6.
ぽちゃん…ぽちゃん…
天井から落ちてくる水を見ながら思わず出てくんのはため息だけや
「はぁ~牢獄ってすさまじぃなぁ…って訓練所戻らへんかったら、先輩のお小言もくらうんやろうなぁ…」
ポスッと凭れた先にはカビ臭いせんべい布団…うぅ、宿のお日様布団が懐かしいよぅ
「なぁんで辞めんのに探検なんてしてもうたんやろ…」
後悔先に立たずとは正しくこの事
横に動いてみてもカビ臭い布団に変わりない…
「きっとこの不運はあの青髮のせいや…ぐすん」
あいつに会ったせいであたしの『幸』全部奪われたんやわ…
やっぱ美形とかあかんな…やつらは平々凡々な人々の『幸』を根こそぎ強奪する人種や。
「はぁ…」
それにしてもまさかあの場所自体が立ち入り禁止区域やったやなんて…知らんやん。
*
あの青髮美形男から逃げ出したんはよかったんやけど、お尻の痛みも忘れて一心不乱に走っとったらぶつかったんは黒い塊やった
「っ!?」
驚いたんはお互い様で、あたしは更にぶつかって跳ね返されてひっくり返るっていうおまけまでついとった。
「×××××××~~っ!!」
今日はあたし本体以上にほんまにお尻にとって不幸な一日なんやろう
「…この先は…貴様何をしていたっ!!」
「え?」
なんや不穏な空気がバリバリ発せられる声に、その声の主を見てみたら黒い鎧に黒いマントを着た騎士やった。
「真っ黒やん…」
青白が竜騎士で…確か黒は近衛隊やったっけ?しかもマント羽織ってるって事は結構ええ身分の人の筈…
何でそんな人がこんなとこにおるんやろう?
「何をしていたと聞いている」
「えっと…あのぉ…」
単に城ん中を徘徊しとっただけで、理由っちゅう理由はないんやけど…
言葉を探しとったら、片腕を背後に取られてひねられた
「いっっ!痛いっ!!」
必死にもう一方の手で相手の手をどついてんねんけど、全くきいてへん。
くそぅマッチョレベル5の強敵やんけっ!!
「答えろ」
「っっ!!」
さっきまで考えとった返答なんて痛みでどっか飛んでったわっ!!
っちゅうか!ほんま痛いねんっ!!
「答えられんのか…まさかこのような場所までこのようなハンパ物の間者が簡単に入り込むとは」
は?かんじゃ!?
何言うてんの?この人…ってか『かんじゃ』って患者やないよね?何なんそれ?
「ちゃっ!!ちゃいますよ!!僕、竜騎士です!!竜騎士!!」
…この際、ちょっと見習いは省かせてもらう
「騎士が正装もせず、竜神の間に近寄るわけがないだろう。それ以前にここは竜神の結界に守られし場所だ。貴様どうやってこの先へ進んだ」
「……え?」
竜神の間?結界?
「しかもこのような身なりと柔な身体で竜騎士とは…笑止。間者であれば嘘ももっと上手につくべきだな」
「………」
せやっ!!身分証明っ!!
見習いといえど結界が張られた城に入るのにもらった「竜騎士の証」があったやんっ!!
あたしは掴まれた腕の痛みを堪えながら、必死に竜を模ったペンダントを探してんけど、訓練所でポケットに入れたはずの物が見あたらへん
「どうやら証明出来ぬようだな」
「…せやったら、訓練所の竜騎士に聞いたって下さい」
ほんまはこの場で自分で解決したかったんやけどなぁ…けど背に腹は変えられへん。
医務室に行くはずが、立ち入り禁止区域に行っとったなんてばれたら確実に説教コースやな…今日宿に帰れるんやろうか?
それ以前にこの人から解放されるんやろか?
