマル「運び屋……眼鏡っ!!!」


眼鏡「さあ……」

【すちゃ】


眼鏡「反撃開始です」

【キラーン】




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。追撃を避け、地下道を行く二人の前に最強の戦闘機械獣が立ちはだかる。少佐と名乗る男に攫われる那由他。法術の気力も尽きたヒロマル。絶体絶命の危機に現れたのは運び屋・眼鏡だった……。


ヒロマル「眼鏡……お前……」

眼鏡「アズサさんからお届け物です」

ヒロマル「携帯?」

眼鏡「受信基地局偽装アプリの入った『足跡の付かない』電話だそうで。可能なタイミングですぐ掛けてこい、と伝言です」

ヒロマル「あいつにも気を遣わせてるな……」

眼鏡「さて、ここは任せて対象を追って下さい」

ヒロマル「ばっ……んなことできるか!」


眼鏡「時間がないから正直に言います。今回は機械が相手なので魔性のペンの力を全て解放します。ぶっちゃけ第三者がいると危険です」

ペン「キシキシ……」

眼鏡「まだだ。少し待て」

ヒロマル「……分かった。恩に着る」

眼鏡「ヒロさんには借りがある。春日亭の天丼でいいですよ」

ヒロマル「ネタ二人前でな」

眼鏡「契約成立」


ヒロマル「頼む」

眼鏡「目くらましもそろそろ切れる。デッサンに入ります。なるべく早くこの場を離れて」

ヒロマル「分かった。ハチ!ハチ!」


ハチ『……くうーん』


ヒロマル「動けるか?お前のマスターを追う。匂い、温度、タブレットの信号……何でもいい!どうにか辿って俺をあいつの所へ導いてくれ!」

【ギギギ……】

ハチ『わん!』



眼鏡「行くぞフラウロス。最も賢きペリシテ人の名に於いて汝に666秒の自由を与える。我が描く絵画の内に。マシュー・アルクト・デ・オーラム…エイメン‼」

ペン「ホホホホホ…ゲヒャヒャヒャヒャ…‼」


【ズシン!ズシン!ムクムクムク…】


バスカビル『ウッ⁉ウォォォーン⁉』

眼鏡「機械とはいえ……哀れな……」


【バリバリ……ぐちゃっ】

バスカビル『ウォォォォォーン‼』

【ミシミシッ!バキッ!ミリミリミリ……ぶちっ!】

眼鏡「……遊ぶな。一息に倒せ」


【……ごきゃっ‼】【ドカー……ン】


ペン「ホホホホホホホ…ッ‼」

眼鏡「……アーメン」




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。巨大な機械獣の出現で危機に陥る。だがそれを救ったのは護り屋・眼鏡だった。謎のエージェント「少佐」に攫われた那由他を追い走るヒロマル。彼は那由他を救えるか……?


那由他「う……」

少佐「気がついたか」

那由他「……ここは?」

少佐「世界最高峰の地価を誇る東京にも再開発中断で遊んでる土地はある。死亡事故とそれに纏わる悪い噂で潰れた病院とかな」

那由他「何故私を殺さないの?」

少佐「殺して欲しいのか?」

那由他「……」

少佐「パンに挟まれたキュウリである事は変わりない。大人しくすることだ」

那由多(……護り屋、さん)

