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Sweet drop  作者: 麻弥
3/9

第三話

会話からスタートしますのでご注意。


 

                  

「明梨さあ、最近太っただろ」

「砌の鬼ー! 酷いっ」

きつい一言をぶつけられ、私は彼に訴える。

「事実だろ? 」

あっさりと彼に言われ、二の句が告げない。

底意地の悪い邪笑を浮かべている。

「乙女に向かって体重のこというなんて鬼以外の何物でもっ……ふぅっ」

唇が重なり、私はきつく抱きしめられた。

息が出来ない。

ああ、駄目だわ。またいつもの調子で流されてしまってる。

「良いダイエット方法、知ってるぜ」

唇を離した彼が私の腰を引き寄せる。

「その手には乗らないわよ! 」

びしっと言い放ち、逃れようと体を動かす。

これ以上流されてはいけない。

「あ、そう。そういう態度取るんなら、

強行手段取ってもいいんだな」

ニヤリ。

軽々と抱き上げられた。

さっき、重いとか言わなかったっけ?

「や……」

強引に車の助手席へと乗せられてしまう。

そのまま荒々しく車が走り出す。

「ど、どこに行くつもり!? 」

思いっきりうろたえる私に、彼はしれっとした表情で、言った。

「着いてからのお楽しみ」

語尾が弾んだ気がしたのは、私の気のせいではないだろう。


「何で」

思わず呟いてしまう。

車はとある看板の目の前で立ち止まった。

もっと早く気付かない辺り、私はボケなのだ。

「スポーツジム……」

脱力した。またいつものようにいかがわしい所へ

連れて来られるのかと……

って腐ってるって私の頭。

何で運動ってなると……ああ誤解しないで!

いつもそこへいっても適当にくつろいで帰るだけで

何も!何も無いんだからね。

私ってば誰に向かっていってるんだろう……最近どうもおかしい。


「なんでいってくれないのよ」

「変なこと考えてただろ? 」

「……ば、馬鹿! 」

顔が燃えるように熱い。

人目も気にせず、顔を押さえてしゃがみ込んだ。

「んじゃあとりあえず着替えて来い。その後はこのメニューに添って順にやれ」

明らかな命令調。

何だか無性に神経逆撫でされるんだけど。

「……指示通り動けって言うの」

嫌気がさしてきた。

主導権握らせてたまるものですか。

「お前の為思っていってるんだぜ。ああ、じゃあ場所変える?

もっと簡単に痩せられて、おまけに綺麗に

なれるダイエット法がいいんだろう? 」

邪笑。

「……メニューに従い頑張ります」

「いい心がけだ」

満足気に、どこか残念そうに彼は言った。

……はあ。

溜息をつきつつ更衣室へと向かう。

用意周到な彼に渡されたジャージを握り締めて。

多分、お揃いなんだろうな。ふ、と笑みが浮かんだ。


手早く着替えて戻ると、彼はやはり先に着替えを終えて待っていた。

予想通りお揃いの柄の色違いのジャージを着ている。

「遅い」

くっ……。

「これでも急いだの! 」

「まあいい。準備運動するぞ」

偉そうに言うだけ言って放り出さないから、好きなんだけどね。

あなたの体力には到底叶わないのよ。

「お前が嫌いだからこんなことさせてるんじゃないぞ。

そう苛められてるような顔するなよ。こっちだって

苛めてるわけじゃないんだからさ」

「……うん、分かってる」

「日頃の運動不足解消にもなるしな、無理せず

やっていこうな」

うっ。最後の最後で優しいんだからもう。

逆らえなくなってしまうよ。


喋っている内に準備運動は終った。

腹筋マシーンと走るやつ?

名前よくわかんないんだけど、まあいいか。

メニューにはそれらを繰り返すよう記されてた。

「頑張れよ」

楽しそうに手を振り、彼はグローブを手に、歩いていった。

サンドバック……というのが笑える。外見から想像できないのだ。

よし、がんばろうとぐ、と拳を握る。

決意の元、ウォーキングマシーンに乗った。

少しずつスピードを上げてゆく。

一時間経過。

5分休憩。

腹筋マシーンへ。

「ぜ……ぜえぜえ」

一時間経過

ふらつく足取りで15分休憩。

「……もう限界か? 」

くっ。思いっきり馬鹿にされた。

ふん。まだまだいけるわよ。

ウォーキングマシーンへ乗り、1時間経過。

5分休憩して腹筋マシーンで腹筋50回。

ばたっ。

自分が倒れる音を聞いた。

あああ……情けない。

とか心で呟いたのを最後に、

眼がぐるぐる回ってそれきり意識を失くした。


「……い! 」

え、なあに。何か遠くで声がする。

「おいって! 」

「うあああっ!!」

砌だぁ。

「私、どうなっちゃったんだっけ? 」

未だ、ふらふらする頭で考える。

「……倒れたんだろ。日頃、運動してないのに、急に無茶しまくるから」

ごめんなさい。

二の句が告げません。

「ついててくれたんだ」

「当たり前だろ」

泣いてしまいそうになった。

彼は最後の最後でとても優しいのだ。

「明梨、帰ろう」

「うん」

砌が私の腕を引く。

ああ。休憩室のベッドに寝かされてたんだ。

「メニューは負担にならないよう考えてたんだぞ。

それをお前は無茶して」

「私もやればできるということを見せたかったの」

真顔で言った。

「だからって無理して調子崩しても仕方ないじゃないか」

砌は、苦笑して頭を撫でてくれた。

「うん。今度からは砌に従う」

「よろしい」

がしがしと髪が掻き混ぜられる。

私は満面の笑みを浮かべて、

「砌のこと見直した」

「何ぃ……」

お前に言われたくはないぞ、その台詞は。

と顔に書いてあった。

「だってまた変な所に連れて行こうとするかと」

顔を真っ赤に染めて爆弾発言。

「お望みならいつだって連れて行ってやるけど?

いっとくが本気だからな。」

「……望んでない!! 」

私はさっき倒れたことも忘れて、走り出した。

「おい。無理すんなって」

砌が追い駆けてくる。

流石にすぐに息切れがしてきて、抱きとめられた。

長身の腕の中に私は難なく閉じ込められてしまう。

「明梨、着替えて来いよ」

「はーい」

そうだった。私はまだジャージ姿のままだったんだ。

「……軽はずみな気持ちで言ったんじゃないから」

ポツリと砌が呟いている。

「もっと色んなお前が知りたいんだ。

好きと言う気持ちが嘘じゃない証拠を見せたい」

真摯な声だった。

うん。私も砌となら嫌じゃないよ。

「いつかね」

今、言えるのはそれだけ。

さほど遠くない未来にそんな日が来ると思うから、

その日を待っていよう。

振り返ると砌は、微かに笑ったようだった。


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