「グディボイズ様っ!!」
突然、割って入ってきた声が廊下に響いた。
なんや?知らん名前叫んでんねんから助けなわけないわな…
黒男の背後から聞こえてきた鎧のガシャガシャいう音で、走ってきたんも騎士やっていうのはわかる。しかも黒男を様付けで呼んどるから近衛なんやろうなぁ…
「どうした?」
「それが…」
後を振り向いた黒男は走ってきた男から耳打ちされとる。黒男がこっちに聞こえへんように身体を離して聞いとるのはわかんねんけど、興味あらへんから身体反らすんやめてくれへん?微妙に腕の捻りが強まってんねん。
それより肘から下が痺れてきて大変や、逃げへんから腕の拘束外してくれへんかな。
「何だとっ!!」
話を聞いた黒男が驚愕な顔しとるのを見えた
「ぷっ」
鼻で笑ったったら掴まれた腕にさらに力を入れられた
「ギブッギブッ!!」
タップのつもりで掴まれた腕を叩いてみたけど、案の定力が緩まることはあらへんかった
「どういたしましょうか?」
ようやく姿が見えた黒男子分は、あたしの事なんて目に入ってへんらしく若干蒼い顔して上司の黒男の返事を待っとる。うん、やっぱ子分も黒い鎧着とるわ。
「私もすぐ行く。こいつは竜神の間に入った間者だ。今までは単なる間者と思ったが、このタイミングだ、背後に何があるかわからん…後で尋問にかけるまで空いた部屋にでも放り込んでおけ」
「御意」
黒男の拘束より子分の拘束の方が全然ましやった。うん、マッチョレベル5が3になったらからやな。
黒男はあたしを子分に引き渡したら大きな身体に似合わず子分がガチャガチャ言わせてた音もたてんと、走りさった。
よっぽど急いでたんやろうな…あたしの渡し方めっちゃ適当やったもん
「さっさと歩けっ!」
子分め…黒男が居なくなった途端にめっちゃ態度えらそなってるやん…。こういう奴って上司だけに媚びうってそうで虫酸走んねんけど…
「ててっ…めっちゃ手痛いし、あのおっさんどんだけ力強いねん」
「貴様…間者如きがグディ様に対して何たる物言い…」
チャキって音が聞こえたと思たら、子分が腰の帯剣に手をかけとる
「………」
「へぇ〜グディ様いうんかいなあの人。せやかてあのおっさん名前名乗らへんかってんから、しゃーないやん」
あ〜これってもしかして死亡フラグとか?…口は災いの元やね。
首元にあてられた金属にビビってまうわ
「二度と貴様の口からグディ様の名前を発するな」
「りょうか〜い」
まだ死にと無いし…。
そっからはお互いひとっことも喋らんと歩いとってんけど、暫くすると城に不慣れなあたしかて行き先がわかる
「部屋連れていけって言われとったやん」
どう考えてもこんなに階段を降りて部屋なんかあるわけあらへん
「貴様に部屋など贅沢…牢で充分だ」
「殺されないだけ感謝しろ」と言われて放り込まれたんは、「THE監獄」やった
そして話は冒頭に戻るんやけど…
*
「めぇっさ、お腹空いたでぇ…」
はっきり言って身体燃費の悪いあたしのお腹は、昼食抜きしかも訓練して、探検してもぅ限界やった。適当に探検切り上げて御飯行っとけばこんな事にならんですんだのに…
キュルキュル鳴くお腹に向かって
「もうちょい頑張ってやぁ〜」
なんて気休めの声をかけても、結局あたしの身体の中、脳みそ一個やねんから「気休めやで〜」とすぐに脳が信号を発してしまい、それに対してさらにギュルギュルとお腹が不満を訴えるっちゅう悪循環に陥っとった。
「もぅえぇんとちゃうん?」
どんぐらいの時間ここに入れられてるんか正確にはわからへんけど、気温が下がってきとるし結構長い間放り込まれとると思う。
「…忘れられとるんかなぁ?」
いろんな人に…うぅ、泣きたなってきた。
あたしが空腹で泣いてた同じ時、現在のあたしの位置の真上、と言っても遥か上の方になるんやけど、そこの謁見の間であたしを牢に叩き込んだ子分が真っ青な顔で居た事なんて全然知らんかった