少佐「簡単に言おう。二択だ。我々と来て我々の為に働くか。或いは死ぬか」

那由他「……」

少佐「時間稼ぎはやめたまえ。無駄だ。君の頼る護り屋は……」


ヒロマル「ここに居る!」


那由他「護り屋さん!」

少佐「馬鹿な!バスカビルを……どうやって‼」

ヒロマル「なぁに、ちょいと撫でたらおネンネよ」

少佐「くっ」

ヒロマル「何故大使館に駆け込まねぇ?こんなトコに女連れ込んで変態かてめえ」

少佐「工作員にはな、国家すら存在を認めていないゴーストもいるのだ」

ヒロマル「へぇダブルオー要員も大変だな。ダッチ少佐」

少佐「……貴様」

那由他「英国情報部……」

ヒロマル「さあ那由他を返せ。外交問題にしたいのか?」


少佐「フッ」


少佐「外交問題になどならん。警察が来るまで何分だ?10分?5分?……彼らが発見するのは死体一つだ」

ヒロマル「不法滞在外人のか?」

少佐「飼い主が飼い犬より弱いとは限らない。……身を持って思い知れ!」


【ドガッ!】


ヒロマル「こいつ⁉コンクリの壁を…‼」


【ガシャ‼】


ヒロマル「ぐあぁっっ……‼」


少佐「I.I.W.D……重積衝撃波デバイス。この左手とってコンクリートなぞ」

【ヴヴヴヴ……グシャ!】

少佐「ウェハースに等しい」

ヒロマル「てめぇ……ただの人間じゃねーな!」

少佐「ただの人間にダブルオーが務まると思うのか?私は女王陛下のサイボーグ。ダッチ・ザ・インパクト。全身の骨を砕かれて死ぬがいい!」





【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。那由他を攫った敵は英国情報部・ダブルオー要員のサイボーグエージェント、ダッチ少佐だった。術に必要な気力も残り僅かなヒロマルに、果たして勝機はあるのだろうか……?


【ガシャッ‼】

ヒロマル「ぐぅっっ‼」

【ドカン!バリバリバリ……】

ヒロマル「うわ!危ねえっ!」

【ズズ……ン‼】

少佐「ハハハ……どうした?逃げるだけか護り屋!」

ヒロマル「くそ!」

少佐「貴様の武器はキ、と呼ばれる生体エネルギーを用いて物理法則に働きかけるテクニック。度重なる戦闘でキは電池切れだろう‼」

ヒロマル「くっ!」


【ズガッ‼】

少佐「消費したキを補うには食事や睡眠を伴う充分な休養が必要だそうだな!我が左手の衝撃を喰らって……永遠に眠れ‼」

【ド……ン‼】

ヒロマル「ぐぁっっ‼」

【ズズ……ン‼】

ヒロマル「しまった……足が……」

少佐「チェックメイトだな。ただの人間にしては頑張った。賞賛に値する」

ヒロマル「畜生……!」


ハチ『わん‼』


ヒロマル「バカ!ハチ!出て来るな!」

少佐「ほう……飼い犬に手を噛まれるという奴か。アウトオブオーダーは……」

【ヴヴヴ……】

「排除する‼」

【ガシャアン‼】

ハチ『ぎゃうんっ!』

【ドサッ】

那由他「ハチ!」

ヒロマル「ハチ……ダッチ、てめえ!」


少佐「護り屋……ヒロマルとか言ったな」

ヒロマル「気安く呼ぶな!」

少佐「殺すには惜しい男だ。どうだ?我々の為に働かないか?この依頼の報酬は幾らだ?五百万?一千万?……幾らにせよ命を賭ける意味があるとは思えない。悪い話ではなかろう?」

ヒロマル「命を賭ける意味?ダッチ少佐。てめえにはないだろうがな、俺にはキッチリあるんだよ‼ 断るぜ!全身全霊でな‼」


那由他「待って‼」


ヒロマル「那由他……」

那由他「少佐。私……あなたと行く。だから護り屋さんを見逃して」

ヒロマル「那由他!馬鹿言うな!」

那由他「もう充分よ……護り屋さんは充分戦ってくれた。少佐の言うとおり。こんなことで死ぬことなんて……ない」

少佐「駄目だ。私の正体を知ったからには二択だ。仲間になるか、死ぬか」


ヒロマル「那由他。こいつと行けば薬物や拷問で洗脳され監禁されて延々とこいつらの悪事の片棒を担ぎ続ける日々が待ってる。そんなのは生きてるとは言えねぇ」


那由他「護り屋さん……」


ヒロマル「俺は……もう二度と、護るべき誰かを諦めたくねえんだ。例えこの身が砕け散ってもな!」

少佐「結論は出たようだな……」


【ヴヴヴヴヴヴ……!】


少佐「その下らないプライドを抱えたまま……地獄に堕ちろッッ‼」


【スガガガガガガッッッ!!!】


那由他「護り屋……嫌……ヒロマルゥゥッッ!!!」




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。那由他を攫った敵は英国情報部・ダブルオー要員のサイボーグエージェント、ダッチ少佐だった。迎合か死かを迫る少佐を拒絶したヒロマルに少佐の死の一撃が炸裂する……!


