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竜姫  作者: 月下部 桜馬
プロローグ
2/33

2.


 包装からこぼれ落ちる程のたっぷりソース、シャキシャキとした野菜、歯で噛み切った瞬間、溢れ出る肉汁。全部が最高のコラボレーションやで~!!


 「ぅんっまぁぁ!!!」


 往来で叫ぶ事によって人の目が恥ずかしいけれど…今はどうでもええっ!!この感動は皆に伝えなあかんっ!!それに全然無意味とちゃうねんで、2.3人あたしの叫びに釣られてデレデレバーガーを頼んどるし、売上にもしっかり貢献しとる。

 屋台のおばちゃんのウィンクはきっと次回は何かサービスしてくれるって合図やしな。


 あたしもそんなおばちゃんにウィンクを返して、デレデレバーガーを四口で胃に収めてその場を後にした。大食い?そんなん究極の腹ペコりんにはほめ言葉やで。


 シュワシュワ飲料を片手に向うのは城下町の広場。

 城下町って事で多分首都と同じようなもんやろうけど、はっきり言って町の大きさはハンパない。3ヶ月の内の最初の一ヶ月は何や今でもよぅわからん制度で屋台なんかは毎日場所入れ替わってもて地形の把握が全く出来へんかったもんな。おかけでほぼ毎日迷子になってもて…遅刻せぇへんかった日は感動で涙出たもん。

 まぁそんな悲劇の1ヶ月を過ごした事から学んだんは、どんだけ店が変わろうと町が入組んでいようと、この広場を中心にしてジャンル別に町が展開しとるんからどこに用事があってもどんなに遠回りでも広場から向うと迷わへん!って事を習得したんや。


 「うわっ!」


 いつもそこそこ人がおる場所やけど、今日の多さはちょっと異常やった。真ん中の噴水の周りに何重も人垣が出来とって思うように前に進まれへん。


 「何なんやこの混雑は…」


 行きたい場所はまるっきり反対側の道、この人混みを抜けな向われへんわけやけど…すでにかなりウンザリ…っちゅうか既に反対方向へと流されとる今の状態。このまま流されたらぐるっと回って目的地につけそうやけど、いかんせん、どんどん人垣の中心に追いやられてるからそう簡単な話でも無い。


「うわ~最前列来てもたし」


 急に広がる視界の先には口からゴポゴポと水が溢れとる町の象徴の竜石像。レイレイサイズのそれは水を司る青竜をモチーフにしとるとか何とか…習た気がする。


 「え〜っと、青が水で、赤が火やろ…緑が地、黄色が雷、橙が光で、藍が闇やったっけ…ちょお待ってよ…青赤緑黄橙藍、いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ、ろく…あれ?一色たりひん…」


 指が六の小指だけを上げた状態で止まっとる…あと何やったっけ?ほんま思い出されへんわ…あたしがうんうん唸っとると横のおっちゃんから呆れた声をかけられた


 「紫で風だよ。ボクちゃんよ、小ぃせぇ子供でもそれぐらい覚えてるぜ」

 「せやった!せやった!ありがとうおっちゃん!すっきりしたわっ!!」


 がたいのでかいおっちゃんが頭を撫でてくれたんやけど、確実に近所の子供扱いやんなこれ…これで竜騎士でっすとか言った日にゃこんこんと説教されそうな気がするから黙っとこう。

 それにしても余計な事を考えとった間に人垣が強固な物になってもうて、すでにどこにも身動きが取れへん状態になってもてんねんけど…どーしたらえぇんやろか。


 「竜様が帰ってきたよっ!!」


 人垣の後のほうから突然聞こえて来た声。

 声の主は誰かはわからんかったけど、その声をきっかけに広場に地響きが起こる程の歓声が巻き起こった。


 「…み…耳が潰れてまうがな」

 

 耳を抑えながら空を見上げて、ちょっとびびった。


 「おぉ…本物の竜や…」


 空中を旋回しとる五体の竜。しかも旋回しながら下降と上昇を繰り返しとって下降の時には広場が影になって、上昇すれば光が戻る。


 「おぉ〜!!これはほんまでっかいなぁ〜!!」


 目測とか出来へんし、でっかい!とかしか表現出来ひん自分がちょっと悲しなるけど、とにかくでっかい!

