7.
それはやっぱり突然やった。
『雅ちゃんっ!!』
「ぐふぅっっ!!」
赤い物体が目の前に現れたんは、すでにお腹の減りもピークを過ぎてカビ臭い布団に不貞寝してる時やった。
幼竜言うてもやな…けっこうええ重さあるわけで…
その全体重で空腹時のお腹へのボディアタックとか…死んでまうから
「れ…レイレイ?」
『雅ちゃん…しゅごく探したでしゅよぉぉぉ…』
おぃおぃと泣くレイレイにお腹の痛みを訴えるわけにもいかん。
せやけどお腹グリグリすんのは止めてもらわれへんやろうか…
あたしはレイレイの両脇に手を入れて、子犬のように目の前に抱えあげた。
…竜も泣くねんなぁ~
レイレイの目は普段の丸い瞳孔がさらにおっきなり、今にも涙が溢れそうなぐらい潤んどる
「ごめんな~何か心配かけてもて…」
『どうちてこんな結界が張られた場所にいたでしゅか?とちゅぜん雅ちゃんの気配が消えちゃって…ボク…ボク…』
その言葉を発するのと同時にぎゅっと閉じられた瞳からまさしくポロンと涙が落ちた
落ちた涙はあたしのズボンに吸い込まれるかと思たのに、足にあたった感覚は固体やった。
「……石?」
『うぅ…か、感情が高ぶった竜の涙は泪晶になるんでしゅ…』
泪晶を手に取ってみると、赤い煌きを自らに出す不思議な石やった
「綺麗や…」
『みっ雅ちゃ~ん!!!』
何が琴線に触れたんかわからんけど、さらに号泣するレイレイの目からどんどん泪晶が量産されていっとる
「わっ…わっ…」
カランカランと床に落ちてく泪晶を見て、慌ててレイレイを布団の上に置いてそれを拾う。
両手一杯になった泪晶にもうどうしてええかわからんしっ!!
「ちょっ!!もぅわかったから泣きやみぃて!!」
『…ぐすんっ。はぃでしゅ…』
まだぐずぐずはいっとるけど、とにかく泪晶が出るんは止まってよかった…
しかし…両手一杯この石を手にしたんはええねんけど…こんだけ竜を崇めとる世界なんやから絶対この石かて価値があるもんなんやろうなぁ思たら…想像しただけで顔蒼なるし…
「なぁ…やっぱこの泪晶って人にとっては価値のあるもんなんやろ?」
一個であたしの今の給料ぐらいかなぁ~。こんだけあったらデレデレバーガーどんだけ食べれるんやろぉなぁ…
『……一個で城が3つぐらい建つらしいでしゅ』
はいっ!速攻で返す
とりあえずレイレイの体から出たもんなんやし、口に入れたらなんとかなるやろ…
『みっ雅しゃっっなっ何っ』
「はい、お口あぁ~んしてっ!ゴクンせなあかんでっ」
『どっどうしてでしゅかっ!!みっ雅ちゃん!!』
「レイレイ良く聞きや?人はなぁ~身分相応の物しか持ったらあかんのやで?それ以上は毒にはなっても薬にはならんからな。せやから…はぃゴックンやで」
『………僕の泪晶は貰ってもらえないでしゅか』
あ…やばい…。
またレイレイの瞳が潤み始めた
「ちゃっちゃうで!!せっかくのレイレイがあたしの為に流してくれた涙やしな!!最初の一個は大事にするっ!!」
『……受け取ってくれるでしゅか?』
「もちろんっ!!あたしの宝物にするわっ!」
『……雅ちゃん…ボクうれしぃでしゅ』
「レイレイっ!!」
ぎゅっと抱きしめたったら小さな背中の羽根がパタパタ動いとる。
…可愛い、可愛すぎるで、この生き物。
これが昼にみたような巨体になるなんて考えられへんわ…
思わず頭のてっぺんにちゅっとキスをしてもたら、レイレイが慌てて飛びのいた
「?」
『○×△□~』
?…何言うとるかわからん?
『φωαπΩ~』
この世界にきた時の自動翻訳機能がきかへん言葉でレイレイが叫んどる。
しばらくそのパニック状態が続いて、ようやく自分の言葉が通じてへん事に気付いたんかレイレイがはっと我に返った
『…み、雅ちゃん』
「…ん?」
『…びっくりちまちた』
「うん…何やごめん」
かわええ子に対するちょっとしたスキンシップのつもりやってんけど…どうやら過剰すぎたらしい。
…反省
「もぅせぇへんように気をつけ…」
『違うでしゅっ!!ちょっとびっくりしただけでしゅ!!嬉しかったんでしゅ!!これからもしてくだしゃい!!』
そんな力説で「してください」とか言われてもやなぁ……どうしたらええんや?
「………」
『………』
「まぁ…ほんならまぁ気が向いたら…な?』
若干笑顔が引きつんのはしゃーないやん。だって何やあたしちっちゃい子に対しての軽い犯罪者みたいな感じありありで…自分で言っとって背筋寒なるもんっ
せやけどレイレイみたら背中パタパタさせて喜んどるし、まっえっか。
『雅ちゃん。早くここから出るでしゅ』
「あ…うん。でも勝手に出てええんかな?」
『…いいでしゅよ。全く雅ちゃんをこんなカビ臭い所に閉じ込めるなんて…ありえないでしゅ』
「…あのぉ」
立入禁止区域に勝手に入った事、言った方がええんやろうなぁ…
「あっあんなレイレイ!」
『じゃあ雅ちゃん行くでしゅ。僕に掴まってくだしゃい』
「いや、あのっ」
説明しよ思て伸ばした手を掴まれたと思たら、景色が一瞬で変わった
「…あ、れ?ここ」
どうみても…ここは3ヶ月間で見慣れた竜舎。
「っ!?」
突然現れたあたしに視線が集まんのはわかんねん
『雅ちゃん、大丈夫でしゅか?』
「………」
…確か竜舎って今、竜が全頭帰ってきとるんとちゃうかったっけ?
つまりこの視線は…どう考えても…
『レイジル?』
ドスドス聞こえる音に取り囲まれた…やばい冷汗が止まらんねんけど…
志方雅絶対絶命のピィ~ンチ!