【ガガガッッ‼】


那由他「ヒロマルゥゥゥッッ‼」

ヒロマル「……っせえな。どさくさに呼び捨てすんな」

那由他「えっ……⁉」

少佐「ばっ……馬鹿な……⁉」


【ぶちっ】


ヒロマル「拘束は解いた。離れてろ。その内眼鏡の運び屋がここに来る。信用できる奴だ。眼鏡と一緒になるべく速くここから離れろ。行けるだけ遠くへ」


【ジジ……】

那由他「扇子……燃えてる!」

ヒロマル「いいんだ。術の序式だ。いいから速く離れろ。でないと……俺がお前を殺す…かも……知れん」

少佐「さっきの攻撃。人間の反応速度で躱せる筈がない。……偶然か?」

那由他「顔色……大丈夫?」

ヒロマル「いいから速く行けっ‼俺にリセ……イガ……アル……ウチニ‼」


少佐「……偶然だ。私のボディは、左手は、完璧だ‼ 東洋の猿ごときがいかな修行を積もうが、敵しえる筈が」

【ヴヴヴ……】

少佐「ない‼」


【ゴウッガキン‼】


少佐「なっ⁉片手で……⁉」

【ぐぐっ】

少佐「あり得ない!」

【ぐわっ‼……ズズ……ン!】

少佐「ぐぅっ!……2千ポンド(900kg)の私を……片手で投げた……⁉」


【ムクムク……ミシミシミシ……!】


那由他「ヒロマル……顔……いいえ、体が……」

少佐「大きくなっているだと!信じられん!計測質量も急激に増加している!や……奴は一体……⁉」

ヒロマル「ナ……ユ……タ」

【ギラッ】

「走れ!……フ!リ!ム!カ!…ズ…、ニッッ‼」


ヒロマル『ウォォォォォォ……ォォォンンンン!!!!』




【護り屋ヒロマル】某国の暗号アルゴリズムを解析してしまった天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。圧倒的攻撃力を誇るサイボーグ、ダッチ少佐の猛攻にヒロマルは窮地に陥る。ダッチ少佐の必殺の一撃が炸裂した瞬間、だがしかし軽やかにそれを躱すヒロマル。その体は異様に変貌して行く……。