 

 「やっぱプテラノドンとかとはちゃうわ〜」

 

 レイレイサイズやとギリギリ自分の知識の中から羽根の生えたノギハラバシリスクが空を飛んでる?とか思えたんやけど、それのでっかいのとか想像でけへんかってんなぁ…せやから空飛んで鳥ちゃうでかいもん言うたら、図鑑とかで見た恐竜しか思い浮かばへんかった。けど、やっぱ全然ちゃう…鱗の頂点って感じやもんなぁ〜


 「うぉ〜かっこええなぁ〜」


 一番最初に竜の絵を描いた人はもしかしたらほんまに現物を見た事があったんかもしれん。ほんま絵本に出てくるまんまやもん。中華的竜より西洋的ドラゴンの形やなあれは…下降してきたって高いところを飛んどるからちっこくしか姿見えへんけど個体によって色とか、形がちゃうみたいやな。


 「…あれに人が乗んねんなぁ」


 う〜ん…かっこええとは思うけど、間近で見るのは話が別やな。だってあんなん間近で見たら絶対びびってちびる…。あたしはレイレイサイズで限界やし、充分や。まぁレイレイが大きなるいうのは話が別かもしれへんけどな


 「…あれに騎乗するのは誰にでも出来る仕事ちゃうわ。単なるエリートなだけか思とったけど騎乗騎士ってすごいねんなぁ…」


 竜達は5分ぐらい旋回行動をして順に城へ下降していった。竜舎の準備がきちんと出来とってよかったわ。坊ちゃん先輩たちやったらまだ半分も終わってへんかったやろうからな。


 「ほんま竜舎の準備が無駄にならへんなんて初めてやなぁ。あの竜達が気に入ってくれるとええねんけど…」


 竜達の姿が消えるのと一緒に人々が解散し始めて町はいつもの賑わいに戻った。

 せやけど聞こえてくる声は今見た竜の話題ばっかりで、やれ久しぶりに五体の帰還やとか、次はいつまで滞在するんやとか、超有名な芸能人ばりに騒がれとる


 「竜ってほんま人気者やねんなぁ」


 確かにあんなかっこよかったらそら人気も出るわ!とは思う。ただ…自分的には簡単に竜騎士見習いになってもたんは良かったんやろか?って疑問が浮かんできた。どう考えても竜騎士って人々の憧れの職業やん…実際に隊の中には貴族しかおらんし…特権階級職業って改めて思うわけでやな…一般ピーとしましてはやっぱこれは職業を考え直した方がええかもしれへんと思てまうわけで。別に人気職に就きたいわけとちゃうし、それどころかどっちかっていうとそういう特権的な仕事に対するやっかみとかは勘弁してほしい…仕事の上司も貴族様とはいえあれやしなぁ…


 「うん、向いてへん。城下町で身分相応な何かええ仕事探そ」


 前の仕事は営業事務やってんけど、この中世に事務なんて仕事があるんやろか…販売員とかバイトでやったら経験あるけどいけるんかな?


 …せやけどこの世界、求人募集ってどうやってしてんの?


 「…これは誰かに話聞かなどうしようもないな。せやっ!宿の女将さんやったら教えてくれるんちゃうかなっ!」


 宿も今は竜騎士見習いとして借りてるもんやし、引っ越しも考えんとな…やる事いっぱいやでっ!! 

