3.
「ぐふっ…どうも…」
目の前で侍女さんに入れてもろたお茶はすでに10杯目…ええかげんお腹がちゃぷんちゃぷんを通り越してせりあがってきそうや…。
そんなあたしに比べて相手はしゃべくりまくってる間に乾燥してきた口を湿らす程度やから、まだ中身の残るお茶を何度も入れなおしてもらってる状態
竜騎士とは何たるものか…朝からそれを語られ続けて早5時間。
既に昼食の時間も過ぎたけど、目の前ののおっちゃんの話はまだ終わりそうにない。
「君は竜騎士が何たるかわかっているのか…」
「はぁ…」
おぃおぃまた話戻ったで……心の底から思う、辞表出す相手は選ばなあかん。
三ヶ月働いてて一応自分が竜騎士団に所属してるっちゅうのは理解しとってんけど、実はあの突然な王宮初日以外で竜騎士団の上司に会ったんは坊ちゃん先輩とアトムさんだけやってん。
つまり、辞表なんかの書類の提出を誰にすればええんか全く理解してへんかったし、もう必要あらへんから聞きもせぇへんかった。せやからいつもの通り出勤して適当にその場におった偉いっぽいどっかの騎士団の制服着た人に辞表渡して「1ヶ月後に辞めます」言うてんけど…そしたら即別室に連行されて今に至る。
初めの30分は今日は鍛錬の日やったからサボれてラッキーとか思っとてんけど、明らかにこっちのが苦行やった。
ほんま後悔先に立たずやな..
「だいたい君のような庶民が竜騎士になれただけでも有難く思わなくてはならないのに自分から辞めるなど、不敬罪の対象だぞ!!」
あーさっきからこのおっさんの選民意識を長々と語られてほんまウザい。やれ庶民がとか、不敬罪だとか、竜にも乗れんおっさんがなんぼのもんじゃー!って何度叫びそうになったか...あ、竜に乗れるかどうかっちゅう基準はただ昨日あんな竜に乗れる人はすごいなぁって思ったからやねんけどな。
それにしても5時間このおっさんとおるけど未だに名前知らんし、目上かなんか知らんけど全然名のりよらへんねん。上司とか以前に人間的にこういう人ってどうかと思うわけさ。
「だから私はお前を竜騎士団に入れる事なぞ反対したんだ、全くそれを…陛下も陛下だ。こんな身元もわからないような人間を神聖な竜様に触れさせるなど…」
いや…別に竜には触れてへんし、単に小屋掃除して身体を無意味に鍛えとっただけですけど?
しかしまずったなぁ…思いっきりこの人敵やん…。確かにあたしの身元なんてこの世界で証明出来るわけあらへんしなぁ…
「……ほな素直に辞めさせてくれたらええのに」
「っ!?お前は私の話の何を聞いていたんだっ!!」
思いっきり振り上げられた手が自分に向かうのをみて、選民思考の挙げ句の果てにはパワハラ親父かよ…と溜息をついた。
それと同時にこれで殴られたらそれを理由に辞めたんねんて考えて、一発は我慢しようと思て歯をぎゅっと噛み締めてんけど、あたしに拳が届く事は無かった
「…あ………何でおるん?」
目の前に浮かぶ赤い竜の背中しか見えへんかったけど、他にちっこぃ竜がいるわけがないんでレイレイに間違いないと思う。
「……レイレイ?」
声かけたらくるんと回転してあたしの頭に抱きついてきたし
『雅ちゃん!!雅ちゃんっ!!』
「もがっ!!ふがふがっ!!ふふがっふがっっ!!」
ハンパない力で顔面を抑えられた思たら、以外に柔らかいお腹に鼻と口が圧迫されて窒息しそうや…あぁ…視界が白くなってきてる気がすんねんけど…
『雅ちゃんっ!!こいつ殺す?』
聞こえた物騒な言葉で一気に視界がクリアになった。