ヒロマル『ウォォォォォォ……ンンン!!!』


【シュボボ……】


那由他「扇子……燃え尽きた……」

少佐「信じられん……ライカンスロピー、か……!」

那由他「熊、いえ、狼……?」


眼鏡「虎ですよ」


那由他「あ、あなたは……?」

眼鏡「初めまして。那由他さんですね。ヒロさんの友人、運び屋・眼鏡です」

那由他「あなたが……」


眼鏡「間に合わなかった。ヒロさん、禁呪を……」

那由他「禁呪?」

眼鏡「捨身法・成山月虎」

那由他「シャシンホウ・ジョウサンゲツコ……?」

眼鏡「強烈な自己暗示と陰陽術式で自らを虎に変じる術です。反応速度や攻撃力は劇的に向上しますが……深く術に入り過ぎると自我を失い……」

那由他「まさか……」


眼鏡「二度と人間には戻れない」


那由他「そんな!」

眼鏡「前に一度だけ見たことがあります。ヒロさんが眠るか気絶するか……意識を無くせば元に戻りますが、ああなったヒロさんを気絶させるのは容易ではありません」

那由他「前はどうやって?」

眼鏡「ダンプで跳ねました」

那由他「……」

眼鏡「とか言ってる間に向こうの決着は付きそうですよ」

那由他「……えっ⁉」


少佐「ぜぇっ、ぜぇっ……馬鹿な!獣ごときを、追えん!捉え切れん‼」

【ザグッ‼ブチブチメキッ‼】

少佐「ぐがぁぁぁっっ‼……左腕を……!!!」

眼鏡「……食い千切った。まずい。術が深過ぎる。ヒロさん‼戻れ‼オーバーロードです‼このままじゃ……」

那由他「ヒロマル……」


ヒロマル『ガゥゥゥゥ……ッッッ‼』


【ザクッ‼】

少佐「ぎゃぁっ!」

【ズシュ‼】

少佐「ぐぅっ!」

【ガリッッ‼】

少佐「うっ……!」

【ガガガガガッッ‼】

少佐「……ッッ‼……ぐ、は……!」


【ズシャ】


眼鏡「酷い……まるで達磨だ」


ヒロマル『ガゥゥゥゥッッ‼』


眼鏡「逃げなさい!那由他さん。おそらく次は……僕らを狙って来る」

那由他「でも……!」

ヒロマル「速く‼」


ヒロマル『フゥー……フゥー……フゥー……ガウッ‼』

【ダダッ!】


眼鏡「来た!速い‼……下がって‼」

那由他「ヒロマル!やめて‼元の

あなたに戻って‼」

ヒロマル『ウォォォォォォン‼』


【タァァァンッッ‼‼】


ヒロマル「ギャウッ……」

【ドサッ】


眼鏡「銃声……‼ヒロさん!!!」

那由他「嘘……そんな……ヒロマル……」


那由他「いやぁぁぁぁぁっっ!!!」




【護り屋ヒロマル】天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。最強のサイボーグ工作員、ダッチ少佐に追い詰められたヒロマルは危険な禁呪・捨身法成山月虎を発動。自らを巨大な虎に変じダッチ少佐を破る。自我を失い那由他達すら襲おうとするヒロマル。その瞬間、一発の銃声が響き渡った……。


【タァァァンッッ‼】


ヒロマル『ギャウッ……』

【ドサッ】


那由他「そんな……嘘……ヒロマル……いやぁぁぁぁぁっっ!」

【ダッ】

眼鏡「那由他さん!」


???「ダメよ‼ まだ近寄っちゃ‼」


那由他「……誰⁉」

眼鏡「あ!アズサさん‼」

アズサ「ヒロマルは死んでない。見て」


ヒロマル『グルルル……』

【ノソ……バタッ】


アズサ「やっぱ一発じゃ足りないか。ちょっとうるさいよ」


【タァァァン!タァァァン!タァァァン!】


眼鏡「麻酔銃…」

アズサ「アフリカ象でも一分半、って触れ込みなんだけどね」


【ジャコッ!ガチャッ!】


アズサ「弾切れ。でもまだ起き上がろうとしてる」


ヒロマル『ウウウ……ガウウッ……』


那由他「……」

眼鏡「那由他さん、泣いてるん……ですか?」

那由他「分からないの。けど、あのヒロマルの姿を見ていたら……なんか、涙が……止まらない……」

眼鏡「那由他さん……」

アズサ「………全く世話の焼ける」


アズサ「那由他さん。手伝って貰っていい?」

那由他「私……?」

アズサ「そう。ヒロマルのあの姿はね、あいつの負の感情……後悔や怨嗟や破壊衝動の発露なの。主に自分への」

那由他「15年の事件……」

アズサ「話したのね、あいつ。……はい」

那由他「これは……ヒロマルの術用の扇子?でも私……呪文も術も」

アズサ「大丈夫。素人でも使える扇」


アズサ「あいつをこれであおぎながら、何か……歌を歌ってやって。できたら、あいつに対して優しい気持ちを向けながら。それで術は発動する」

那由他「歌?」

アズサ「なんでもいい。あなたの心に浮かんだ、あなたが歌い易い歌で」

那由他「それで、ヒロマルは……」

アズサ「戻る。ふてぶてしくてノリの軽い……いつものあいつに」


眼鏡「危険では?アズサさんが歌えば……」

【ムギュ!】

眼鏡「いだっ!足!アズサさん足‼」

アズサ「…私が音痴なの知ってるでしょ。それに大丈夫よ。……あのヒロマルを見て怖がるどころか、涙を流した……あの子なら」


那由他「ヒロマル……」


ヒロマル『グルル……』


那由他「聴こえる?ありがとう。こんなになってまで……私を護ってくれて。お陰で無事だよ?私。だから……だからもう、戻って!人間のヒロマルに、優しくて強い、いつもの……あなたに」

