30.
…独自の方法。それは先人達の知恵の恩恵を全く受けられんと、全部自分で頑張れって事でええんやろか?
「……それって一から頑張れって事やんな?」
「?…そうですね、基礎魔法の知識はあった方がいいと思われますが…例えば、その書道という陣に関してはこの世界では全く未知の物ですから…」
いやいや…なんや書道が必殺技みたいになってもてんねんけど…。
「こっちの世界の文字書いたらどうなんのか試してみたいけど…」
せやけどあたしはこの世界の文字が書かれへん。
…3ヶ月の間にこっちの文字に触れる機会ももちろんあって、一番最初は宿の記帳やってんけど、そこで初めてこっちの世界の文字は読めんねんけど書かれへん事に気付いたんや。なんやどれも同じ記号みたいに見えてんのに、その記号に視点を向けたら頭に翻訳された言葉が浮かんでくるっちゅう不思議体験やった。識字率が低いんか、文字書かれへんくても宿の人が代筆してくれたから特に問題なかった。
「…ちなみに、こっちの世界ってさ……文字書いただけで何かさっきの魔法みたいになったりするん?」
「文字ですか?…特に書く分には何も起こりません。こちらの世界では魔法陣を形成させなければ先程の雅様のような現象が起こる事はありません」
ちゅう事はやっぱ元世界の文字が特殊っちゅうわけやな…。まぁ漢字なんて文字一つで色んな意味を持ってる貴重な言葉やからなぁ…あれ?
「え?でも、さっき宿で“鈴木さん”魔法つことったよね?魔法陣なんて書いてへんかったけど?」
「あぁ…、あれはこれです」
そういうと“鈴木さん”が長袖を肘ぐらいまで捲りあげた。そこには手首から肘辺りまで入れ墨に似た細かい模様がびっしりと描かれてた。
「…それ、…魔法陣?」
「はい。これによって詠唱などをせず魔法を発する事が出来ます」
「痛そうやねんけど…」
「?」
“鈴木さん”にはあたしの感想が不思議に思えたみたいで、元の世界の入れ墨の説明を簡単にしたったら「針にインク付けて刺すって言った所で顔が青くなった。
「…これはそれとは全く別物と考えて下さい。元は自分の魔力で書いた物ですから…こうして魔力を流さなければ…消えます」
さっきまであった入れ墨擬きが「消えます」と言った“鈴木さん”の言葉通り、あっという間に消え去った
「ほわぁ!!めっさ不思議!!」
なんやマジック見てるみたいや……
普段から浮き出てるんとちゃうかったら、あたしは書を体中に書いたらええんとちゃう……なんて考えて使用時のリアル「耳なし芳一」がすぐ頭に浮かんできたから、この案はすぐ却下した。
「緊急時に対応する為、片腕4つの攻撃魔法陣を携帯してます。ですが、結界などの破壊された時に媒体に反動がくるものはこの方法では対応出来ないので魔石の入った指輪やアクセサリーを媒体にしてますね」
なるほど…それで“鈴木さん”手にさっきまでなかった結構な数の指輪がついてるんやな…一瞬ジャラ男かと思たわ
「無詠唱とかってあらへんの?」
「無詠唱ですか……それを実行してしまうと、脳が焼き切れると思いますが」
……の、脳が焼き切れるってなんなん?
「魔法とは、体内や自然にある魔力を一カ所に集め、その魔力の属性・法則に基づいて、媒体で変換したものを指します」
おぉう授業が始まってもたで…
「詠唱という媒体をとる場合は必ず魔力を溜める補助具として魔石で出来た杖や魔石をはめこんだアイテムなどを使用します。変換作業の魔力を溜める部分と設計図部分の二つにわけた物が詠唱です」
「なるほど、じゃあ媒体がないと詠唱魔法は出来ない…?」
「一概にそうは言えませんが、ほぼほぼそうです。魔力の操作に自信のある者はこうやって…」
“鈴木さん”が右手を翳して魔力の塊を作る。そして何かを静かに呟いたらその魔力の塊がちっちゃい火柱になった
「おぉ!!無詠唱!?」
「いいえ、これは詠唱魔法です。但し補助具なしのパターンですね」
「ほわ〜!!!」
「片手で魔力を安定させつつ、設計図である詠唱を唱えられれば実行出来ます」
うん……2個の事が同時に出来る人がやるやつやね……。“鈴木さん”出来る子っぽいもんね〜。
「まぁこのような実行に疲れるものより、元からある設計図に魔力を集め留める魔法陣という媒体が一番安定しますし、楽です」
「せんせ〜!!質問でっす!!」
「せっ先生!?」
…うん?いやいやどうみても先生っぽかったやん。
今まで冷静に語っとった“鈴木さん”が突然顔を真っ赤にして慌てだしてもた。
“鈴木さん”中身は以外と乙女であったらしい…