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竜姫  作者: 月下部 桜馬
幕間 鈴木さん見聞録
25/33

1.(“鈴木さん”視点)

 安心したのか静かに寝息を立て出した彼女を抱き上げると、側にあったソファまで連れていく。寝室に連れて行く事も考えたのだが、彼女の気配がこの部屋に入る前と後でがらりと変わった事を考えるとこの白龍様の部屋に居るのが良い様に思われた。

 もともと大柄な白龍が使う家具なので全てサイズが大きかったのが良かったのか、ソファに雅様を寝かせても窮屈な感じは無く、ゆったりとした姿勢で丸まっている。そんな愛玩動物のような姿にふと笑みが零れ、必要以上に頭に触れてしまうのは仕方ないだろう



 私の主人あるじの白龍は変わった竜だった。


 先代の竜姫様が姿を消される1年程前にある事情から私は彼の下僕となった。本来奴隷と同じ様に扱われる筈の下僕だったが、白龍様は私に何かを命令するような事は一度も無く、いつもこの館に住む者達を分け隔てる事なく平等に、皆で楽しい時をすごしていた。


 そんな誰にでも平等な白龍様が特別に大事にされているのが彼の番いである先代竜姫アリシア様だった。本来、嫉妬すべき他の雄竜への接触も彼女の竜姫という立場故受け入れ、それごと包み込んでしまわれる器の大きな竜だった。


 アリシア様が突然消えた事により地上が混沌としたものになろうとも、この宮は平和だった。竜の本能として番いが居なくなるなど狂ってしまっておかしくないはずの状況なのに…白龍様は普段と変わらない姿だった。一瞬白龍様がアリシア様を隠してしまわれたのでは…なんて心配もしたが杞憂だった。


 そしてその日は突然やってきた。


 「俺は今から眠りにつく、いつ目覚めるかはわからん」

 「私もお供で眠りについても…」

 「駄目だ。*****、今からお前に言う言葉は『絶対宣言』だ」


 『絶対宣言』…下僕契約を結ぶ者を縛る最上級の言霊。これをされると自分自身ではどうする事も出来ない。


 「何年先になるかわからんが……この世界に俺とアリシアの子供が戻って来た時、守ってやってほしいんだ」

 「あ、アリシア様の居場所が!?」

 「あぁ…すげぇ遠くまで飛ばされててな。やっと座標特定出来た。俺は今からアリシアの元へ行く」


 この時、白龍様が「迎えにいく」という言葉を使われなかったのに気付いたのは、白龍様が眠りについてだいぶ経ってからの事だった。


 「頼んだぞ*****」

 「わかりました…この命に変えても……」


 そうして私の長い孤独な時間が始まった……


 白龍様が眠りにつかれると、徐徐に眷属・下僕達もそれぞれ自分の場所で眠りにつきはじめた。それを見送る度に「なぜ自分だけが…」という思いに苛まれ、白龍様と一緒に眠りにつける者達への嫉妬が高まる…。




 百年程経った頃、気がついたらこの広い宮で一人きりになっていた。


 …何かをしなければならないわけじゃなく、ただただ白龍様の言葉を待つ日々。地上の様子をみて争いが起きていても何の関心もわかなかった。ただ、その治世に竜が関わるようになった事で、動向だけを把握するようになった。


 「綺麗な宮だったんだがな…」


 あんなに賑やかだった宮が今はひっそり静まりかえっている。復元魔法によってなんら状態は変わっていない筈なのに醸し出す雰囲気は…廃墟のようだった。


 「まるで…ゴーストか」




 自虐な言葉にも誰の返答もない。優しい月明かりが部屋に差し込むだけだった。


 ***


 レイジルから連絡があったのはすでに千年の時が過ぎ去った頃だった。


 私の精神は極限まで蝕まれており、少しの活動も億劫で、情報経路の全てを遮断し自室の揺り椅子で1年程動かずにいる時だった。


 「ボクは赤の語部のレイジルアーレイシスフィア・グフルス・バークライデルシュでしゅ。雅しゃんが大変なのでしゅ!白龍様の*****!!助けてくだしゃい!!」

 「……みや……び……さ……ま」


 遮断していた筈の脳内に特殊な通信で聞こえてきた声に思考が追いつかない。しばらく使っていなかった声帯も上手く音を発せられず、片言のようにしか返答できなかった。

 …雅様の名など知らなかった筈なのに、その名に込められた力を感じとった途端、体に活力が巡る。


 「雅しゃんが七竜帝に見つかりそうなんでしゅ!!」

 「っ!?」

 「ごっごめんなしゃい……ボ…ボク…、雅しゃんを……あっ駄目だ!!見つかるっ!」


 レイジルはそう言うと一方的に通信を切断した。七竜帝に察知されるような何かがあったのか…すぐに逆探知をかけ、リドルリアからの通信だとわかり転移を使う。



 そして……運命に出会った。



 リドルリアの宿で初めて彼女の姿を見た瞬間、体の中に流れる血が滾り、竜珠を素手で掴まれた感覚に言葉が何も出なかった。

 今までの精神状態が嘘のように力が漲る。彼女に出会える為の千年だったならば、あの苦行もなんでも無い事のように思えた。そして彼女を傷つけようとする者など許しはしない。



 ***




 「………雅様」



 眠る彼女の手をそっと握り、自分の額へ押しあてる。




 「私は、必ず貴方を守ってみせます」


 

 貴方に頂いた名に恥じぬ様に……

頂いた名……『鈴木』だけどなっ!!(笑)

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