【ばっ】


那由他『ねーむれー♬ねーむれ♬ははのむねーにー…♬』


【そよそよ……】


アズサ「子守唄…」

眼鏡「シューベルト、ですね」


那由他『こころよき♬ うたごえに……』


アズサ「見て」

眼鏡「あ虎の動きが……」


ヒロマル『……』

【そよそよ】


那由他『むすばずや♬ たのしゆめ……♬』


【ぼう……キラキラキラ…】


眼鏡「光……虎の身体を、包んでゆく……」


那由他『ねむれ♬ねむれ……ははのてに……♬』


【そよそよ】


【キラキラキラ……ピカッ】


那由他「きゃ!」

眼鏡「ヒロさん!……戻ってる!やった‼ 」

アズサ「成功ね……可愛い上に天才で歌まで上手い。神サマぁ不公平だわ」


???「全くね」


眼鏡「誰だ‼」(何者だ⁉この老婆……気配が……ない……⁉)


大佐「大佐、と呼んで頂こうかしら?トリプルオーってコードネームは語呂が悪くて。うふふ」

眼鏡「サイボーグエージェントの、英国情報……」

大佐「しーっ!しっ、しっ、しー!その名前、やたらと呼ばないで欲しいの」

アズサ「某国情報機関の元締めってわけ?何しに来たの?おばあちゃん」


大佐「何しに?さあ……何かしらね。ただ一つ言えるのは、今この場にいるものの中で、一番強いのは私だってこと。これはハッタリでもなんでもないわ」

アズサ「どーだか」

ペン【ビクビクビク……】

眼鏡「……震えてるのか?……フラウロス」


「さあ、話を整理しましょうか……」(にこっ)




【護り屋ヒロマル】天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。捨身の変身術で辛くも敵を撃退したヒロマルは自我を失った虎になってしまう。相棒アズサの麻酔銃と那由他の子守唄で眠りにつき、どうにか人間に戻るヒロマル。しかしそこに、敵組織の幹部と思しき老婆、大佐が現れる……。


アズサ「話を整理する?」

大佐「そうよ。私たちの立場をはっきりさせるわ。那由他さんが発見した解読理論を応用すると、私たちの組織のエージェントの名簿が読み放題になってしまうの。それは避けなければならない。だから強引な手段を取った。私たちにしてみれば国家の盛衰に関わる……死活問題だった」


大佐「だからその原因を消すか、仲間に取り込むかが、あの少佐の仕事だったわけ。怖い思いをさせたことは謝るわ。本当にごめんなさい。でも、仕方がなかった。あなた方も逆の立場なら同じようにした筈」