とりあえずレイレイの首根っこを掴んで顔から剥がして、視線を合わせた。レイレイは興奮しとるんか普段は丸い瞳孔が細く縦長になっとる…猫みたいやな…
「殺すとか物騒な事はあかん。とりあえず落ち着こうな」
胸に抱きしめて頭を撫でたったら落ち着いてきたんか瞳が丸く戻ってきた。うん、目の前でスプラッタとか勘弁して欲しいしな…
「なっ…なっ…何故幼竜が…」
さっきまでの勢いはどうしたんか、おっさんがソファにガタガタ震えて座っとった。そういえばあたしが初日以外にもレイレイと会っとった事なんて誰も知らんし…こんなピンチに駆けつけてくれる間柄になっとるなんて思わんわなぁ。
ま、今はビビるおっさんなんかどうでもええわ。
「レイレイありがとなぁ…せやけど何でここがわかったん?」
『雅ちゃん、すぐわかりゅでしゅ』
「へぇ賢いなぁ…ほんま賢いぞぉ〜!!」
グリグリと強めに頭を撫でてやるとグルルとご機嫌な音を返してくれる。
「き…貴様…幼竜の言葉が…理解出来るのか…」
「?…そんなん当たり前とちゃいますの」
ビビるおっさんの顔が青を通り越して土気色になっとる。
「…なぁレイレイ。竜の言葉を理解出来んのって変なんか?」
『?ヘンじゃないでしゅよ?』
せやんなぁ…
「幼竜様はなっ何と言っておられるのだっ!!」
もぅおっさんうっさいなぁ、レイレイの言葉が聞こえへんなんて年取りすぎて耳遠なっとるだけちゃうの…
「…自分で聞きぃや」
『無理でしゅ。あいつにボクの声は聞こえないでしゅよ』
「…はぃ?」
え…だってへんじゃないって言ったやん。
『だって雅ちゃんは姫でしゅから』
「……ん?」
姫?なんじゃそりゃ。柄でも無い事言われると背中がむずむずするわっ!!まぁ…レイレイの姫やったらなってもええけど…でもまず見た目男やし、そこからどうにかせなあかんやろ。
それにしても…竜の言葉って万人にわかるわけとちゃうんか…あぶなっ!普通に他の人の前でレイレイと喋っとったら一人で何言うてんねんあの子…って後ろ指さされるとこやったわ。それでなくても男に間違われたり色々誤解を生んどるのに、さらに危ない子のレッテルは避けたいところや
「ほな…他の人間がおる前で喋ったらあかんな。レイレイも注意やで、他の竜にもあたしが喋れるん言うたらいかんでっ!!」
『えぇ〜っ!!どぅちてでしゅかぁ』
「どうしてもなんや…レイレイとあたしだけの秘密やでっ!」
普通の人が喋られへんくて、あたしだけが竜と会話が出来るなんてばれようもんなら、それでなくても一般人での竜騎士って白い目で見られてんのに、これ以上のやっかみはほんま勘弁して欲しい。それにレイレイと喋れたるだけでええんやしっ!
『ボクと…雅ちゃんだけの…ひみつ?』
「せやっ二人だけの秘密やっ!」
『うんっ!わかったでしゅ』
「早く幼竜様が何と言ってるか訳さんかっ!!」
あ〜二人の秘密言うたけど…おっさんおったな…。口止めして黙るような人物ちゃうし、どうしたもんかいな…。
「さっさとしろっ!!」
痺れを切らしたおっさんが叫んだ前でレイレイが尻尾を振った。そしたら急に支えが無くなった様にがくんとソファに崩れ落ちるおっさん
「?」
『うるさぃでしゅ』
多分生きとるとは思うんやけど…
「…ちなみに聞くけど今何したん?」
『ちょっと記憶を消したでしゅ』
「そんなんも出来んのっ!?」
尻尾を振っただけに見えたその技は以外と凄かったらしい。
「竜って何でもありなんやな…」
『竜は理でしゅから』
「ふぅん」
理ってレイレイはちぃさいのに難しい言葉を知ってんねんなぁ…まぁよぅわからんけど長い話からも解放されたし…えっか!
