25.
…そこは本が支配している世界やった。壁一面に備えられた本棚にはどんな法則かはわからんけど規則正しく本が並んでて、圧倒されそう…ってか、されとる。
で…記憶では床で寝てたような気がすんねんけど、このフワフワ感は床ではありえへん。……おぉう、視線の端に豪華な背もたれが見えとるし…
「雅様、お目覚めになりましたか?」
「“鈴木さん”…」
「顔色はだいぶ戻られたようですが、気分はどうですか?」
うん…さっきまでの酩酊状態からしたらフルマラソン走れそうな程元気や……走らんけど。
「大丈夫や……あたしどのくらい寝とった?」
「七時間ほどですね」
…小一時間ぐらいやと思っとったから、けっこう熟睡してもててびっくりや。うん、きっとこのソファが悪いんやと思う。なんなんこの感触……適度に沈み込む座面といい、ソファのくせにベッド並にデカイとか……びっくりの寝心地やで…これ。
それにしても七時間て……一眠りの域を遥かに越えてもてるやん
「…えっと、“鈴木さん”…ずっと居てくれはったん?」
「はい、いつお目覚めになるかわかりませんでしたので…」
申し訳なさすぎんねんけど………土下座したい気分や。せやけど“鈴木さん”の顔はまったく気分を害した感じでも無く、ニコニコとこっちを見てくれてる。
「……待たせて、すんません」
「いえ、ここでは暇つぶしに事欠きませんので」
言われて思い出したんはこの部屋の本の数で、確かに本好きやったら何時間居っても飽きひん部屋やとは思うねんけど…
「…ここって、あの結界の部屋?」
「はい、白龍様の書室です」
「白龍の…」
ここには居ない…けどさっき会うた存在の白龍。いきなり親とかって言われて…激しく混乱しておかしない筈やのに……何で忘れてもてたんか、そっちのが驚きなぐらいあたしの記憶にはアリシアっちゅう母親が立派に存在しとって……なんやもぅ「あ〜あたしの親ってこっちの世界の人やったんやなぁ〜」ぐらいの感じでしかない。ちなみに白龍に会うまでの偽と言われた記憶はどうやっても思い出されへん。
「そういえば、白龍様にお会いになられたのですよね?雅様に何か仰られてましたか?」
「なんや言うてたって?………あっそうそう!」
一瞬何も思い出されへんくて白龍に会うたん夢か思たわ…。
「そういえば、あたしの名前の外殻がどうとかって……」
あと何かよぅわからん宣誓みたいなんがあって…
「封印が一部解かれた…らしい?」
「そうですか。やはり雅様は白龍様のお子でいらっしゃいましたね。名の封印が解かれた事で気配が白龍様と同じ物になっておりますから…」
思いっきり顰め面をしてしまったんは…しゃあないと思うねん。
白龍の父親としての記憶はまだない。あるのは、日毎家を訪ねる女の人が違うチャラ男ってだけで……そんな人を父親やって思うのは、暴力ばっか振るう駄目親父を父親と認めないのと同じぐらいハードルが高くて…
「……父親かぁ」
もしかしておかんを裏切ってたかもしれへん人?を自分の父親とは認めたくはあらへんねんけど……
「おかんと付けた名前………思い出せ言うてたな」
「アリシア様と付けた名前……真名でしょうね」
「まな?あっ…そう言えば、それを扱う力があたしにはまだ無いって…」
変に期待してもた覚醒イベントからの普通に修行しろよ発言やったな……天然チートなんて旨い話は無いっちゅうやっちゃな。
それを言われた時の事を思い出して、若干遠い目をしてもたよ。
「あと、魔法の修行?それは“鈴木さん”に聞けって言われたわ」
「魔法の修行ですか…」
「次会う時には神域魔法ぐらい使えって言われたわ…」
「っ!?」
やっぱ嫌な予感しとってんなぁ〜。あんな青い稲妻出す人が驚くぐらいの魔法て……
「が、……頑張りましょう」
そんなん努力でどうにかならへんて……“鈴木さん”めっちゃ青い顔してるやん。
どうにもならへん事でも……どうにかせなあかんねんなぁ。
この世界に骨を埋める気で我武者羅にやるしかないねん
……だってもう元の世界に帰られへんのやから
うぅ、やっぱ……辛いなぁ。両親がこの世界の人やったって言うのがわかって、実はあたし、出戻り異世界やったんやん。
……出戻り言うてもあたしの生活基盤は28年元の世界やったんやし……またこの世界で一からやり直さなあかんなんて……かなり気力の回復が必要やわ…。
鼻の奥がツンとして、あたしの目から涙が一個流れ落ちた。
コロン……コロン
「……え?」
「雅様……見事な泪晶です」
ぎゃーーーー!!!人でも無くなってもたーーーーー!!!
竜姫×白龍……もちろん竜(笑)