アズサ「……」

大佐「けど少佐は任務中途で倒されてしまった」


大佐「私は少佐より強いし、少佐を倒したヒーローが力尽きて倒れている今、少佐の任務を私が引継いで実行する事は勿論できる。……非情で残酷なやり方でね」

眼鏡「……!」

アズサ「でもこうして話をしてるということは……その気はない、ということ?」

大佐「そう……私としては、まずは少佐を失いたくない」


大佐「あの人には、もの凄くお金がかかってるの。それに経験も能力もある。ここを穏便に済ませて回収して再起させたい」

眼鏡「あんな状態から……復活できるのか」

大佐「サイボーグってのは一張羅についたコーヒー染みよりしつこいのよ。ふふ」

アズサ「それだけ、じゃないよね?」

大佐「そうね……」


大佐「モニターしてて感じたんだけど、あなた方。私たちが当初想定していたよりずっと……賢いわ。そして、強い」

アズサ「……だから?」

大佐「面と向かって敵対するのは得策でない、と判断したの。妥協点を見出し、互いに協力する」

アズサ「……」

眼鏡「……アズサさん、うさんくせえ!って顔に出過ぎですよ」


大佐「気持ちは分かるわ。あなた達が選んで。残念ながら交渉が決裂したら、あなた達は最後の魔女と呼ばれる私の恐ろしさを瞼に焼き付けながら…天に召されることになる」

アズサ「結局脅迫?」

大佐「どうとでも」

眼鏡「アズサさん、あの大佐がもの凄く強いのは……まず本当です。残念ですが多分僕よりも」

アズサ「……」

眼鏡「でも僕とアズサさんが死兵となって当たるなら……那由他さんを逃がす時間位は、稼げるかもしれません」

アズサ「……面白くないストーリー」

眼鏡「そう思います」

那由他「待って、無茶はしないで」

アズサ「那由他さん……」

那由他「私に考えがあるの……ここは任せて貰えないかな。絶対に迷惑は掛けない」


アズサ「その考え、あなた一人が犠牲になるようなものじゃないでしょうね?」

那由他「うん」

アズサ「ヒロマルが後で聞いて……怒ったりしない?」

那由他「多分平気」

アズサ「分かった。ならいい。あなたを犠牲にして私たちだけ助かったりしたら、私はともかく眼鏡は死ぬことになると思うから」

眼鏡「ちょ、なんで僕だけ?」


那由他「ありがとう、アズサさん」

アズサ「任せたわ、天才少女」

那由他「その呼び方はやめて下さい。那由他、って呼んで」

アズサ「……何かあったら飛び出す準備はしとく。魔女に負けないで。那由他ちゃん」

那由他「……はい!」


那由他「大佐!……私たちからの提案を言います!ちょっと長いけど……まずは最後まで聴いて‼」




【護り屋ヒロマル】天才数学少女・那由他の護衛を請負ったヒロマル。数々の妨害を撃退し最後の手段、禁呪まで使い消耗し切ったヒロマルは意識を失い倒れる。そこに敵幹部、最後の魔女を名乗る老婆が現れ事態の収拾の交渉を申し出る。決死戦か交渉か。敵を訝るアズサ達を抑え那由他自ら交渉に臨むが……。




一週間後 都内病院




アズサ「よ。調子どう?」

ヒロマル「全治二ヶ月だぞ。いいわけあるか。婦長に飯に泥を出すなと言っとけ」

アズサ「はいこれ」

ヒロマル「なんだ?7千……2百円?なんの金だ?」

アズサ「今回のあんたの取り分」ヒロマル「……あのな。上がりは折半の約束だろ?どんだけガメる気だ」

アズサ「だから折半後のお値段よ」


ヒロマル「待て。前金3百、成功報酬6百の仕事だったろ?」

アズサ「そうよ」

ヒロマル「……話が分からん。それがなんで高校生の小遣いみたいなギャラになるんだ?」

アズサ「どっかのバカの尻拭いの必要経費。敵の兵器・エージェントの情報料、特別あつらえのスマホ代、運び屋眼鏡の依頼料、高級麻酔銃と弾の代金……」


ヒロマル「残ったのが7,200円か?」

アズサ「14,520円よ」

ヒロマル「……自分だけジュース飲んでんじゃねえ」



ヒロマル「日英共同の暗号技術開発?」

アズサ「そ。あのあとすぐカラオケボックスに移動して……」

ヒロマル「ん?どこに移動したって?」

アズサ「カラオケボックスよ。路地裏じゃ秘密会談には物騒でしょうが。ま、那由他ちゃんのアイデアだけど」

ヒロマル「……」


アズサ「学術成果として超高度な暗号解読技術を持ってるって知れ渡っちゃった以上、那由他ちゃんはどっちみち業界の連中から狙われ続ける。……であれば業界に飛び込んで、日英両方に護って貰おうってことね。日英両国は国家機密漏洩どころかより強固なセキュリティを敷けるし、国家間協調の証にもなる」


ヒロマル「ウィン・ウィン・ウィンの関係か。とんでもねぇ娘だな。咄嗟によく思いついたもんだ」

アズサ「量子コンピュータで検算し理論値と合致することを確認した上で、理論そのものを世間に公表……って当初の計画は延期。那由他ちゃんの新暗号に日英両国の機密データが置き換わるまでは」