それと同時に爆音と地響きが城内に響きわたった。
「なっ!何や!?テロかなんかかっ!?」
浮かんでたレイレイをぎゅっと抱きしめてから、とりあえずでっかい机の下を目指した。おっさんは動かれへんのかソファで座ったままや。あの様子やと意識もあらへんのかもしれん…けど助ける余裕ないごめんっ!!。
『…雅ちゃんどぅちたの?』
「何かわからへんけど、危険かもしれへんから避難しとこな」
『きけん?どぅちて?』
う〜ん、恐れる物のない竜に対して自分でも何が起こったんかわからんのにどうやって現状を説明すればええんやろか…
「なんかすっごい音聞こえたやろ?もしかしたら城の中に悪い奴が入り込んだんかもしれへんからな」
外の様子はわからへんけど、大騒動になってる音だけは聞こえる。せやけどこのままここにおってもしゃ〜ないしな…ここ一階やし、窓から脱走する方が安全かもしれん。
騎士のくせに逃げんのかって?そりゃ逃げるやろ…だってあたしこの国に来て三ヶ月やし愛国心なんてあるわけないやん。まぁこれが城下町やったらけっこうギリギリまでは頑張ったかもしれへんけど…。
今のあたしはこの幼竜を守る事が最優先やし…
「ってよう考えたらレイレイ守らんでも消えれるやんっ!ここは危ないからおかんのとこに戻りぃっ!」
さすがに動揺してんのかレイレイがようわからん技で消えれんの忘れとった。
『…どぅちて?雅ちゃんの側にいりゅ…』
ぐはっ!やっぱりレイレイの潤んだ目は最強やで…
「あぁ〜もぅ可愛ええなぁ…」
これは腹をくくってとにかく一緒に逃げよ。消える技は最後でえぇわ…あたしは後頭部にレイレイを固定してから窓に向けて駆け出した
「善は急げやでっ!」
『雅ちゃんといっしょぉ〜』
「せやっ!一緒やなっ!」
思いっきり開け放ったった窓から外に飛び出してびっくりした…
「ぎゃぁ!!」
『レイジルッ!!』
目の前におったんはレイレイとはサイズが比べ物にならん青い竜。どう見てもあたしの三倍はある身長、さらにその倍以上ありそうな羽根。こんなんビビるな言う方がおかしい。そんなあたしが一歩も動けん状態でおったら頭に乗っとったレイレイがフワフワと青い竜の前に向かった
『グラン兄しゃま』
『探したよ、レイジル』
どうやらこの竜の名前はグランて言うらしい…。
『…人間?』
あかん…返事したらあかんで…。あたしに竜の声は聞こえない、聞こえない。
『レイジル、見かけない顔だが、この人間はどうした?』
『新しい竜騎士さんでしゅよ』
見習いって言葉をめっちゃつけたい…。ってすぐ辞めるんですけどねって言いたいっ!
『レイジルが懐くなんて驚きだけど……でもレイジル、お前はまだ幼竜なんだから母様の側を離れてはいけないだろう?僕らが帰ってきたのだってお前がミレッサの側を度々離れるからなんだからね』
『…ごめんなしゃい』
あぁ…レイレイのせいちゃうんや〜!この世界に来たばっかでさみしぃあたしを思ってちょくちょく遊びに来てくれただけなんやぁ〜ってめっちゃ言いたいっ!!
『…じゃあ、戻ろう』
『はぃでしゅ…雅ちゃん…』
レイレイは名残惜しそうにしながらも約束を守ってくれたんか、グランっちゅう竜の背に乗って飛んでいった。
竜との対面、時間にして3分。
下手に喋ったら…ボロが出そうやったからひたすら無言を通したったけど…それにしても本物の竜ってかっこええけど…恐ろしい…。
人間をとりあえずスルーしてくれる竜でほんまよかったわ
色んな意味で竜の側はやばい…やっぱ早く退職願を受理してもらわな。
あたしは固く決心して出てきた窓から中に戻り、今度は竜騎士団の制服を着た人の良さそうな上司を探すのであった。
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