 元の世界の考えやけど、居住場所が確定してへん人にまともな職なんてないってのがある。


 「就職の前に、部屋探しやなっ!」


 費用は幸い竜騎士の給料は見習い言うても、巷の給料相場の5倍らしいんで「敷金・礼金」って言われても多分大丈夫やろう。

 あたしはよしっ!って思い切りシュワシュワを飲み干して咽せてもたが、涙目になりながらも自分の仮宿である『ヴェル・グレーン宿』へむかったのだった。


***


 扉に備え付けられたカランカランと響く来客を告げる鈴はいつ聞いても心地よく、疲れた身体に染み渡って癒してくれる。すぐに奥から女将さんのヴェルさんが顔を出してくれた。


 「あら…マサさん?」


 少し驚いた顔したヴェルさんに微笑みながら、近くで売ってた籠一杯のフルーツを渡す。


 「戻りました。これお土産です」

 「お気遣いありがとうございます」


 にっこり笑うと出来るそのエクボ。ええわぁ…そのふくよかな肝っ玉母さんな感じ。その全身包容力はすでに武器やね…もし相手が戦う気満々でも確実に戦意を喪失させる安らぎ感やし。


 「それにしても…竜騎士様が竜様がお戻りなのに帰ってこられて大丈夫なんですの?」


 さすが宿屋、情報が早いやん。


 「もしかしてヴェルさんも広場に来た口ですか?」

 「いいえ。息子が興奮して戻って来たんですよ」


 そういえばヴェルさんの息子は何度か会うた事のあるわ。いっつも竜騎士やったら竜に会わせろ言われんねん。10歳くらいの少年やと思たけど…まぁでも確かにそんな年なら竜みたら興奮してしゃあないやろうな


 「竜騎士言うても『見習い』やから、下っ端は直接竜様に関わられへんのですよ。それに城には腐るほど竜のお世話したい竜騎士がおりますから一人ぐらいおらんでも大丈夫やと思いますし」

 「あらまぁ、そうなんですか」


 今頃城におったらそれこそ雑用に走らされてえらい目におうてた気がするわ。坊ちゃん先輩は喜んでやってそうやなぁ〜。ついでにあたしが帰った事とかはりきって上司に告げ口してんねんやろうなぁ…ほんま脳筋族の行動は単純で読みやすく、うける。

 まっあたし転職予定やし、また最下位になるまで頑張って上司風を吹かせてくれたまえ脳筋族よっ!!


 「せやせや、おかみさん。ちょっと相談のって貰いたい事あるんですけど…」

 「はい。私に出来る事であれば何でもどうぞ。ですけど先にお風呂に入ってこられてはどうですか?


 え?それはどういうこっちゃ…もしかして竜舎の掃除で汗けっこうかいたから匂ってんのですかっ!?あたしさっきまでめっちゃ人混み居たんですけどお〜他の人にも嫌がらせの様に匂いを押し付けとったらあたしショックで死んでまうかもしれません


 「あ、あ、あのそれは…どう…いう」

 「服にデレデレソースが一杯飛んでらっしゃいますよ」


 ぎゃっ!!気付かんかったっ!!これはこれでショックっ!!

 よぅ見ると、パーカーのあちらこちらに茶色いシミが出来とるし…。せやけど良かった見習い!ありがとう見習いっ!!今程見習いで良かったと思った事はない。

 見習いの間は青白の団服の配給が無い、ぶっちゃけ竜舎の掃除がメインで後の仕事も似たり寄ったりな仕事ばっかやから服装は汚れるし何でもええよっ!って最初に部品部の方に言われとった。ただ一応気を使って水色のパーカーにブルージーンズで青系統にまとめたら服の形に首を傾げながらも部品部が『OK』を出してくれてん。

 もしもよっ!あの青白の団服にデレデレバーガーのシミなんてつけようもんなら、それこそ坊ちゃん先輩よりもっと上の青白団服に誇りを持ってる方々に何て言われたか…


 「…よかった。心の底からほっとしたわ…」

 「何だかわかりませんけど良かったですね。ふふっ…さぁ早くお風呂になさって下さいませ」

 「へぇ〜い。行ってきます〜」


 とにかく部屋で一風呂浴びて話はそれからやっ。

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