ヒロマル「……そうか」


ヒロマル「で、あいつは?」

アズサ「今日立つそうよ。ロンドンへ」

ヒロマル「何か言ってたか?」

アズサ「そうね、特には……ただ……」


那由他「こんちはー!」


ヒロマル「那由他⁉」

アズサ「那由他ちゃん⁉」


アズサ「なんで……飛行機は?」

那由他「19時の便。ヒロマルの意識が戻ったって聞いたから、挨拶だけでもしようかと思って。……平気?体」

ヒロマル「どうってこたねえ。こんな仕事だ。もっと酷い目に会うことだってあらぁな」

那由他「そう……ありがとう、ヒロマル。私を護ってくれて。これ、お礼」


ヒロマル「なんだ?報酬は貰ってるんだ。いらん気遣いだぞ」

那由他「大したものじゃない。気持ちよ気持ち。後で開けて」

ヒロマル「ああ。サンキュな。……お前は平気か?お前の選んだ道は……世間一般の女子高生の青春とは……かけ離れたもんになるぜ?」

那由他「……分かってる。でもいいの。逆に私にしか…歩めない道だし」

ヒロマル「……そうだな。にしても機密暗号の技術者が一人でこんな場末の病院に来るなんて、危ねえぞ」

那由他「平気。もう専任の頼もしい護衛も付いてるの。……入って」


少佐「ごきげんよう」


ヒロマル「な⁉ダッチ‼……てめえ、よくも抜け抜けと……! 」

少佐「Ohマイフレンド!そう怒ってくれるなヒロマル。お互い様だろ?互いに任務の中の一つの場面として起きた出来事だ。大人として川に流せ」

ヒロマル「それを言うなら水に流せ、だろ」

少佐「出会いは残念だったが手打ちにしよう。ほら、こうしてオチュウゲンも持って来た。この度はゴシュウショウサマ」


ヒロマル「……那由他。こいつに日本語と風習を教えてやれ」

那由他「クスクス……分かった」


【わんわん!】


ヒロマル「おい病室に犬はまずいぞ」

那由他「犬じゃないの」

ヒロマル「 あ!こいつハチか?」

那由他「ピンポン♬ハチを直して私にくれる、ってのも交渉条件に組み込んじゃった。着ぐるみもよくできてるでしょ?」


那由他「じゃ私行くね。私の場合、普通の搭乗より手続きに時間がかかるらしいから」

ヒロマル「待て」


【さらさら……】


ヒロマル「この扇子を持って行け。餞別だ」

那由他「何これ。表に『冷風』裏に『温風』?」

ヒロマル「冷風を表にしてあおげば冷風が、温風を表にして温風が出る。大事にすれば五、六年は持つ」

那由他「あ……ありがとう」

ヒロマル「頑張れよ。短い間だったが、お前を護れて楽しかったぜ。帰国する時は声かけてくれ。それなりに金は取るが、そこの木偶の坊より確実に護ってやる」

少佐「よせよヒロマル。照れるじゃないか」

那由他「……分かった。ヒロマルも、元気で。アズサさんも、色々ありがとう」


アズサ「じゃあね」

那由他「じゃ……またね、ヒロマル」

ヒロマル「おう。計算間違うなよ、天才少女!」



アズサ「……行っちゃった」

ヒロマル「まあ、あいつなら大丈夫だろ。あ……そういやなんか言いかけてたな。あいつ、俺に何か言ってたのか?」

アズサ「ああ、別にあんたにってわけじゃなくて。私が聴かれたの。あんたとの関係を、ね」

ヒロマル「ふむ。……で?」

アズサ「兄妹だって言ったら、えらく安心してたみたい」

ヒロマル「……」


ヒロマル「……アホらしい。親子ほどの年の差だぞ」

アズサ「年の差があろうと修道女だろうと、好きになる時は好きになる」

ヒロマル「リンゼイか?」

アズサ「誰それ?私の言葉よ」

ヒロマル「……」


【ガサガサ……】


アズサ「あ、プレゼント。なんだったの?」

ヒロマル「……オルゴールだ」

アズサ「可愛い!あんたにオルゴールとはね」

ヒロマル「るせえ」


【カチャ】【♬〜♫〜♪〜】


アズサ「この曲……」


ヒロマル「シューベルトの……子守歌……」


【♬〜♫〜♪〜】


【♬〜♫〜♪〜】




【護り屋ヒロマル 〜数理少女のオルゴール〜】

【 完 】





翌日


アズサ「ヒロマル!これ見て!」

ヒロマル「なんだ?なんの騒ぎだ」

アズサ「いいから見る!」

【カチャカチャ、タン!】

ヒロマル「……これは?」

アズサ「カラオケボックスの監視カメラのデータ。お金積んでコピらせてもらって来たの。ここ」

ヒロマル「……?」

アズサ「交渉に居合わせたメンバーを視て」

ヒロマル「メンバー?」


ヒロマル「あ!魔女大佐が……いない⁉」

アズサ「そう。コップの置かれた空白の席に向かって、那由他ちゃんが一生懸命しゃべってる……」

ヒロマル「どういうことだ……?」

アズサ「分からない……こんなの初めて見るわ」


ヒロマル「奴は……一体……⁉ 」

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